ピンクとバイオレットの中間に位置する柔らかな紫色である「モーヴ」がインテリアに使われる機会は、そこまで多くないかもしれない。実際、ベンジャミン・ムーアの2022年の人気ペイントカラーを見ると、上位3位はグレー、ホワイト、ベージュで、モーヴはトップ75にさえ入っていないのだ。
モーヴが注目されていなかった理由のひとつは、その色の位置づけにある。ベージュやグレーといったニュートラルカラーがあらゆるものにマッチし、住宅でも商業施設でも活躍するのに対し、モーヴは長い間、ロマンティックさやフェミニンさを連想するとされてきた。決して悪いことではないが、この色はアクセントとして、あるいはガーリーなスタイルを好む人の部屋に使うのが最適だと考えられてきたようだ。
どんなインテリアにもフィットする、意外なニュートラルカラー
しかし2023年、モーヴはどんな部屋にもマッチするロマンティックなニュートラルカラーとして生まれ変わろうとしている。その証拠に、US版『VOGUE』発のインテリア・トレンド・レポートでは、複数のデザイナーがこのロマンティックなピンク系アースカラーを今年のイット・カラーに挙げた。
「モーヴはトラディショナルだけでなく、モダンな雰囲気にも合う色で、新鮮さを感じます」と語るのは、インテリアデザイナーのハイディ・カイヤー。彼女は最近、ニューヨークのイースト・ハンプトンにある家のベッドルームの壁の色をモーヴに変え、その後ワシントン州のフォックス・アイランドにある別邸でもこの色を使ったそうで、「どんなインテリアにも合う色」だと太鼓判を押す。
インテリア&テキスタイルデザイナーのキャサリン・M・アイルランドも、モーヴの壁紙やテキスタイルをロサンゼルスの自宅に積極的に取り入れているという。「見過ごされている色で、使われていない色なんです」と彼女は言う。一方、インテリアコンサルタントThe Expertの創設者であるジェイク・アーノルドは、ビバリーヒルズの自宅にモーヴカラーの書斎を完成させたばかりだ。「ささやかなスペースですが、とても居心地が良くなりました」と話す彼は、その仕上がりに満足している。「クォーツァイトのコーヒーテーブルとリバティ・オブ・ロンドンのファブリックを使ったセットチェアを組み合わせ、この色のアクセントを加えることで、全体に奥行きがもたらされました」。アーノルドはルル&ジョージア(LULU & GEORGIA)と手がけたラグのコレクションでも、このカラーを大々的にフィーチャーしている。
モーヴが今、注目される理由
ではなぜ今、モーヴが注目されているのだろうか? インテリアの専門家たちは、いくつかの理由を挙げている。アースカラー、特にブラウンは、落ち着きと暖かさを連想させることから、パンデミック中に大流行し、その人気は今も継続中だ。外の世界がストレスに満ちているとき、家の中でしっかりとリラックスし、地に足をつけられるムードが作り出せるというのも、人気の理由のひとつに挙げられるだろう。
しかし、これらのアースカラーを退屈すぎると感じる人もいるようだ。そんな中、モーヴは優しい印象を与えながらも、きちんと“映える”要素を備えている。「人々は自分のスペースにインパクトを加えたいと考えています。そして、モーヴは意外性と親しみやすさを兼ね揃えているため、ちょうどいい色なのです」とアーノルド。「紫やピンクの控えめなバージョンで、馴染みのいい色です。また、温かみも持ち合わせています」。アイルランドも「どんな部屋にも添えられるニュートラルカラー」だと絶賛した。
ミレニアルピンクには一瞬で目を奪われてしまうが、モーブの深い色調は時代を超越した印象を与える。毎年8月になると、スコットランドのハイランド地方では美しいヒースの花が咲き乱れ、この色が永年存在するという。「すぐに飽きてしまうような、派手な色ではありません」とアーノルド。「空間に遊び心をもたらし、フレッシュでコンテンポラリーな空気感をもたらしてくれるのです」
Text: Elise Taylor Adaptation: Motoko Fujita
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