2001年1月号が発売されたのは21世紀へのカウントダウンが始まったころ
大映像時代がはじまる、と断言する。電子メールの代わりに、メッセージを話す自分を映したビデオメール。携帯電話にカメラがついて、どこからでも生中継。通信機能内蔵ビデオカメラで撮った映像を、渋谷駅前大画面やテレビでそのままオンエア。そんな、大映像時代がいよいよはじまる」
これは、今からおよそ22年前、2001年1月号のヴォーグジャパン(当時は「ヴォーグ ニッポン」)の綴じ込み付録「e-vogue」に掲載された、ハイパーメディアクリエイターの高城剛による巻頭コラムの冒頭の一節である。本号のカバータイトルは「『21世紀のすべて』が知りたい!」。そう、それまでの20世紀は終わり、西暦2001年1月1日から21世紀が始まったのだ。カバーガールは当時21歳だったアンジェラ・リンドヴァル、フォトグラファーはトマス・シェンク。「最先端モード空間ガイド」特集には、ヘルツォーク&ド・ムーロンによるプラダ(PRADA)青山、レンゾ・ピアノによる銀座メゾンエルメス(HERMES)、そしてジャン・ヌーヴェルによる電通本社ビルが「完成が楽しみな建設中のビル」、として紹介されている。まだ表参道のディオール(DIOR)(2003年竣工)も、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)(2002年竣工)もこの世に存在しない。そんな時代だ。そしてこの号の発売日である2000年11月28日に合わせて、ヴォーグのオフィシャルウェブサイトがローンチしたのである。
この号の綴じ込み付録として企画された「e-vogue」別冊のラインアップには、「オンラインショッピングのハウツー・ガイド」や「DVD搭載のノートPC」「ウェブデザインの美学」「個性が光るデジタルカメラ」といった企画のほか「21世紀の必須アイテム」としてPalm(PCデータを持ち歩ける携帯情報端末)が紹介されるなど、今のミレニアルズ世代には想像もつかないであろう“ちょっとふしぎな21世紀初頭の世界”がズラリ。特別付録はCD-ROM。パソコンにCD-ROMをセットすると、そこからヴォーグのウェブサイトに直接アクセスできるのです、という仕組みである。「それ、いったいいつの時代!?」的な懐かしさを感じさせるそれらの特集群の中で、冒頭に紹介した高城剛のコラムは、現在の「大映像時代」を見事に予言していた。のちに、ジャーナリストの津田大介はそのコラムについて「っていうか、高城剛がVOGUEで予言してた時点ではiPodもこの世に出てきてないからねえ。」とツイッターに投稿(2011年2月)。津田は、ヴォーグジャパン2011年5月号の対談で当時をこう振り返る。「(2000年11月末の時点で)高城剛さんは予想してたよね。iモードが99年くらいにスタートして、写メールが登場して、10年前の01年ってようやくADSLが普及し始めたばかりだった。モバイルでこれだけインターネットができるようになることはわからなかった。(中略)高城さんは01年当時に、もう数年で現実になるよって言ってたわけです。まだYouTubeもないし、ブログもなかったのに」
なお、津田がそう語った2011年5月号の別冊付録「私ももっと、デジタルしたい。」のコンテンツラインアップも今となってはなかなか味わい深い。「2011年式デジタルガールが押さえておくべき基礎知識」としてツイッターやフェイスブックなどSNSの紹介や、ファッションブランドのスマートフォン用アクセサリーが紹介されている。そしてグッチ(GUCCI)が2011年秋冬コレクションでライブストリームを試みたというニュースも掲載され、寄稿したイギリス人ジャーナリスト、ジェーン・オーダスはそこにこう記していた。「こうしたライブストリーミングがファッション業界全体に悪影響を及ぼすのではないかと心配する者もいる。つまりファッションがより消費者主導型となり、創造性が失われるのではないかという懸念だ。しかし、変化を受け入れるべき業界があるとするならば、それはファッション業界にほかならない。(中略)ファッションは常に変化の中にある。それがファッションのあるべき姿であり、止まってはいけないのだ。今日ここにあるものが、明日には消えているかもしれない。しかしそれでいいのである」
2001年1月号の高城剛は私たちに語りかける。「高度移動システムで、自動車は自動運転になり、プリセットすれば目的地まで寝てても到着。コンビニが家庭用にリースする冷蔵庫は、万能秘書AI機能つきなので、パーティーの前日にビールを勝手にオーダー。こんな話の数々は、遠い未来のSFではない。わずか、ここ10年の現実である」と。「いま、あなたが手にしている携帯電話の先に、『空飛ぶ自動車』や『月世界旅行』が、きっとある。そんな馬鹿な!? から、すべてがはじまるのです」
彼が予言した未来は、私たちが生きる今だ。10月号のメタバース特集に書かれた「予言」の数々もまた、数年後の私たちにきっと同じ思いを抱かせてくれるのだろう。
Text: Mayumi Nakamura