LIFESTYLE / CULTURE & LIFE

人間の枠を凌駕する、異種間の愛を紡いだ6つの物語。【美しき愛を描くロマンス作品 vol.5】

愛は境界を超える。それがたとえ同じ“種”ではなかったとしても。金魚や妖精、人工知能、果てはぬいぐるみまで。本気で向き合ったときに芽生えるピュアな想いと、その先に見出される未来を描く絵本や映画で、愛の奥深さを感じよう。

Photos: Shinsuke Kojima 

絵本『ぼくの ポーポが こいを した』 村田沙耶香著/岩崎書店(2020)

日曜日、おばあちゃんとぼくのポーポが結婚する。おばあちゃんは人間で、ポーポはぬいぐるみなのに。ぼくのお母さんはふたりいる。ウエディングドレスは真っ黒。『コンビニ人間』の村田沙耶香による恋の絵本は、既存の常識に縛られない、どこまでも自由な関係性が描かれている。

小説『蜜のあわれ われはうたえども やぶれかぶれ』 室生犀星著/講談社(1993 ※初版は1959)

自分のことを「あたい」という赤い金魚はコケティッシュな小悪魔のよう。「おじさま、人を好くということは愉しいことでございますという言葉は、とても派手だけど、本物の美しさでうざうざしているわね」。老作家と交わす変幻自在の会話劇はファムファタルとの道行きさながら、危うい魅力に満ちている。

ドールが人と人をつないでいく。

Photo: Photofest/AFLO

映画『ラースと、その彼女』 クレイグ・ガレスピー監督(2007)

幼い頃のトラウマから人とのつながりを避けて生活する青年ラース(ライアン・ゴズリング)が、兄夫婦との食事にガールフレンドとして連れてきたのは、等身大のリアルドールだった。最初は戸惑う兄夫婦だったが、精神科医からラースの妄想を受け入れるよう助言される。ビアンカを生身の人間として愛するラースの存在が、みんなの心を変化させていく。

胸ポケットに入れた“彼女”と見る世界。

Photo: Warner Bros. Pictures/courtesy Everett Collection/amanaimages

映画『her/世界でひとつの彼女』 スパイク・ジョーンズ監督(2013)

舞台は、近未来のロサンゼルス。手紙の代筆ライターの仕事をするセオドア(ホアキン・フェニックス)は、別居中の妻のことが忘れられずに、憂鬱な日々を送っていた。そんなときに心の穴を埋めてくれたのが、人工知能OS「サマンサ」。スカーレット・ヨハンソン演じる魅力的な声に導かれ、彼の人生が再び輝き始める。

コンピューターと人間のモダン・ラヴ。

Photo: Getty Images

シングル「Modern sleep over」 タルク(2006)

世界中の音楽好きから支持を得る、UKの音楽プロデューサーデュオ、タルク。人間の女性と最先端のコンピューターとの恋愛を描いた、「Modern sleep over」は、特に名曲の誉れが高い。「僕にウイルスはなくきちんと保護されている」「君には全面アクセス権を与える」など人間同士の恋愛比喩にも置き換えられる歌詞が知的。

水の精と王子の悲恋。

Photo: Getty Images 

オペラ『ルサルカ』 ギレルモ・デル・トロ監督(2017)

人魚姫伝説に基づいた本作は、天才的メロディー・メーカーと称されたドヴォルザークが手がけたオペラの中でも、ロマンティックな旋律を場面場面で堪能することのできる悲恋の物語。森に棲む水の精ルサルカは、美しい声と引き換えに人間の姿を得て、王子へのひたむきな思いを叶えようとするが……。物語のハイライト、「死の接吻」には思わず涙せずにはいられない。

Text: Harumi Taki(Book), Tomoko Ogawa(Movie), Masami Yuki(Music, Opera)  Editor: Airi Nakano