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アレクサンドラ・クタス、世界初の車椅子モデルが追求する、インクルーシブな社会と平和【戦うモデルたち】

現在も戦争が続くウクライナの中でも、早々にロシア軍に制圧されたドニプロ出身のアレクサンドラ・クタス。世界初の車椅子に乗ったモデルとしてさまざまな社会変革に取り組む彼女は、現在拠点をロンドンに移し、故郷の平和と真のインクルーシブ社会の構築のため日々尽力している。

モデルで実業家のアレクサンドラ・クタス。2017年インドにて撮影。Photo: Hindustan Times/Getty Images

「私を活動家へと導いてくれたのは、間違いなく両親です。これまで一緒に仕事をしてきた仲間たちも、私にさらなる強さを与えてくれました。私は、不正に対しては決して黙っていることはできません。 人はその意欲と人間性で評価されるものであり、性別や肌の色、そして精神的または身体的なハンデで判断されるべきではないと信じています」

アメリカ・NYのメディア「WOW」にこう語ったアレクサンドラ・クタスは、1993年ウクライナ・ドニプロ出身の世界初の車椅子に乗ったモデルだ。出生時の医療ミスで脊髄に損傷を負ったことから、幼少期より車椅子の生活を送っている彼女は、2016年にファッションデザイナーのFedor Vazianovのコレクションでランウェイデビューをし、24歳のときに「キエフポストウクライナ」の“Top 30 Under 30”など栄誉ある賞を受賞した。

一方で、後障害を持つ人々のためのファッショナブルなアウターウェア「PUFFINS」を共同設立した実業家としても知られる彼女は、2014年のロシアのドンバス侵攻中軍病院で軍事心理療法士のボランディアとして軍事心理療法士として従軍した経験を持つ。だが、2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻した直後から、活動の中心を国外のウクライナ難民や国内避難民支援に置き、現在ロンドンに拠点を移して世界の難民問題に取り組む人道援助団体「Choose Love」で同胞の難民の全面的バックアップに取り組んでいる。

世界を変えるリーダーの卵の揺るぎない哲学

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そんな彼女は、バラク・オバマ財団が主催する2023年度「リーダーズ ヨーロッパ プログラム」のメンバーに抜擢され、ウクライナプロジェクトのリードを務めるなど、政治の現場でも本格的な活動に乗り出している。

シカゴに拠点を置く同財団は、2014年にバラク・オバマ前大統領夫妻によって設立された非営利団体だ。オバマ大統領が在任中に設立した奨学金プログラム“My Brother’s Keeper Alliance”を引き続き運営する一方、シカゴ大学ハリス・スクール・オブ・パブリックポリシーを通じた奨学金プログラムを運営するなど、主に世界のリーダーを目指す若者の支援に尽力している。

その一環である同プログラムのため、ヨーロッパ各国から政府や市民社会、民間部門で活動するリーダーの卵たちを選抜。互いの国の問題をディスカッションし、社会のチェンジメーカーとしてのスキルを高め合いながら、具体的な社会変革をもたらす最前線のネットワークを構築した。

そんな中、モデルとして社会活動に従事してきた彼女が今回の抜擢に至った理由の一つが、2020年に『VOGUE』などでおなじみのコンデナスト社主催の「コンデナスト大学」で披露したスピーチにある。

「自分がどんなに素晴らしくても、自分だけでは世界を変えることはできません。そのためには、同じ夢と信念を共有するチームが必要です。特に、その夢が自分の存在よりもはるかに大きい場合は」

こう語った彼女は、大好きなファッション業界でのDE&I(ダイバーシティ、エクイティー&インクルージョン)の実現を目指し、300通を超える手紙やメールを数々のモデルエージェンシーなど関係各位に送りながら、車椅子に乗った自分が“発掘”されるための努力を重ねた。そして、16歳のときにカフェにいるところを地元フォトグラファーに見出され、遂にモデルとして第一歩を踏み出した。そんな彼女の活動における鍵となるのが“常に粘り強くあること”だという。

活動家としてのモットーは“他人への思いやり”

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また「他者のニーズを尊重すること。他者の経験を念頭に置いて活動を拡大すること。そして自分の行動が、その後の世界のあり方にポジティブな影響をもたらすものであること」と、すべてにおいてその根底にあるのは他者への思いやりだ。そんな哲学のもと、彼女が設立したファッションブランド「PUFFINS」が、“アダプティブ クロージング”の現場に多大な変化をもたらしたことが高い評価を受け、ブリティッシュ・ファッション・アワードに招待されるなど、目下業界でのDE&Iを着々と推進中だ。

NY、ロンドン、インド、台湾など、世界中のランウェイを闊歩する傍ら、現在も続く故郷ウクライナの戦争に思いを馳せる彼女は、プライベートでは2020年9月に一人娘ソフィアを出産し、母親となった。モデルとして、母として、インクルーシブな社会の構築と同胞支援に日々奔走するクタス。そんな彼女は、自信を前進させる人生哲学についてこんな風に語っている。

「困難だと感じたときは、いつも“今日はたまたまついてない”と自分に言い聞かせるようにしています。生きていると、ときには難題に直面しますが、それでも明日は良い日になると心から信じなければなりません。それよりも、喜びや楽しさを感じるものに目を向けてください。何れにせよ、これだけは言えます。悪い日なんて、ずっとは続かないのですから」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba