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スーパーモデル、アドゥ・アケチが妊娠──母親になる彼女が今語ること

パートナーとの間に第一子を妊娠したことを発表した、スーパーモデルのアドゥ・アケチ。南スーダンで生まれ、幼少期をケニアの難民キャンプで過ごし、8歳のときに渡豪。やがてカール・ラガーフェルドなど、世界の名だたるデザイナーやメゾンのミューズを務めるまでになった彼女が、家族と子育てについて語る。
アドゥ・アケチ
Styled by Emma Kalfus; Makeup by Samantha Patrikopoulos.Photo: Pierre Toussaint

妊娠に気づく直前、アドゥ・アケチは妹が妊娠している夢を見た。あまりにも鮮明な夢で、夜中に目覚めた彼女は、ぼんやりとした意識の中で慌てふためきながら妹に電話をした。「大丈夫、それは絶対にない」と断言されたという。

しかし、今思い返せば、その夢を境に多くの前兆が現れ始めた。翌日、彼女はオレンジを異常に欲し、家で皮を剥き続け、外出先でも食べられるように、スライスしたものを袋に詰めてカバンに入れた。その翌日、今度は今まで経験したことのないような疲労感に襲われた。たしかに、パリヴァレンティノVALENTINO)のショーに出席し、いくつかの撮影をこなし、地元のオーストラリアに帰国したばかりだったが、第一線で活躍するモデルとして、昔からこういったスケジュールには慣れているはずなのに。

そして、ついにその日が来た。「サービスセンターまで車を取りに行ったんです。もちろん、袋に詰めたオレンジを持って! そしたら帰り道に吐き気がしてきて」とアケチは振り返る。その瞬間、妊娠検査薬を必要としているのは、妹ではなく、ほかでもない自分なのかもしれないと気づいた。5つの検査薬を使ったが、結果はどれも同じ。すべて陽性で、彼女は間違いなく妊娠していた。

現在、アケチは24歳。アメリカの初産婦の平均年齢より3歳若い。「子どもと一緒に成長していけるのはすごく素敵なことだと思うので、昔からずっと、若くして母親になりたいと言っていました」。実際、20歳のときに自分を出産したという母親とは、その理想としている関係にあるという。「年齢差がどれくらいあるかによって、親子間の仲のよさが大きく変わってくると思います」と彼女は話す。それに、アケチは大の子ども好きだ。少なくとも4人は欲しいが、理想は5人だ。もし双子を授かったら、6人でもいいという。

ブレザー パンツ/ともにACNE ブラレット/ERES Styled by Emma Kalfus; Makeup by Samantha Patrikopoulos

Photo: Pierre Toussaint

お腹の第一子は順調に育っている。「調子はいいです。ワクワクしていて、会える日が待ち遠しいです。もう、とにかく早く会いたいです。まだ妊娠中期なんですけれど、もうちょっと飽きてきました」。妊娠することは大きな感動を味わえる体験だが、精神的にも肉体的にも、ジェットコースターのように激しい波があるとアケチは語る。「こればかりは、備えることはできないと思います」

例えば、妊娠特有の体重増加。事前に読んで頭で理解するのと、実際に体験するのとでは大きく違う。体は疲れ果てているのに、なぜか謎の不眠症になることもあれば、食べ物の好みや食事のパターンが突拍子もなく変わったりする。最初こそオレンジを欲したアケチだが、最近は全く空腹を感じない日もある。かと思えば、母に伝統的な(南スーダン)料理を3品作ってもらい、そのすべてを平らげた後にケンタッキーフライドチキンを食べるくらい、食欲旺盛な日もあるのだそうだ。

「子どもたちには、何が本当に大切かを教えたい」

「子どもと一緒に成長していけるのはすごく素敵なことだと思うので、昔からずっと、若くして母親になりたいと言っていました」。Styled by Emma Kalfus; Makeup by Samantha Patrikopoulos

Photo: Pierre Toussaint

妊娠を機に、アケチは自分の生い立ちについて頻繁に思い巡らすようになった。南スーダンで生まれた彼女は、幼い頃、内戦を逃れるために家族とともにケニアにある難民キャンプへ避難。そこで8年間暮らした。

自分の子どもが同じような経験をすることはない。もちろん同じような目に遭ってほしくもない。しかし、困難な道を歩んだおかげで見出せた価値観を、生まれてくる子どもと分かち合いたいとアケチは思っている。「ほとんど何もないところから人生をスタートすると、物質的な豊かさをあまり重視しなくなるんです。自分が今送っている暮らしを思うと、大切なことを見失ってしまうのは容易かったでしょう。でも、自分の原点を忘れてはいけない。頭の片隅では、いつもそう考えていたんだと思います。家族と自分を養うことができれば、それだけで幸せです」

「子どもたちには、何が本当に大切かを教えたい」とアケチは続けると、一呼吸置いた。「ただ優しく、まっとうな人間であれということを」

母親が各国の『VOGUE』の表紙を飾り、ピエールパオロ・ピッチョーリや故カール・ラガーフェルドのミューズを務め、ビヨンセのミュージックビデオにも出演した世界的スーパーモデルだからといって、アケチの子どもたちが贅沢な人生を送るわけではない。子育てにおいて、自分が築き上げてきた地位などアケチにとってはなんの意味も持たない。子どもたちには働くことの大切さを、身をもって理解してもらうつもりだ。「私の母は、何もないところから来ました。私も初めての車は自分で買ったので、自分の子どもにもちゃんと自分のお金で買わせるつもりです!」

女性に本来備わった強さを実感する日々

Styled by Emma Kalfus; Makeup by Samantha Patrikopoulos

Photo: Pierre Toussaint

インタビューを行ったその日の夜に、アケチは家族とパートナーのサミュエル・エルキエ、そして親しい友人たちを呼んだジェンダーリビール(赤ちゃんの性別を発表する)パーティーを控えていた。男の子か女の子かを知ることはもちろん楽しみにしていたが、数カ月ぶりにやっとドレスアップできることに心躍らせていた。「(ここ何カ月かは)3着のスウェットをローテーションしていました。ひとつはアロ(ALO)、ひとつはルルレモンLULULEMON)、もうひとつはたしかヴィクトリアズ・シークレットVICTORIA'S SECRET)のものでした」

2024年のメットガラMET GALA)にはラクワン スミスLaQUAN SMITH)の体にぴったりとフィットするレースのボディスーツを纏って参加し、ファッション・アワード2022では、ネンシ ドジャカNENSI DOJAKA)が手がけたカスタムコルセットを着用したアケチ。これらのコーデを思うと、スウェットとはかなり思い切ったファッションの路線変更をしたものだ。「だって、地元のアデレードではどこにも行かないんです!」と彼女は笑う。「産婦人科に行っても、マタニティピラティスに行っても、弟や妹たちを学校に迎えに行っても、まっすぐ家に帰ってくる。これが今の私の生活なんです!ドレスアップして行く場所なんて、どこにもありません」

今年5月のメットガラにて。この時すでに妊娠1カ月を過ぎたあたりだった。

Photo: Taylor Hill/Getty Images

出産予定日まで、残り10週間ほど。ここまで無事にたどり着けたこと、そして出産まではまだだいぶあるということに、アケチは驚いている。「『今のこの状態は、一体どういうことなのか?』っていう感じで、毎日よたよた歩いています、と彼女は大げさなまでコミカルに、今の自分がいかにぎこちなくしか動けないかを披露してみせた。だが、再びまっすぐなまなざしをこちらに向け、こう言った。「女性は…….正直に言って、そもそもの強さが違います。男性では(妊娠と出産に)耐えることはできないと思います」

Photos: Pierre Toussaint Text: Elise Taylor  Adaptation: Anzu Kawano
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