パリを拠点に活動するスペイン人デザイナーのアルトゥーロ・オベゲロ(ARTURO OBEGERO)。2022年、スパンコールが印象的だったハリー・スタイルズのライブ衣装を手がけたことで話題を呼び、さらに今年はビヨンセのワールドツアー「ルネッサンス」でカスタムコスチュームをデザインし、再び世界中から注目を集めている。
スペインの小さな町で生まれ育ったオベゲロは、2021年に自身の名前を冠したブランドを始動。故郷の伝統文化や自身のルーツである舞台衣装を取り入れたジェンダーフリュイドなデザインが特徴だ。
2024年春夏コレクションは「Surfer du Soir(夜のサーファー)」と題し、白と黒を基調としたシンプルなカラーバリエーションにボディラインを強調したセクシーなシルエット、スパンコールやサテンシフォンを用いたクラシカルなリトルブラックドレスを発表。素材は全てデットストック生地を使用し、限られた中で美しい作品を創り出すことに情熱を注いでいるというデザイナーに、ビヨンセの衣装の制作秘話から最新コレクションについて話を聞いた。
官能的なレースを使用したビヨンセのツアー衣装
── はじめに、ビヨンセのワールドツアー「ルネッサンス」で手掛けたカスタムコスチュームについて教えてください。どういった経緯で依頼がきたのでしょう?
ビヨンセのパリ公演が終わったあとの出来事ですが、ブランドのインスタグラムにいくつか投稿したところ、突如、ビヨンセのアシスタントであるマイケル・ハンドラーから連絡がきたのです。そこから、ワールドツアーの衣装の話になりましたが、驚くほどスムーズに決定に至りました。最終的なデザインが決まるまで、何度もアイデアを出し合いましたが、衣装が完成するまでは1か月も掛かりませんでした。本当に忙しかったのですが、それだけの価値があったと感じています。
──衣装のコンセプトをお聞かせください。
ブランドとビヨンセとのバランスが完璧なカスタムスタイルを製作したいと考えていました。そのため、過去のコレクションの特徴的なルックでもある、魅惑的なレースやタイトな黒のシルエットを組み合わせました。ランジェリーからインスピレーションを得たコルセット付きのガウンボディスーツで、より官能的で繊細なレースや50年代のクチュールを連想させるアシンメトリーのスタンドアップカラーがポイントになっています。
──グラマラスな印象のブラックレースと大胆なカッティングからはマニッシュさも感じられます。最もこだわった点は?
デザインする上で最もこだわっているのはシルエットですね。上質な素材や刺繍、色などを完璧に準備することも大切ですが、シルエットが美しくなければすべてが台無しになってしまいます。また、優しさと強さのバランスを取ることも意識しています。弱さは人を強くすると考えているので、そういった内面的なことを服にも落とし込みたいと思っています。
──そもそもファッションデザイナーになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
私が生まれ育ったのは、ファッションの文化が全くないスペイン北部の小さな村。家族の中にもファッション業界で働いている人はいませんでした。 でも、音楽、ダンス、舞台芸術が大好きで、そういったカルチャーへの愛がきっかけでデザイナーになったんだと思います。また、幼少期からダンスをしていたこともあり、私の中でダンスとファッション、音楽は密接な関係にあるんです。 そして、アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)のショーを映像で見て夢中になったり。その後も、バレンシアガ(BALENCIAGA)、ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)、アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)などといった尊敬する多くのデザイナーのコレクションを見ていました。一度ハマるととことん追及してしまうタイプで(笑)。私のクリエーションは、そういった探求心から生まれていると思います。
──その後のキャリアを教えてください。
私の憧れのヒーローたちが学んだロンドンの名門、セントラル・セント・マーチンズで学士号を取得することを夢見ていました。 しかし、経済的な理由でそれは叶わず、パターンカッティングを学ぶためにスペインにあるデザイン学校に入学しました。自分のビジョンを強化し、より良いデザイナーになるために自分にとって最善の決断だったと思っています。
デザイン学校を卒業した後、念願だったセントラル・セント・マーチンズに入学して2018年に修士課程を卒業しました。その1週間後、お気に入りのブランドの1つであるランバン(LANVIN)で働くためにパリに移りましたが、1年後、自分自身のストーリーを伝えたいと思い、パンデミックの最中に自身のブランドを立ち上げて今に至ります。
海から上がり、夜の街へと繰り出すサーファーのワードローブを提案
──2024年春夏コレクションのテーマは?
「Surfer du Soir(夜のサーファー)」です。20世紀初頭にスペインのバスク地方で誕生し、その後コスタ・ベルデ地方に広まったサーフカルチャーからインスピレーションを得ています。私の故郷、タピア・デ・カサリエゴでは、このサーフカルチャーの伝統を守り続けているんです。毎年夏になると、サーフスクールを運営している兄を含む、地元のサーファーたちが難易度の高い波に挑むのを目にして育ちました。そういった自分のルーツと、海から上がり夜の街へと繰り出すサーファーたちのワードローブを想像しながら、官能的でロマンチックな世界観に仕上げています。
──2024年春夏コレクションでは、スパンコールやレース、サテンといったラグジュアリーな素材に加えて、バンブーコットンやプラスチックのリサイクル素材など、サステナブルを意識した素材も使用しています。素材選びのポイントは?
素材選びはコレクションごとに異なり、また気分やリファレンスなどによりますね。しかしながら、ブランドを始動した当初から環境汚染を最小限に抑え、本当に人々から必要とされるものを作りたいと考えていました。服を作ることに対して、可能な限りきちんと責任を負いたかったのです。私たちが扱う素材はすべてデッドストック。大手メーカーが使用しなくなった余剰生地をロールで購入し、そこからコレクションを考案します。これは大きな挑戦でもあり、とても大変ではありますが、数量が少ないからこそ特別で美しいスタイルを生み出すことができるのです。
──大胆かつ独創的なカッティングや立体的なシルエットが印象的です。そして、ジェンダーフリュイドな雰囲気が漂いつつもロマンティックでセンシュアルなムードも兼ね揃えています。インスピレーション源をお聞かせください。
少しありきたりに聞こえるかもしれませんが、どんなことでもインスピレーション源になりうると思っています。私はコレクションごとにプレイリストを作って、音楽で気分を盛り上げており、なかでもメランコリックな音楽が大好き。バレエダンサーのピナ・バウシュや、フラメンコダンサーのアントニオ・ガデスなど、アイコニックな人々からも影響を受けています。
──5年後、10年後叶えたい目標や夢は?
自分が大好きなブランドのクリエイティブディレクターに就任して、素晴らしいアトリエやチームと一緒に素晴らしいものづくりをしてみたいです!
Photos: Courtesy of Arturo Obegero Interview&Text: Kana Miyazawa Editor: Mayumi Numao