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『バービー』の監督グレタ・ガーウィグにインタビュー。「多様性に富むバービーが誕生した理由と背景を伝えたい」

キュートなピンクの世界のなかに笑いを散りばめ、私たちが生きる社会の現実をシュールに描いた映画『バービー』。世界中で大ヒットを記録している話題作の脚本を一から書き上げ、メガホンも握ったグレタ・ガーウィグ監督が、作品の核からライアン・ゴズリングのキャスティング秘話まで語ってくれた。
マーゴット・ロビー、グレタ・ガーウィグ、アメリカ・フェレーラ『バービー』Barbie   Margot Robbie  Greta Gerwig and America Ferrera 2023
© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『バービー』のオープニング興行収入で女性監督として歴代最高記録を達成したグレタ・ガーウィグ。全世界累計興行収入は8月6日(現地時間)時点でついに10.3億ドル(約1462億円)を突破し、劇場にはピンクの衣装を身にまとった観客たちが詰めかけ、“バービー旋風”を巻き起こしている。そんな最中、ファンが制作した原爆開発を主導した物理学者ロバート・オッペンハイマーの伝記映画『OPPENHEIMER(原題)』(配給:Universal Pictures)との合成画像(ミーム)に対し、アメリカの『バービー』X(旧ツイッター)公式アカウントが反応し、批判が集中。これを受け、ワーナー・ブラザースのアメリカ本社は「ワーナー・ブラザースは、最近行った配慮のないソーシャルメディアでの反応を遺憾に思っております。深くお詫び申し上げます」と謝罪し、該当投稿を削除した。

ちょうど来日中だったガーウィグは、「ワーナー・ブラザースが正式に謝罪をしたことにホッとしています。本当に良かったです」と『VOGUE JAPAN』の取材でコメント。8月11日からの日本公開に影を落とすこととなったが、監督と脚本を手がけるにあたり、「新しい切り口で物語を掘り下げ、新鮮で活き活きとした現代に合ったバービーを描きたい」という彼女の思いが詰まった本作は、多くの人に共感や感動をもたらすはずだ。

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──『2001年宇宙の旅』へのオマージュのようなオープニングに始まり、バービーが死について考えることで物語が動き始めたり、独創的なストーリーが素晴らしかったです。脚本を共同執筆したパートナーのノア・バームバックとは、どのようにして物語を作り上げたのでしょうか?

すべての始まりはマーゴット・ロビーでした。彼女が映画化の権利を持っていて、私にこういう企画があるのだけど、脚本執筆に興味はないかと言ってきたんです。私は俳優としてマーゴットの大ファンでしたし、プロデューサーとしての彼女の仕事ぶりにも深い感銘を受けていたので、心が動きました。ところが、脚本を書くにあたって与えられたのは人形だけ……。最初は料理番組に出演して、「このスニーカーを使っておいしい料理を作ってください」と言われるようなもので、途方に暮れるような感じでした。でも、私たちが終始ブレずに念頭においていたのは、大人と子どもの両方の感覚を絶対に失わない、そのバランスを維持するということでした。

子どもにとって人形遊びがどういう意味を持ち、どんなワクワクをもたらしたか。そして、大人になって当時を振り返ったときにどのような気持ちになるのか。そこをずっと大事にしていました。今作はセットにもこだわっていますが、大人っぽいクールなセットになりそうなときは、「ダメダメ! もっと子どもが考えそうな、夢の中みたいな感じにして」とお願いしていました。自分が子どもの頃、大人にはわからないと思っていたような世界、それが物語の核になっていると思います。

──監督ご自身も、幼い頃に人形遊びはされましたか?

大好きでしたね。おそらく私が初めて物語を想像したのは、人形遊びをしていたときだと思います。人形遊びって、さまざまな設定や物語を考えて、会話をつけたりするじゃないですか? そういう意味でも、私の幼少期においてとても大切な遊びだったように思います。ただ、母がバービーを好きではなかったので、買ってもらったことはないんです。でも、近所の子たちからお下がりのバービーをもらって遊ぶのが楽しみでした。

「自分自身をバービーの世界の一部として見て感じてもらいたい」

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──マーゴットは典型的な完ぺきなバービーを見事に演じていますが、彼女が今作の製作に関わっていなかったら、監督もこの仕事を受けていなかった?

そんな気がしています。彼女は、ちょうど私が『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしたちの若草物語』(2019)の編集作業中のタイミングでやってきたんです。このとき私は長男を出産したばかりで、今でも自分が当時どんな精神状態だったかまったく思い出せないくらい目まぐるしい日々を送っていました。そんな息子も4歳になり、今年はもう一人家族が増えたので、長男が『バービー』にどれだけの時間を費やしてきたかをはかるバロメーターのようになっていて、「長い年月をかけてようやく完成したんだな」と今、しみじみと感慨にふけっています。

いずれにしろ、新しい挑戦や変化が必要なときに、すごく好きだったマーゴットが声をかけてくれたのでワクワクしたんだと思います。そういう意味では、やはり彼女がいたから引き受けたように思います。

──すべての世代の人たちをインスパイアし、現実世界の問題を予想以上に描いた物語が素晴らしかったです。一方で、昨今のハリウッド映画にはダイバーシティフェミニズムを無理にでも扱わないといけないプレッシャーのようなものを感じる作品がたくさんあるように思います。ご自身もそういうプレッシャーを感じますか?

もちろん感じています。ですが、今作に限って言わせていただくと、マテル社がブランドとしてどういう変化を遂げたのかを語ることが重要だと思っていたので、そうすると必然的に多様性やフェミニズムといった点に結びついていくわけです。例えば、先ほど私の母はバービーが嫌いだったと言いましたが、その理由の一つが、バービー人形のプロポーションが非現実的だったからです。確かに今思うと、もし人間があんなスタイルだったら、おそらくバランス的に二本足で立っていられないはずです。でも、そこからマテル社は大きく路線変更をはかり、あらゆる人種のあらゆる体型の多様性に満ちたバービーを発表しました。その理由と背景を伝えることが、今作ではとても重要だったんです。すべての女の子たちに、自分自身をバービーの世界の一部として見て感じてもらえるようにしたかったんです。

ライアン・ゴズリングがケンを演じた理由

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──男性社会のアイデンティティ問題も大きなポイントになっています。

ケンたちにはケンたちの事情がありますから。

──脚本の段階でメインのケン役はライアン・ゴズリングをイメージしていたそうですね。

私はメインのケン役にはライアンがぴったりだという自信があったので、彼に当て書きをしたのですが、当初、彼自身はそう思っていなかったので、ライアンが同意してくれるまでは気が気ではなかったです。

──首を縦に振らない彼をどうやって口説き落としたのですか?

まず彼に脚本を送るところから始まり、電話だったりさまざまな方法で何度もやり取りをしました。もちろんスケジュール的な問題もありました。でも結局のところ、私やマーゴットが彼を口説き落としたわけでないと思っています。と言うのも、彼には2人の娘さんがいて、やはりバービーを持っているそうなんです。そこでライアンは彼女たちに、「ケンの人形は持ってないのかい?」と聞いたら、「どこかにあるはず」と適当な答えが返ってきたそうで、しばらく経ったら庭の腐ったレモンの下にケンの人形が転がっていたらしいんです。それを見てライアンは、「これはダメだ。僕がケンの物語を伝えないといけない!」と決心したと言っていました。

──シム・リウによると、ケンの役作りや容姿に関してあなたからのリクエストはただ一つ。すべてのケンたちが一緒にワークアウトすることだったそうですが、ケンたちに全員でワークアウトをさせた一番の狙いはどこにあったのでしょうか?

本当にそんなことをしているなんて、想像さえしていませんでした(笑)。当然、彼らがワークアウトしている様子を見てもいないので詳細はわかりませんが、あとからケンを演じる俳優たちみんながジムに集合して、トレーニングで競い合っていたという話は聞きました。でも、それで彼らの絆が生まれたのかもしれません。やはりケンたちにはケンたちの世界があるので。

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──監督として最もアドレナリンが湧き出た瞬間は?

映画内に登場するすべてのダンスシーンの撮影時です。もともと私自身、ダンサーを目指すほどダンスが大好きだったので、現場に70名ほどのダンサーがいるというだけで気分が高揚しました。ダンサーというのは自分にスポットが当たっていないときでも、それぞれ自分を魅せる術を知っているので、ダンスシーンではダンサー全員を起用することが私にとっては必要条件でした。

また、バービーが誕生したのが1959年なので、バービーランドで繰り広げられるダンスは50年代のミュージカルを彷彿とさせるものにしたいと思っていました。海辺やパーティーシーンなど、ダンスの場面はいくつか登場するのですが、どれもカジュアルで楽しそうに踊っているように見えると思います。でも、実は裏では緻密に構成し、フリにもたくさんの時間を要したものすごく大変だった。もちろん、それも私にとってはものすごく幸せな時間でしたけど。

映画『バービー』
監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
脚本/ノア・バームバック
キャスト/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレン
配給/ワーナー・ブラザース映画
8月11日より全国公開
barbie-movie.jp

Interview & Text: Rieko Shibazaki