LIFESTYLE / Travel

恵みの湯がこんこんと湧き出る、北海道の海辺と山間の宿。【源泉かけ流しの宿】

一年の疲れを癒してくれるプレミアムな温泉宿に今月はフィーチャー。熊本の黒川&白川神奈川の箱根&湯河原山形の赤湯に続き、最終回は北海道から。海に面した平屋造りの和モダンの宿と野趣あふれる山間の秘湯の宿という、渡島半島の東西に位置する2スポットで、豊かな源泉を満喫しよう。

濃密なミネラルを含む「薬源の湯」。

塀の外側の漁師町の光景とは切り離された非日常の世界。
敷地内の地下から沸き出す源泉は、ミネラルが豊富なにごり湯。

北海道の南側に突き出た渡島半島。その日本海側に位置する江差町にある温泉宿「江差旅庭 群来(くき)」。かつてニシン漁で盛えた江差を思い出させるかのように、産卵期のニシンが大挙して押し寄せ、産卵によって海が乳白色に染まる光景を指す「群来」と名付けた。

海と隔てるのはコンクリートの高い塀だ。その内側では地下1407mの古代地層から湧き出る48.4度という絶妙な温度の源泉を利用した100%天然温泉が楽しめる。地層のミネラルが溶解した濃密なにごり湯は、群来自慢の「薬源の湯」。バブル効果のあるナトリウム炭酸水素塩が皮膚を軟化して、角質を取り去り、美肌へと導いてくれる。硫酸塩泉としての効果もあり、血行がよくなることで老廃物が排出され、体の新陳代謝を促すという。各室に完備した源泉かけ流しの風呂で、この貴重な大地の恵みを好きな時に好きなだけ味わうことができる。

塀で仕切られたモダンで非日常の空間。

玉砂利を敷いて海を表現した庭とモダンな木造平屋造りの客室。
食材の多くはオーナー夫婦が自家農場で育てたもの。自給率は最大で70%にも。

デザインを手がけたのは、北海道出身の気鋭の建築家、中山眞琴。景観を守るために、目の前の海がギリギリ見える高さに調整した塀で仕切られた空間に、モダンな平屋造りの客室が全7室。それぞれが離れのように独立していて、一面に石を敷き詰めて海を表現した庭を臨む。人と環境に優しい宿を目指して、館内の暖房には灯油や電気ではなく温泉熱を利用している。

食事は、『料理の鉄人』で活躍した中村孝明が監修し、料理長の辻廣裕輝が腕を振るう。食材は宿から25km以内で収穫、水揚げされたもののみを使用。オーナーが約25年前に始めた自家農場「拓美ファーム」は、ストレスフリーの飼育環境づくりなどの工夫を重ね、今では300羽を超える北海地鶏をはじめ、サフォーク種の羊、野菜、山菜など、安全安心な食材を供給している。モダンでエシカルな宿で、濃厚なミネラルの良泉とこだわりの食材を使った美食で満ち足りる。

江差旅庭 群来
北海道檜山郡江差町姥神町1- 5
Tel./0139-52-2020
料金/1人1泊(2名1室・2食付)32,550円~(2018年12月現在)
https://www.esashi-kuki.jp/

「銀婚」の名に魅かれて、カップルも集まる山間の湯。

市街地から離れた山の中にある野趣あふれる秘湯の宿。
露天風呂は源泉2本を混合した「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉」。

江差町から道道67号線を北東へ1時間ほど、夏は渓流釣りが盛んな落部川の中州に、温泉ファンが愛して止まない上の湯温泉「銀婚湯」がある。数百年の昔からアイヌの人々が狩りの疲れや傷を癒したとも言われる山間の秘湯だ。創業者が源泉を掘り当てた同じ時期に、大正天皇の銀婚式があったことから、「銀婚湯」と命名。今では湯治客に加え、銀婚式を祝う夫婦や夫婦円満を願う新婚客も多い。

敷地内には5本の源泉があり、毎分170リットルもの温泉がこんこんと沸き出ている。大浴場、露天風呂、家族風呂など11の湯船はすべてかけ流し。泉温は60度〜95度とかなり高いため、一部地下水を加えて適温にしているが、水道水などは一切使わない100%自然の湯だ。泉質は源泉ごとに微妙に異なり、弱アルカリ性の「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉」など。効能豊かで、ストレスや疲労回復、肩こり、神経痛などに効くほか、皮膚病、切り傷や火傷にも特効があると評判だ。

森に点在する野天風呂で、秘湯気分を満喫。

落部川の畔にある野天風呂「トチニの湯」は源泉1本を専用で使う。

Instagram content

This content can also be viewed on the site it originates from.

人々を「銀婚湯」に向かわせる理由の一つが、温泉を包み込む深い森。16,000㎡を超える広大な敷地の中には、散策路に沿って野天風呂が6つと足湯が1つ、野趣あふれる「隠し湯」が点在している。「どんぐりの湯」、「もみじの湯」などと名付けられた源泉かけ流しの野天風呂に浸かりながら、マイナスイオンを全身に浴び、鳥のさえずりや川のせせらぎを聞く。自然との一体感が何よりの贅沢だ。

料理長が一品一品心を込めた滋味深い料理にも定評がある。鮮度抜群の地鶏の肉に、きのこや山菜、野菜たっぷりの宿自慢の「鶏鍋」は必食。近くの松永農場の平飼い鶏の「遊楽卵」も味わい深く、鶏鍋のおいしさを引き立てる。余計なものは何もない、あるのは心身を温めてくれる湯と豊かで素朴な自然だけ。一度訪れるときっと忘れられなくなる、誰しもがそう感じる名宿だ。

銀婚湯
北海道二海郡八雲町上ノ湯199
Tel./0137-67-3111
料金/1人1泊(2名1室・2食付)10,950円~(2018年12月現在)
http://www.ginkonyu.com/

Text: Yuka Kumano