“世界をよりよい場所にしたいのであれば、エンパシーの感覚を持ち続けることがとても大切なんです”
── 今はどこに住んでいますか?
ネバダ州ラスベガスですが、もうすぐニューヨークに引っ越すつもりです。
── 以前『Teen Vogue』のインタビューで、メディアにおけるアジア人表象の重要性について言及されていましたね。どんなときに、それを痛感しますか?
アジア人の表象について考えることは、新しい規範になるべきだと思います。ある特定の時期に重要視されるのではなく、常に重要視されるべきです。アジア人の表象は、単なるトレンドや「今だけ」のものではなく、そうした表象を雑誌で見たり読んだりして育つ女の子たちが、自分たちも重要な存在であると実感できるようにするために必要なのです。あらゆる体型、サイズ、肌の色をした女の子たちが、自分は今のままで十分だと理解すること──それは、若者の成長に不可欠です。
── 姉妹関係について教えてください。
子どもの頃の大好きな思い出は、ユミと私で家族のためにパフォーマンスを披露したり、短いミュージックビデオを作ったりしたことでしょうか。面白いですよね。今では二人とも、実際にミュージックビデオを作っているので、あの経験は間違いなく兆候だったんです。
── 情熱を注いでいることは?
ロックやメタルの曲を作るのが大好きです。音楽は世界共通の言語ですよね。人を動かし、一体感を生み出します。最近、セレーナ・ゴメスの「Feel Me」という曲をロック調にリメイクした曲をリリースしたんです。歌うととても癒されました。リスナーにも同じように感じてもらえたらいいのですが。ロックやメタル音楽をやっているのは、特に、強度の高さとエネルギーの強さ、そして堂々と自分らしさを発揮してもいいように思わせてくれる大胆さがたまらなく好きだからです。辛い時期を乗り越えたり、もう一度人生にワクワクするために聞いてもらえる音楽が作れればいいなと思っています。そして、私は動物も大好きなんですが、それは動物たちが私の変化や心の柔軟性を象徴しているからです。以前は、鳥はうるさいイメージもあり絶対に飼わないと言っていました。でも最近、自宅のプールで溺れかけていたウズラの赤ちゃんを保護したら(スプラッシュと名付けました)、今では愛おしくて仕方ありません。小さい頃は、モルモットやウサギ、ハツカネズミ、ハムスターなど、ヘビの餌になる動物をたくさん飼っていたので、ヘビが嫌いだとも言っていました。でも、大きくなってから、家の中でヘビを見つけてしばらくともに時間を過ごしたときに、ヘビという生き物がすごく誤解されていて、メディアによって悪者に仕立てられていたことに気づきました。それは私が、体型やアジア文化が正しく表現されているメディアを見ずに育ったことにも通じます。今は、体長約180センチのボア・コンストリクターという南米の大蛇(名前はブロッサム)と2匹のボールニシキヘビ(ネリーとスーキー)を飼っていて、周囲にもヘビは本当に素晴らしい生き物だと力説しています。私は動物たちから「絶対なんてことはない」と教えてもらいました。だから今は動物を救うことの素晴らしさを伝えています。
── ファッションがあなたの価値観や信念において果たす役割は?
ファッションは創造力で人々をつなぎ、力を与えます。ファッションには快適な空間であるコンフォートゾーンから抜け出し、一人では思いつかないようなアイデアを共有したいと人に思わせる力がある。こうした全部の要素が、私のなかにある喜びと情熱に火をつけ、深く共鳴しているんです。
── 世界の現状をどう捉えていますか? また、世界を誰にとってもよりよい場所にするために何ができると思いますか?
世界は、大きく前進してきたと同時に、大きく後退もしてきたと思います。進歩してしまうと、もとには戻せないと言われていますよね。私たちは歴史を繰り返しているのかもしれませんが、かつての私たちと同じであり続けるわけではありません。今の時代、人々はより多くの情報を得て、より大きな声を上げ、より強い共同体意識を持っています。団結して、いろいろなことに意識を向け、それぞれの違いを脇に置き、共通点を見つけること、それが世界を誰にとってもよりよい場所にする方法だと思います。そうやって、私たちはともに強くなっていけるのです。地に足をつけ、周りの世界にもっと意識を向けるために、毎日何かをするのが好きですね。瞑想をはじめ、呼吸法を実践したり、気づきに関するオーディオブックやポッドキャストを聴いたり、飼っている動物や友人たちと一緒に外で過ごしたりしています。自分のためにしかならないことのように思えるかもしれませんが、自分のエネルギーを大切にすると、ポジティブな勢いがぐんぐん広がっていくんです。そして、私たちはみな一つで、何かより大きなものの一部であることを思い出すことができる。世界をよりよい場所にしたいのであれば、そうしたエンパシー(共感)の感覚を持ち続けることがとても大切なのだと感じます。
── 社会が急激に変化するなかで、ご自身もムーブメントの一端を担っていると感じますか?
はい、確実に。最近、あるファッションブランドについてのドキュメンタリーを観たんです。いかにブランドの目的が、幻想や実現不可能なものを売ることから、リアルな体を見せたり、インクルーシブの意識を高めたり、多様性を称賛したりすることへと発展していったかという内容でした。あるシーンには、体型や体格がそれぞれ異なる、私のモデル仲間が何人か映っていました。そのときモデルとして、そうした映像は、私たちよりもはるかに大きな力を持っていると気づいたんです。そのドキュメンタリーは、ものの見方を変えることについてで──それがいかに私たちの願望や、美に対する考え方、社会的信念を再構築し、価値観や自己満足の捉え方を変えるかを示していました。そのような大きくてポジティブな影響力の一部でいられることを光栄に思います。
── モデルという仕事を通じて、ファッションをどう変えていきたいですか?
以前はもしかすると、ただかわいい顔をしたマネキンのようなものだったかもしれません。でもこの業界は大きく変わり、今やモデルはそれ以上の存在として見られるようになりました。今は、夢や才能があり、世の中にさまざまなものを提供したいと思っている人間として見られていると思います。この業界で働き続けるなかで、広告に登場する私を見た人が、私に共感し、私のなかに自分自身を見ることができればうれしいですし、多様性を表現する力を通じて、その人自身の美しさを映す鏡になれたら、と願っています。
Profile
ナタリー・ヌーテンブーム
プラスサイズモデルの先駆者的存在として2017年にデビュー。叔母はデヴォン青木、叔父はスティーヴ・アオキ、姉は同じくモデルのユミ・ヌー。IG: @natalienootenboom
問い合わせ先/
グッチ ジャパン クライアントサービス 0120-99-2177
Translation: Miwako Ozawa Editors: Tiffany Godoy, Mihoko Iida, Yaka Matsumoto Special Thanks: Morgan Senesi