スマホ生活でできあがってしまう「前傾ネック」
例えば、ガジェットが埋め込まれたコペルニのジャケット。あるいは、80年代を思わせるようなトム フォードのパワーショルダー。両者に共通するのは、アンバランスなまでに低い位置に─時にはウエスト近く─作られたインナーの襟だ。あらわになった首からデコルテにかけてのラインを見ていると、このパーツがアクセサリーのように重要な役割を果たしていることに気づく。耳下から鎖骨へと斜めに走る胸鎖乳突筋のラインも、左右にスッと開かれた鎖骨も、洗練されたフェミニニティを象徴している。この“デコルテ見せ”トレンドは秋冬も続くから、ロココ時代の貴婦人のようなパッションを携えて、首とデコルテを優雅に磨き上げる必要がある。
だが、この2パーツを美しく整えるのは、現代人にとって至難の業だ。というのも、スマホ(若い世代なら使用時間は1日3時間を超えるという話も!)とPCが必需品である現在、前肩やストレートネックは当たり前。日常の動作で首をどんどん太く縮め、貧弱なデコルテを育ててしまっている。そんな現代人の首・デコルテ事情について、パーソナルトレーナーの金谷憲明さんはこう教えてくれた。「首や鎖骨、肩甲骨の運動性が低下している方はとても多いですね。これらをまとめて動かすには、両手を動かすような運動がおすすめ。簡単なものなら、四つん這いで赤ちゃんがハイハイするような“アニマルウォーク”にトライを。腕を大きく動かしたいので、専用ポールを使うノルディックウォーキングや水泳などもおすすめです。それらを取り入れ、鎖骨まわりの運動性が上がることでメリハリが出て、首やデコルテがキレイに整ってきます」
モデルや俳優の中にはバレエやダンスの経験者も少なくないが、そういった人は決まって姿勢やしぐさがエレガントで、首がスッと長く美しい。エクササイズをろくにせずに大人になってしまった人でも、そんな凛とした首筋を手に入れることはできるのだろうか。「首の運動性が低いと、どうしても縮んで太く見えがちです。首がつぶれていると顔が大きく見えるなどマイナスが連鎖するので、スマホをよく使う、デスクワークが多い方は首を伸ばすストレッチを取り入れましょう。手のひらを上にして片腕を正面にまっすぐ突き出し、その指先に反対の手の指を引っ掛けて行うストレッチは効果絶大。伸ばした腕の手のひらが正面に、指先が地面に向くようにテンションをかけると固まっていた前腕がぐっと伸びます。首や鎖骨まわりが硬いとその部分をほぐしたくなりますが、肩や首は腕と連動しているので、指先からストレッチするほうがしなやかに伸ばせます」
PC作業の多い人は「広頸筋ストレッチ」を
もうひとつ、PCをよく使う人にぴったりなのが広頸筋のストレッチ。これは下あごから鎖骨下までを覆っている筋肉で、首をすっきり見せる要ともいえるパーツだ。右側の鎖骨下に両手を重ねて置き、あご先を左斜め上にぐーっと向けると広頸筋がぐっと伸ばされる。逆も同様に、気持ちよさを感じながら行うのがポイントだ。縮んだ首を引き伸ばすだけでなく脳への血流もアップするので、仕事の合間のリフレッシュにもおすすめだ。
伸ばしたら、最後に鍛える動きも行ってみよう。「年齢を重ねてあご下がたるんでくると、どうしてもだらしない印象になりがちです。舌先がいつも上あご裏から離れているという人は、舌のエイジングケアが必要ですね」(金谷さん)。空のペットボトルを用意し、くわえて中の空気を吸い込んでみよう。ペットボトルを呼吸に合わせてペコペコさせる動きは、舌骨下筋のいいトレーニングになる。首が太くなった、フェイスラインがもっさりしてきたという人も、毎日行えば次第に整ってすっきり見えてくるはず。ちなみに、顔と同じように首やデコルテもむくむ。腸活の第一人者としても知られる医師・小林暁子先生はこう語る。「腸内環境が悪い人は全身の流れも滞っているので、脇の下をプッシュしてリンパの流れを促したり、耳下から鎖骨にかけての耳下腺を流したりといったマッサージもおすすめです」
肩や腰の硬さを自覚している人でも、ついおざなりにしがちなのが首やデコルテ。逆に、こういったパーツにまで意識がゆき届いていれば、何歳になっても服が映えるボディでいられる。今年のメットガラで時の人となったひとりは、デコルテが透ける大胆なドレスを着こなした70代のヴェラ・ウォンだった。彼女はティーンの頃にフィギュアスケーターとして活躍した経験があり、デザイナーとして円熟期を迎えた現在も、その美しい姿勢が財産であり続けている。今すぐ首・デコルテのケアを始めて、整った首とデコルテという最高のアクセサリーを手に入れよう。
話を聞いたのは……
NORIAKI KANAYA
金谷憲明。パーソナルトレーナー、均整術師。KANAYA BODY LABORATORY主宰。体の歪みをリリースする整体施術とトレーニングを組み合わせた独自のメソッドが人気で、その人らしい美が育つと俳優やモデルからの指名も多数。
AKIKO KOBAYASHI
小林暁子。小林メディカルクリニック東京院長。まだ腸活という言葉もなかった時代からその研究に取り組み、便秘外来や女性専門外来を有するクリニックを創設。現代人の自律神経トラブルにも詳しく、多くの著書で正しい知識を発信中。
Text: Satoko Takamizawa Editor: Toru Mitani
※『VOGUE JAPAN』2024年8月号「サマールックに似合う、ヘルシーボディ」転載記事。