新型コロナ終息の見通しが立たない中、ドラギ新内閣が誕生したイタリアは、全国的に州・自治県を超える移動の禁止を4月6日まで延長(復活祭は4月4日)した。感染リスクに応じて各州を赤・オレンジ・黄色と分けて対応している。ここ数日、新規感染者と入院者が増加し、新型コロナ変異株流行も懸念されるミラノを含むロンバルディア州は、規制強化でオレンジに後戻り。在宅ワークの推奨とオンライン授業、22時以降の外出禁止、飲食サービスは店内営業が再びストップした。また、昨年暮れからスタートした新型コロナのワクチン接種は、2月末の時点で140万人が接種2回を受けている。今後さらに急ピッチで1日50万回の接種を目指す。
保健省のデータより、2021年3月10日17:59 (イタリア時間) イタリア全土の1日における感染状況は下記の通りだ。
・陽性者22,409名 (ロンバルディア州は4,422名)
・検査件数361,040件 (ロンバルディア州は55,535件)
・入院者489名 (ロンバルディア州は168名)
・死者332名 (ロンバルディア州は70名)
外に出る機会がめっきり少なくなって、早一年。パンデミック以来、ニューノーマルが呼びかけられている。感染リスクを抑え込むためのステイホームをはじめソーシャル・ディスタンス、マスクの着用、リモート化など、ここミラノでも生活スタイルが一変した。
昨年3月に行われたイタリア全土のロックダウンから一年を振り返ってみたい。5月半ばに封鎖が解除されると経済活動は再開し、少しづつ元気を取り戻すかのように見えた。ただ、道のりはとてつもなく険しい。とくに打撃を受けたのは、人との一定距離を保つために店の営業面積が狭くなったレストランとバールだ。そこで、車道や広場の使用に関する規制が緩和され、「デオール」と呼ばれるオープンスペースの設置が許可された。
とはいえ、飲食サービスはテイクアウトとデリバリーが主流となった。変化をおそれず機敏に行動できた店が一歩リードしている。ミラノで唯一ミシュラン1つ星を獲得した日本人シェフ・徳吉洋二は、ロックダウン中に最前線で働く医療従事者たちへ、食事を毎日60食作り差し入れする活動をスタッフの皆と続けた。この社会貢献をきっかけに、これまでのレストランからビオワインとペアリングできる弁当がメインの「Bentōteca(ベントーテカ)」をオープン。現在、配達エリアは市内を飛び越えトリノ、コモなど全18都市まで伸びている。
Withマスクが暮らしのスタンダードとなり、市民は自由なマインドで楽しむようになった。外出が減った分、装いへの情熱が増し、自分の個性を表現するマスクに注目が集まっている。例えば、クチュール技が光る装飾用マスクをオーダーを受けてから制作する「JOVÅN(ヨヴァン)」は、在庫ゼロ、素材を無駄にしないエシカルファッションを実践中。2018年に『VOGUE ITALIA』が主催する若手支援プロジェクト「VOGUE TALENT」のファイナリストのひとりにも選ばれた才能の持ち主で、セレブやミュージシャンを中心に彼らの衣装を手がけるポストコロナ世代のクリエイターだ。
持続可能な社会に向けて、都市交通のあり方も変わりつつある。ロックダウン解除と同時に、大通りは、時速30kmの速度制限や自動車の通行を1車線のみに減らし、自転車レーンに転用した。さらに、自転車ほかキックボードなど電動の個人用移動手段を購入する場合、費用の60%額(最大500ユーロ)を保証するモビリティ・バウチャーまで発表された。公共交通機関の利用にきびしい規制がかかる今、エコな移動手段に市民も大賛成だ。
また、モビリティ変革を後押しするグッズやウエアも人気だ。スウィンギングロンドンを彷彿とさせるデザインと環境にも配慮したレインウェアのスタートアップ「BRAGOON(ブラグン)」は、耐久性にすぐれ、タフで動きやすいパンツを男女兼用、ワンサイズで展開。再生ペットボトル(RePET®)から得られるポリエチレンテレフタレートをマテリアルに使用している。“地球にやさしく、おしゃれで、愉快に”。この三拍子が揃えば、雨の日だって気分が上向きになる。
夏のバカンスは、海外旅行をひかえ、国内で過ごす人が多かった。シーズンピーク時の8月、国内のディスコが一斉に閉鎖された。感染が若い世代の間で広がってしまったからだ。そして迎えた9月の新学期、子供たちははらはらしながら通学した。しかしそれも束の間。10月に入ると新規感染者は増える一方で、高校生以上はまたもやオンライン授業に戻ってしまった。次女が通う中学校でも陽性者が出て、PCR検査を受ける生徒や保護者の話を頻繁に聴くにつれ、対岸の火事とはいえない状況に変わった。
11月、感染拡大を抑えるべく、ミラノは再びロックダウンに入った。春のときのようなスーパーでの買い占めは起こらない代わりに、今回は多様な職種の労働者たちが抗議デモを街頭で繰り広げた。さらにイベントが重なるクリスマスから年末年始にかけて、全国的なロックダウンに。州・自治県を超える移動の禁止は、遠く離れた家族と団らんするかけがえのないひと時まで奪い、人とものが動かない経済も停滞した。
リモート化で環境とコミュニティへの関心が高まる中、自分が暮らす地域へ目を向け、サステナブルについて考える機会を与えてくれたのが、ミラノ初・反廃棄八百屋「Bella Dentro(ベッラ・デントロ)」だ。見た目がわるいために処分されてしまう野菜やフルーツを扱っている。今、世界では食料生産量の3分の1に当たる13億トンの食品が毎年捨てられている。可燃ゴミの焼却はCO2排出、灰の埋め立てなどで地球環境への負担は大きい。「不揃いな形でも食べたらおいしい。それを捨てるなんてもったいない」をコンセプトに、廃棄物問題と真正面から向きあうプロジェクトに私も賛同。これほど心を通わせた地元店はいまだかつてなかったので、自分でも驚いている。
予期せぬことが起こるのには、ずいぶん慣れてきた。最近は、暗いニュースばかりでもない。コロナ禍で仲間や知り合いが、今まで先送りにしていたことや夢などを現実に実行しているからだ。その一人、ほんわか癒される手編みと少女時代の思い出が重なるイラリアは、ニット帽の小さなビジネス「Ilarimei(イラリメイ)」が、スタイルのある人に支持されるRISIほか、数件のショップオーナーの目に留まり、最初の一歩を踏み出した。彼女のように危機はチャンスと捉えて、ニューノーマルをただ守りの姿勢ではなく、今自分ができることからはじめたい。よりよい未来へつむぐために。
※この内容は、2021年3月10日のものです。
Photos & Text: Akane Takadama Editor: Mayumi Numao