ビューティーブランドであるLove Wellnessの創設者、ロー・ボスワースが暮らすニューヨークのアパートメントには、もともとホームオフィスが設けられていた。しかし、その空間がやや閉鎖的だったこともあり、ボスワースは開放感のあるキッチンテーブルで在宅ワークをすることが多かったという。ホームオフィス空間を無駄にしたくないと思った彼女は、数カ月にわたる検討の結果、この部屋にClearlight社の赤外線サウナを設置することを決意。Amazonでオーダーしたジム用フローリングを床全面に張った。
現在はそのホームオフィスだった空間で、ほぼ毎日ドライサウナを楽しんだりトレーニングクラスをオンラインで受講したりしている。「デッドスペースだった空間を、頻繁に使う部屋に生まれ変わらせました」
高まるリラクゼーション空間へのニーズ。
今、彼女のように自宅インテリアを通じてウェルネスを高めたい人が急増中だ。アメリカインテリアデザイナー協会が最近発表したレポートでも、2022年のインテリアデザインにおけるトップトレンドのひとつとして「健康とウェルネス」が挙げられている。同レポートでは「住宅所有者は、健康や全体的なウェルビーイングを促進するデザインや製品を求めるようになっている」と言及している。
では、家庭における「ウェルネス」とは具体的にどのようなものなのだろうか? ボスワースのような人々にとってのウェルネスとは、リラクゼーションを目的とした専用空間を設けることを意味する。
インテリアデザイン事務所であるProspect Refugeの創設者、ヴィクトリア・サッスによると、赤外線サウナや瞑想スペースが顧客に高い人気を得ているという。「最近は、ほぼすべてのプロジェクトで、少なくとも一カ所はウェルネス専用空間を設けていますね」とサッスは話す。
しかし、ウェルネス空間をひとつだけにする必要はない。住宅全体のコンセプトとしてウェルネスを掲げても良いのだ。ファッションデザイナー兼インテリアデザイナーのジェニー・ケインは、カリフォルニアにある8ヘクタールもの牧場を「ゆったりとした丁寧な暮らし」を重視した別荘に作り変えた、と語る。家のバスタブからは壮大な山並みを堪能でき、裏庭にはハンモックが点在。プールにはリラックスするのに充分な空間が確保されている。
自然とつながる落ち着いたデザイン。
ニューヨークに拠点を置くINC Architecture & Designのクリエイティブディレクター兼マネージングディレクターのアダム・ロールストンは、自身が設計する建物ではウェルネスが最優先事項になりつつあると話す。ロールストンが設計したブルックリンのマンションには、瞑想用ガーデン、ヨガ、ボクシングやピラティスのためのスタジオスペース、日光を浴びてビタミンDを生成するための「サンキャッチャー」ラウンジなど、まるでスパのようなアメニティ空間が建物全体に設けられている。
このマンションには、ワンフロア全体が3つに分かれた回遊型ウェルネス施設がある。まず赤外線ドライサウナに入り、次にウェットサウナを楽しみ、最後に冷水シャワーを浴びることができるのだ。さらにマンション全体の設計でもウェルネスが考慮されている。「バイオフィリックデザイン(自然に囲まれた環境を彷彿とさせるデザイン)の要素を取り入れ、軽やかで落ち着いた、清潔感溢れる空間を実現しています。屋外スペースへのアクセスや自然光を重視しました」とロールストンは説明する。
コンパクトなスペースに暮らす人たちの間でも、暮らしのアクセントとしてインテリアにウェルネスを取り入れるのが主流になりつつある。水晶、晶洞石、メノウなど、ポジティブな力を授ける効果で知られるパワーストーンは、ホームセンターでも販売されるようになった。たとえば、気分の向上、睡眠改善、アレルギー緩和などの効果があるとされるヒマラヤ岩塩のランプは、2017年以降、Googleでの検索数が急上昇しているそうだ。
自宅=自分を元気づけてくれる場所。
なぜこれほどまでにウェルネスデザインが注目を集めているのだろうか? ウェルネスは真新しい概念でも旬の流行語でもない。しかし、これは2020年にアメリカ人のメンタルヘルスが過去最低水準を記録したことと関係があるのかもしれない。
アメリカ心理学会の調査によると、「パンデミック期間中にストレスを感じた」と回答した成人は67%、「コロナ禍のストレスが(自身の)言動に悪影響を及ぼした」と回答した成人は、ほぼ半数いた。さらに、世論調査会社のギャラップが2020年に、116カ国の成人を対象として「穏やかな人生と刺激的な人生のどちらを選ぶか」というアンケートを取ったところ、72%が前者を選択したという。簡単に言えば、パンデミックの期間を経て、今はただ落ち着いてリラックスしたいと考える人が増えた、ということのようだ。そして、そんな思いを実現するための最高の場所が、私たちの住まいなのだ。
「この2年間、私たちはほとんどの時間を自宅で過ごしてきました。これこそが、誰もが自宅空間でのウェルネスに改めて重きを置くきっかけになったのだと思います。家はもはや、長い一日の終りに帰るだけの場所ではありません」とケインは語る。「家はあなたらしさを反映し、あなたが最高の状態であるよう元気づけてくれる場所でなくてはなりません」
Text: Elise Taylor Translation: Fraze Craze
From: VOGUE.COM