今回紹介するなかでは最も猟奇的と言えるかもしれません。聴覚に障がいを持つ女性が主人公なのですが、その設定が怖さの肝にもなっています。韓国ドラマの傾向として、社会問題を取り込んで複雑な背景をしっかりと描く作品も増えていますが、映画は怖さを楽しませるエンターテインメントとして振り切っているものも多い。今作も、異常な連続殺人鬼が執拗に襲ってくる怖さを純粋に楽しむ、というサスペンス・スリラーです。
キャストには韓国ドラマファンにも顔が知られている演技のうまい俳優たちが多数集結しているので、韓国ドラマのファンはそのあたりもぜひチェックしてみてください。普段ドラマでは好人物を演じることの多いウィ・ハジュンが、鬼畜のような殺人鬼を怪演しています。芝居がうまい役者たちがドラマと映画で見せる裏表の演技のギャップも韓流作品の楽しみのひとつですよね。
『殺人鬼から逃げる夜』(9/24公開)
CAST
チン・ギジュ「2度目の二十歳」「ここに来て抱きしめて」「リトル・フォレスト 春夏秋冬」
ウィ・ハジュン「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」「ロマンスは別冊付録」
パク・フン「太陽の末裔」「アルハンブラ宮殿の思い出」「ヘチ 王座への道」
キム・ヘユン「SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜」
キル・ヘヨン「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」「ある春の夜に」
次は時空を超えるホラー・サスペンス映画です。韓国のトップ俳優のひとり、パク・シネが主人公を演じています。主人公の父親は事故で亡くなっているのですが、過去から主人公に電話をかけてくる女性が、過去において父親を救ってくれる。ただ、電話の主が過去を改変するたびに現在が変わってしまう。その恐怖がとてもよく描かれています。パク・シネの演技はもちろん、過去に生きる殺人鬼役の怪演も圧巻です。
実は、韓国では映画ドラマ問わず、過去へ戻ったり時間がループするという設定の作品がものすごく多い。過去を書き換える、ということが韓国文化のひとつのテーマにもなっているのではないかと思うほどです。過去に戻る、時空がかわる、といった韓国で親しまれている定番的な設定に、ホラー要素をうまく足しているのが今作のポイント。と言いつつ、実はプエルトリコの映画『恐怖ノ黒電話』のリメイク作品なのですが。電話のむこうとこっちでなぜか20年の差がある。理由はわからないけれど、設定として楽しめてしまう。キャストの演技で魅せきり、あっと驚くエンディングまで一瞬たりとも飽きさせません。
『ザ・コール』
Netflix映画 独占配信中
CAST
ヒロインのパク・シネ「ピノキオ」「アルハンブラ宮殿の思い出」「七番房の奇跡」
チョン・ジョンソ「バーニング 劇場版」
オ・ジョンセ「サイコだけど大丈夫」「椿の花咲く頃」「スウィング・キッズ」
韓国文化の王道「ループもの」のなかでもとてもよくできている作品です。娘が事故死してしまう一日を繰り返し体験し続ける父親が主人公なのですが、主人公の父親以外にも、そのループに陥っている人物がふたりいます。ひとりは事故を起こすタクシーの乗客で、やはり命を落としてしまう妊婦の夫。もうひとりは事故を起こしたタクシーの運転手です。
父親は悪夢の一日を繰り返すなかで、日々少しずつ対応を変えて事故を防ごうとするのですが、実は3人をめぐる過去に因縁がある。相互理解が生まれない限り、決定的な要因にはたどり着けず、悲劇は繰り返され続けてしまうという、とてもよく練られたストーリーなのです。「梨泰院クラス」で主人公をいじめ抜く悪役を演じ、「ビンチェンツォ」で主人公を助ける弁護士を演じているユ・ジェミョンが、タクシー運転手という深みのあるキーパーソンを演じています。どの作品も自信を持っておすすめしますが、今回紹介する映画3作品のなかでは、個人的にはこの作品がイチ押しです。
『エンドレス 繰り返される悪夢』
アマゾンプライム、U-NEXTなどにて配信中
CAST
キム・ミョンミン「特別捜査 ある死刑囚の慟哭」「六龍が飛ぶ」
ピョン・ヨハン「あなた、そこにいてくれますか」「太陽は動かない」
ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」「ビンチェンツォ」「花郎(ファラン)」「ブリング・ミー・ホーム/尋ね人」
韓国のドラマは1話60分以上で16話がベース。そういう意味では日本のドラマより平均して3倍以上の尺がある。なので、社会問題を描くにしても、その背景も含めかなりしっかり深く描けるのです。そして日本のドラマと比べると、撮影機材のレベルが圧倒的に違うのも特徴。そのため映像の迫力とクオリティがものすごい。ハリウッド映画を見ているような感覚で映像も楽しめます。
さて、このドラマは基本怖くはない。ですが、新四天王(イ・ミンホ、イ・ジョンソク、キム・ウビン、キム・スヒョン)のひとりでもある大人気俳優キム・スヒョン演じる主人公と超名優オ・ジョンセ扮する自閉症の兄は、母を猟奇殺人鬼に殺されているんです。そしてその殺人犯として疑われている女の娘を、ソ・イェジが演じています。ひとりで豪邸に暮らす絵本作家という設定で、彼女もひょっとすると殺人鬼なのかもしれない。ちなみに彼女が描く絵本は、ティム・バートンとかギレルモ・デル・トロの映画のようなちょっとダーク・ファンタジーな世界観の童話です。ツンツンしていてキツめの性格の女性なのですが、兄弟とかかわり合うことで物語が展開します。
自閉症の兄はとても絵が上手で、彼女と絵本を共作したりもするようになる。3人が過去の共通の問題を解決して未来に向かうという話で、後半はものすごい感動作。号泣させるドラマになっています。ちょっと怖く始まり、スリルがあって、絵本やファンタジーの要素も絡めつつ、『レインマン』的兄弟ドラマもあって……そのへんをすべてうまくミックスさせている秀作です。去年観た韓国ドラマのなかではいちばん面白かった作品です。
ドラマ「サイコだけど大丈夫」
Netflixシリーズ 独占配信中
CAST
キム・スヒョン「ドリームハイ」「太陽を抱く月」「シークレット・ミッション」「星から来たあなた」「プロデューサー」
オ・ジョンセ「スウィング・キッズ」「椿の花咲く頃」「ストーブリーグ」
ソ・イェジ「花郎(ファラン)」
監督が「太陽の末裔」や「トッケビ」など、ヒット作を連発しているイ・ウンボクで、巨額を投じて製作されたドラマです。ビジュアル的にも、今回紹介する6作品のなかでもっともインパクトがある。
ストーリーは、言ってみればゾンビものの亜流で、「進撃の巨人」的ニュアンスも入っていますし、永井豪原作の「デビルマン」の影響を受けているのかなと感じさせるような世界観の作品です。謎に怪物化した元人間たちが襲撃してくる近未来で、ある共同住宅に立てこもった人たちのドラマを描いています。過去になにか悲惨な経験をしていると、そのときの感情が怪物化するようなのですが、主人公もひきこもりで自殺を図った過去がある。登場人物たちの悩みを描く過程で、韓国が抱える社会問題が丁寧に捉えられてもいて非常に見応えがあります。
リモートワークが浸透したwithコロナの時代に観ると気持ちを重ね合わせられる部分も多いのかな、と思います。まだシーズン1が終わったばかりで、今後ストーリーがどう展開していくかは個人的にも楽しみです。
ドラマ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』
Netflixシリーズ 独占配信中
CAST
ソン・ガン「恋するアプリ」「ナビレラ」「わかっていても」
イ・ジヌク「怪しい彼女」「時間離脱者」「ボイス2」
イ・シヨン「聖女mad sister」
悪事を犯す人々は悪霊に取り憑かれている。そして悪霊は人間の魂を食べて進化・強化するため、さらに殺人などを重ねていく。そんな悪霊たちを退治するための一団がカウンターズです。表向きにはククス(韓国麺)の人気店を営んでいるメンバーですが、実はみな、過去に生死の境をさまよった人たち。悪霊を退治して地獄へ召還する任務を負い、特殊能力を与えられて現世に戻されています。両親を事故で失い、自身も足に後遺症を追った主人公もその一員。
ミステリー・サスペンスにホラー・ファンタジーの要素が加わり、さらにコメディタッチな演出もあり、キャストはみんな人気ドラマの俳優たち。一見するとソフトで、子どもだましにも思えるのですが、実は警察や政治の汚職やイジメなどの社会問題にもすごく深く切り込んでいて見応えがあるドラマです。最近の韓国ドラマには、今回紹介した3作のように、現実に連なる社会の問題がしっかり描かれているものが増えているなと感じます。
ドラマ『悪霊狩猟団:カウンターズ』
Netflixシリーズ 独占配信中
CAST
チョ・ビョンギュ「SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜」
ヨム・ヘラン「椿の花咲く頃」「刑務所のルールブック」
キム・セジョン「恋するレモネード」
Text: Yaka Matsumoto, Jun Edoki
