メンタルヘルスケアを毎日のルーティンに取り入れることは、驚くほど良い効果をもたらしてくれる。穏やかな日々を送るための対策やアイデアはもちろんあるが、時には、新しい習慣を積み重ねることよりも、自身の心を少しずつ消耗させている“悪い習慣”を手放すことの方が、メンタルを調整するのには有効なのかもしれない。
セラピストに聞いてみると確かにその通りで、物事への取り組み方や他人との関わり方など、日々の行動の中にはメンタルヘルスを損なう要因がいくつもあるのが事実。しかし、こうした習慣は無意識に根付いていることが多いため、気分を台無しにしたり落ち込ませたりしている原因になっていることに気づくのが難しい。ただでさえ平穏な毎日や正気を保つことが困難なこの世の中で、そういった状況は誰にとっても避けたいものだ。
そこで、私たちは5人の専門家から、メンタルヘルスのために最もやめるべき日常の習慣や、それらが気づかぬうちにどのように悪影響を及ぼすのか、さらにメンタルヘルスに有効な悪習慣に代わるアクションについて、詳しく教えてもらった。
1. 日々の現実ではなく“自分の思考”に集中しすぎる
「過去に起こったことや、未来に起こり得ることについて考えたり心配したり、ストレスを感じることはとても自然なことです」と、ボストンを拠点とする臨床心理学者であり、オンラインセラピストディレクトリ『Alma』の臨床担当副社長であるエリザベス・モレイ博士はSELFに語った。
例えば、昨晩起きた母親との喧嘩について考えたり、仕事で昇進できるかどうかを心配するのは当然のことで、反省は過去の失敗から学ぶ手助けをしてくれるし、未来を考えることは計画を立てることに繋がる。しかし、自分の頭の中にある考えに対して、どれだけの時間を費やしているかに気が付くことがまず大切だ。モレイ博士によると、この精神的な雑音は、現実から自分を引き離し、実際に今起こっていることへの理解を妨げてしまうそうだ。
そして、誰しも自分の人生が気がつかぬうちに過ぎ去り、多くの時間を無駄にすることを望んでいない。現在の出来事に対する意識を鈍らせるだけでなく、自分の思考の渦に囚われることは、長期的にメンタルヘルスにも悪影響を与える可能性がある。「過去に集中することはうつ病と関連し、未来に集中することは不安と結びつきます」と、ニューヨークを拠点にする心理療法士のレベッカ・ヘンドリックス氏はSELFに語っている。
そして、それらに囚われることは、実際の“行動”に悪影響を及ぼすこともある。「過去に心が捕らえられていると、しばしばそのときと同じことをしてしまう傾向があります」とモレイ博士。さらにその行動が最も生産的に働きかけるとは限らない。「未来に思考が集中していると、実際にはまだ起こっていないことに基づいて行動することがあります」とも。例えば、誰かが怒るかもしれないと予想して重要な会話を避けたり、上司が気に入らないだろうと予測してプロジェクトの開始を先延ばしにしたりすることが挙げられる。
代わりにすべきこと①:
もし特定の思考が繰り返し頭に浮かんだり、目の前のことに集中できないときは、「ディフュージョン(分離)」という技術を使って、その思考から心理的に距離を置くことをモレイ博士は提案する。まず、その思考が“何であるか”を具体的に“ネーミング”することから始めればいい。例えば、「私の人生は最悪だ」という代わりに、「私は『私の人生は最悪だ』という思考を持っている」というようにする。小さな変化に思えるかもしれないが、これは単なる思考であって決まった現実ではないということを思い出すことで、その思考を手放したり、立ち向かうことを手助けしてくれる。
2. ネガティブな結果を動機付けすること
もし「これを終わらせるまでトイレに行かない」とか「このプロジェクトを終わらせるまで昼食を取らない」と自分に課したことがあるなら、すでに悪い習慣に陥っている。これは自己規律のように聞こえるかもしれないが、実際には不必要に自分を罰することになり、精神的に悪影響を及ぼすと、カリフォルニア州ロングビーチを拠点にするバイリンガルかつバイカルチュラルな臨床心理学者、リセット・サンチェス博士はSELFに話す。「特定の方法や時間に捉われなくても、あなた自身は困らないし、自分を隅に追いやる必要はない」と彼女は強調する。「あなたは自由意志を持った大人であり、物事を進めるための別の方法を作り出すことができます」
また、“報酬”を動機付けとして使うことも悪影響を及ぼすことがある。確かに、「このタスクを終わらせたらアイスラテを一杯飲んでいい」と自分にいい聞かせるのは、ときどき有効なインセンティブになるかもしれない。しかし、時間が経つにつれ、「厳しいことを乗り越えたときにのみ、良いことを受け取る価値がある」という誤解を深めてしまう危険性がある。さらに、常に未来のことや物事を終わらせた後には“何を受け取るか”を考えてしまい、結果的に不安な状態に陥ることになる、ともサンチェス博士は付け加えた。
代わりにすべきこと②:
タスク自体をもっと楽しいものにするか、少なくとも無害なものにすることだ、とサンチェス博士。「自分に脅しをかけたり、人参をぶら下げてまで物事を終わらせる必要はありません」例えば、受信トレイを片付ける間に温かいココアを作って飲むといった方法もある。難しいタスクに対してのストレスを緩和させるると、それに集中しやすくなり、終わらせるのも楽に感じるようになる。「実際に私たちがより今により集中するためには、私たち自身が楽しむことが大切です」と語る。
3. 他人と自分を比較し、評価すること
他人の成功や失敗を自分の尺度として使うことが何も良い結果を生まないことは、あなたもよく知っているだろう。それでも、他人と自分の立ち位置を比較するのは人間の自然な性質だ。「私の方が優れているのか? 私の方が劣っているのか? 私の方が賢いのか? この人は私より多くを持っているのか? と私たちは自分が他人に対してどのような立ち位置かを常に探ろうとします」とモレイ博士は話す。「もし自分がどのように影響を及ぼしているかを観察したことがある人は、他人の評価や判断にいかに感情が早く引き込まれていってしまうかがわかるでしょう」。これは特に、他人がハイライトだけをシェアしがちなソーシャルメディアでは顕著であり、危険なことでもある。「あなたは他人の表舞台と自分の裏舞台を比較しているのです」とモレイ博士は話す。
しかし、彼女は些細なことではあるが、リアルな日常生活でのやり取りの中でもこの現象はよく起こることだと主張している。「どんな状況においても、自分に対して不快感を抱かせたり、自分が十分でないと感じたり、他人が自分の欲しいものを持っていることに何か理由があるように感じさせることがある」とサンチェス博士は語った。
代わりにすべきこと③:
この行動を完全に止めることはおそらく難しいだろうとモレイ博士は話すが、だからこそ、まずは“判断しない”という意識を呼び起こすということが役に立つという。例えば、「私は今、この人と自分を比較していることに気づいた。私がそんなことをしているなんて面白いな」と思う。そこから、ただ「だから何?」と自分に問いかけることで、自分の反応を小さくし、ネガティブなスパイラルを断ち切ることができる」とモレイ博士は語る。馬鹿げて聞こえるかもしれないが、少し立ち止まってみることで、この思考に反応する必要はないという一種の解放感に気づき、そのまま手放すことができるのだ。
しかし、時にはその結果として生じる嫉妬が強く、簡単に切り替えるのが難しいこともある。自信を築き上げ、自分自身を愛することは長い時間がかかるが、非常に価値のある追求であり、もしあなたが頻繁に自己比較と葛藤しているのであれば、サンチェス博士が提案する、“なぜ”を追求するのではなく、もっと実践的にトリガーを排除すればいい。
これを直接的に行う方法の一つは、ネガティブな思考を引き起こしがちなソーシャルメディアのアカウントをミュートにすること。「私たちは気にせず、喜んで目に映る人々を応援できるようになりたいのですが、時にはその精神的な余裕がないこともあります。しかし、それは全く問題がありません」と彼女は語る。パーティーで居心地が悪くなったらその場を離れるのと同じように、悪影響を与えるオンラインコンテンツから自分を除外することが、まずすべきことだと彼女は指摘する。
4. 頻繁に自分を卑下したり、自己批判したりすること
他人と自分を比較しなくても、自分の言動で自身を責めたりすることで、自己否定的な言葉を使う習慣が身につけているかもしれない。このような批判的な思考は、「いつもXのような悪いことをしてしまう」とか「Yのことが決して得意ではない」といった、より広範的な自己批判に発展しやすいと、ニューヨーク市を拠点にするカップルセラピストのトレーシー・ロス(LCSW)氏はSELFに語った。
このような自己評価は特に有害だが、もっと内包的な問題になることもある。例えば、「掃除しなければならない」とか「運動しなければならない」と自分にいい聞かせる。こういった道徳的な義務ではないことに対しての「~すべき」や「~しなければならない」といった言葉を使い、自分の成果を軽視したり過小評価したりすることが、自責の念にかられる一例だと、ペンシルベニア州ニュータウンでニューロダイバーシティを肯定するセラピーを専門にしているシラ・コリンズ(LPC)氏はSELFに語っている。
「このように自身を責めることは、ほぼ確実に自己肯定感を低下させ、うつや不安を引き起こす原因になります」とコリンズ氏。ここで重要なのは、こういった思考が自身の生産性を高めることは決してないこと。むしろ、目標を追求せずに心を閉じ込めてしまう可能性が高いとコリンズ氏は付け加えた。実際、アスリートや音楽家を対象にしたある研究では、自己批判がモチベーションと逆の関係にあることがわかり、別の研究ではそれが反芻してしまうことや先延ばしにするといったことに関連していることがわかっている。これらの結果は、自分を罵倒することが、自身の規律を保つための手段とはほど遠いことを示唆している。「それは感覚を麻痺させ無力化し、思考の障害となるのです」とロス氏は語る。
代わりにすべきこと④:
今までに挙げた「デフュージョン」技法と似て、ロス氏が提案するのは、ネガティブな自己批判から距離を置くために、物事を客観視する「ラベリング」をすること。例えば、自己批判に気づいたときに「これは私の中の思考が判断していることなんだ」と言ってみること。目標は、冷酷な言葉を自己認識から切り離し、これらの評価が本当の事実ではないことを自分に思い出させることだ。コリンズ氏とヘンドリックス氏も、次に自分を評価し始めたときには、友達に話しているかのように振る舞うことを勧める。おそらくあなたは友達に「あなたはダメだ」とか「価値がない」などと言わないし、自身に対しても同じように当てはまるだろう。もちろんこれは見た目以上に実践が難しく、自己批判から自分を切り離すことは一晩でできるようになることではない。そのため、コリンズ氏は、内なる批判者が顔を出すときのみならず、定期的に自己共感の活動、例えばマインドフル・グラウンディングや瞑想を行うことを勧めている。
5. 悪いことが起きたからといって、丸一日を台無しにすること
小さなイライラや挫折はほぼ毎日起きることで生活の一部といえる。急いで家を出るときにお気に入りのシャツにコーヒーをこぼしてしまったり、同僚から無神経な口調のメールが送られてきたりすることも。これらが朝に起きると、それがその後の出来事に対する悪い前兆のように感じられ、突然「今日は最悪の一日になりそうだ」と受けとってしまうのだとサンチェス博士は話す。
私も思いがけないひどい火曜日を迎えたあとに、1週間を丸ごと無駄にした経験がある。しかし、ひとつやふたつの不運な出来事が過剰に影響することの本質的な問題は、思い込みや願望を正当化・肯定するために都合の良い認識にフォーカスする“確認バイアス”の罠に陥ることであるとサンチェス博士は語る。今日は悪い日だと決めつけ、しまいには自分がどれだけ惨めであるかを証明する方法を探し始めるというわけだ。そして、探せば探すほど、その材料を見つけてしまうループにはまっていく。
代わりにすべきこと⑤:
いつもポジティブな見方を継続することは、実用的でも生産的でもない。イライラする出来事を軽視することは、ただの有害なポジティブ思考だとサンチェス博士は話す。できることは、否定的な現状を認めつつ、同時に自分の軌道修正能力を認めるといった、より中立的なアプローチで反応することだ。例えば、「確かにあの出来事は非常に対処が難しかったし、疲れてしまったのは当然だ」と自分に言い聞かせ、その後で10分間、自分を喜ばせることをする。例えば、笑わせてくれる友人にテキストを送ったり、おもしろいミームをスクロールしたりして自分のご機嫌を取る工夫をしてみて。悪い出来事を完全に消し去ることはできないが、そのエネルギーを一日中引きずるのは防ぐことができるだろう。
6. 他人の感情に対する責任をすべて負おうとする
ここで誤解してほしくないのは、大切な人たちに気遣いをすることや人に良い影響を与えようと意識すること、また彼らの感情に共感することは、素晴らしい友人、家族、パートナーとしての行動である。しかし、それは他の人の心配や感情が自分の行動を左右することを許すこととは異なるとロス氏は話す。
「あなたの行動に対して誰かが失望したり動揺したり悲しんだりするかどうかは、その行動を実行するかどうかの決定要因であってはいけません」と彼女はいう。自分の価値観に沿って行動していることが前提だが、このような“人を喜ばせようとする領域”に足を踏み入れると、自身の最善の利益を無視することになり、不幸と憤りを抱くことになる。
代わりにすべきこと⑥ :
「 周囲の人を満足させることが、あなたのすべき役割ではないと理解すること。特に自分にとって正しいと決断を下しているときは特にそうです」とロス氏。自分がやりたいことかどうかをわきに置き他者を満足させることばかりに注力し、自分の意思や趣向から離れてしまっている場合は、実際にどれが自分のしたいことなのか、したくないことなのかと省みるための一人の時間を持つことが有益だという。そうすることで「他人がどう感じるかは実際にコントロールはできないし、他者から縛られない自由な発想や現実を思い出すこともできる」のだという。今一度、自分の感情や価値観を犠牲にしてまで、他の人の感情をコントロールしようと試みる必要性があるのだろうか?ということを自分に問い直すと良さそうだ。
もちろんこれは多くの人たちにとって自然なことであり、3.でも挙げたように社会が他者との比較で感じられる成功や好感度などを不健全に評価することで、これらの傾向がより顕著になる。だから、今まで挙げた悪い習慣を複数、またはすべてを行なってしまっていても何の不思議もない。
だが、そこから脱却するのは決して不可能なことではない。自分が精神的に消耗するパターンに陥っていることをまずは自覚することが、これらの悪習慣から抜け出すための第一歩となるのだ。
Text: Erica Sloan Translation: Mika Mukaiyama
FROM SELF.COM
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