BEAUTY / EXPERT

心地よさの追求で見つかる「ボディニュートラル」の極意

多様性の時代にあるべきボディとの付き合い方を、プロが深掘り。「ボディニュートラル」を実現する6つのキーワードも紹介する。

「渡辺直美はプラスサイズだから人気なわけではない」

映画『メゾン ある娼館の記憶』(2011)より。Photo: ©IFC Films/Courtesy Everett Collection

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かつて「そのままの自分を愛すべき」というボディポジティブの登場は喝采をもって迎えられた。サイズ0でなければいけないなんておかしいし、デジタル技術に頼ってコンプレックスを修正するなんて本末転倒。そう、私たちはそのままで美しいのである──その精神が正しいのは、ここ数年の潮流が証明している。でも同時に、次第に本来の意図から遠ざかり、雲行きが怪しくなってきたのも事実だ。痩せたアデルがバッシングにあったり、フェミニンにドレスアップしたビリー・アイリッシュが「裏切られた」と言われたり。「そのままである」って、そんなに価値のあることだっただろうか。

映画『ワンダーウーマン 1984』(2020)より。Photo:Clay Enos / © Warner Bros. / Courtesy Everett Collection

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ニュートラルなボディって、何をイメージしたらいいのだろうか──そんなモヤモヤを「無意識の日々は停滞です」と吹き飛ばしてくれたのは、身体調律家として活躍している木村祐介さんだ。「水だってそのまま置いておいたら停滞し、腐りますよね。体だって退化していきます。生き方がブレるのは格好悪いけれど、歳を重ねるにつれて体に対する見方が変わったり、ステージに合わせてなりたい身体イメージが変わるのは自然なことです

とはいえ、木村さんはクライアントに対し「こうなるべき」も「これをやってはダメ」も強制しない。その人の痛みや不具合には寄り添うけれど、「これが正しい」とは一切提示しない。変えるべき部分もそのままでいい部分も人によって違うし、ボディが現在のようになったのには理由がある。まずはそれを否定せず受け入れること。そのためにも徹底的に大事にするのが“その人の好き”であり、“その人のハッピー”なのだとか。「ボディポジティブの盛り上がりとともにLサイズモデルが話題になりましたが、Lサイズなら誰でもいいわけじゃないですよね。絶対に、顔がハッピーな人が選ばれているんです。表情筋には感情が乗る。問題はサイズ感ではなく、どんな生き方でどんな顔をするのかという中身です。渡辺直美さんだってLサイズだからウケているわけじゃなくて、あの生き方が格好いい、アイデンティティがリスペクトされているわけです

映画『ロマンティックじゃない?』より。Photo: © Warner Brothers / courtesy Everertt Collection

Courtesy of Warner Bros. Pictures

だから、太っているのが心地悪いと感じたら痩せるべきだし、現在のラインに満足しているならそのままでOK。植物がさまざまな方向に枝を伸ばすように、曲がっていようが広がっていようが、軸さえブレなければ十分に美しい。それと同様で、その人のボディのどこを変えるべきか、変えなくていいかは人それぞれのオーダーメイドというわけだ。 ただし、「これが正解」という絶対に集約しない時代は、ある意味で難しい。“自分にとって心地よい体”を模索するのは、たった一つの正解にむやみに従うよりも時間と労力を要する。

映画『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』(2019)より。Photo: © Oscilloscope / Courtesy Everett Collection

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情報の洪水にさらされる現代にあって、木村さんのクライアントの中にも「アレがいいって聞いたから」「私のボディ、本当にダメなのよね」と焦る人は少なくない。噂に振り回され、自分に集中できなくなっている人に対し、木村さんは「落ち着いて! 一回、見るものを整理しません?」と提案するそう。「人の思考は、見ているものの積み重ねなんです。SNSで細いボディばかり見ているとそれに憧れるし、自分がみじめになってくるのも当然。そうではなく、自分はどう思うのか、どう感じるのかを徹底的に聞きます。目の前のものに集中する、自分の感覚に集中する。人の正解に振り回されないためには、自身の美意識を研ぎ澄ませることが大切なんです

そのためのレッスンとして木村さんが挙げてくれたのが、たとえば食事やスキンケアなど、毎日のルーティンにとことん集中すること。スマホは脇において、まずは目の前のものやことにじっくり向き合ってみよう。どんな味がする? この手触りは、この香りは好き?──じっくり集中してみると、自分が日頃いかに感覚を無視し、美意識をおざなりにしていたかに気づかされる。頭の上に両手を重ね、その重みをとことん感じてみる、なんていうのも感覚のレッスンになる。徹底的に目の前のものやことに集中するうちに、自分のボディにとって必要な心地よさも、不要なものも自ずと見えてくるはずだ。

テレビシリーズ「ラブ・アゲイン 結婚25年目のすれ違い」より。Photo: Duane Prentice / © Hallmark Channel / Courtesy: Everett Collection

©Hallmark Entertainment/Courtesy Everett Collection

日常生活の中で自分と向き合うのは、瞑想するのと同じこと。わざわざ瞑想セミナーに行かなくても、ビジネスライクなものに乗らなくても、徹底的に自分の感覚を研ぎ澄ませばいいんです。やっているうちに“私って意外に楽しんでいるんだね”とか“自分はこのままでいいかな”とか、自分の心地いいポイントが浮き彫りになってくる。それが、自分にとっての正解になると考えています」。ボディの正解は人の数だけあるけれど、自分のそれを探す努力を怠るべきではない、と木村さんは断言する。そして、美的感覚を研ぎ澄まし、自分の心地よさを探る努力こそが、ヘルシーなボディにも、「あるがままの自分が愛おしい」という自己肯定感にもつながるのだ、とも。

自分にとってのニュートラルを見つけるのは簡単ではないけれど、そのプロセスも含め、感覚を研ぎ澄まさなければ停滞だけが残される。自分の身体に、マインドに真摯であるために、今一度、自身のボディの変化を考えてみよう。2023年、マインドをリセットすることからボディメイクは始まる。

1. ボディタイプ、「KYOTO」と「TOKYO」を知る

YOSHIKIMONOのランウェイより。着物を着こなした福士リナ。Photo: AFLO Catwalk

京都にも拠点を設けて行き来する中で、それぞれが理想とする体のあり方が違うことに気づいたという木村さん。「パキッと鍛えたボディを理想とするのがTOKYO。それに対して、KYOTOの職人系の方ははんなりと、前傾気味で動きやすい姿勢をとることが多い。どちらが正解というわけではなく、生き方がラクになる姿勢がいい姿勢です

2. 「無意識」からの脱却。意思を芽生えさせる

Photo: Georgiy Datsenko / 123RF

肩が凝る、猫背になる、下腹が出てしまう……といった悩みは多くの人にあるが、そんな姿勢を無意識に作り、固めて、定着させているのは自分自身だ。「自分のことなのに無意識でいるのは、身体がかわいそう。体にフォーカスすることは健康にも、生き方にもつながること」。そう語る木村さんが最近面白かったというのは、教える資格まで取得したピラティス。骨を一つずつ感じ取る一対一のレッスンは、グループエクササイズと違って体の内側に意識が向くためおすすめだそう。

3. オリジナルの瞑想術を探し、実践する

自身の内側に潜れば、大海で魚をとらえるように創造性をつかめると語るデイヴィッド・リンチの哲学論。『大きな魚をつかまえようーリンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』(四月社)

定着した感のある瞑想だけれど、日本ではスクールやレッスンなどのビジネスにつながりがちで、本質から逸れてしまっているケースも。「瞑想って自分に向き合うこと。だから大自然の中でなくとも、あぐらをかかなくても、いつでもどこでも瞑想できるんです。日常生活の至るところに瞑想のチャンスはあるんですよ」(木村さん)。たとえば骨盤を立てて丁寧に座る。公園で木に触れてみる。風を感じる……そんなふとした日常に落ち着きを見出せれば、それがあなたの瞑想なのだ。

4. たとえば「寿司」のように。食べる集中力を鍛える

Photo: David Gelb / © Magnolia Pictures / courtesy Everett Collection

食べるべきとか、食べてはいけないといったルールは設けなくてOK。ただし、目の前の食に集中し、味わい尽くすことがポイント。「たとえばいいお寿司屋さんに行ったら、味はもちろんだけれど、見た目の美しさ、香りの芳しさ、器の綺麗さなども意識しますよね。何を食べるにしてもその集中する感覚をもてばよく噛むし、唾液が出て消化もよくて健康的です」。器を選び、愛でるようにゆっくり食べることも、ボディを変えるきっかけとなっていく。有意義な集中を体感しよう。

5. 自分の体を建築物にたとえて考える

コム デ ギャルソンのランウェイより。Photo: Gorunway.com

photo: Salvatore Dragone / Gorunway.com

骨盤の上に腰骨が乗り、その上に12の胸椎と7つの頚椎が乗り、てっぺんに5キロもの頭蓋骨が乗っている。まるで“建築物”のような体を意識してみるのも、感覚を言語化するいいレッスンとなる。「骨盤が立っていなかったり、背骨が積み重なっていないと、頭を支えようとしておのずと肩や首が頑張ります。コリや歪みが生じるのは、体がバランスをとった結果」(木村さん)。骨のアライメントがきちんと整っていれば、体はもっとラクになり、結果、美しくなっていくはず。

6. 自らのボディ、素肌に触れて「好きか」「嫌いか」を問う

映画『トールガール』(2019)では、平均よりかなり背の高い女性がその体を自分の個性として受け入れるプロセスを描いた。Photo: Scott Saltzman / © Netflix / Courtesy Everett Collection

取材中にふと、傍らにある施術用のベッドに触れるよう促した木村さん。「温かいですか? 柔らかいですか? この生地、好きですか?」──そう言われてみると、にわかに素材の質感や自分の好みが意識の表面に上がってくる。彼によるとスキンケアも同様で、心地よさを味わうことで感覚が研ぎ澄まされるそう。「何が配合されているかなんて、経論すればどうでもいい。香りが好き、肌に触れるのが心地よい。そういった自分の主観を大切にする方が体にフォーカスできます

話を聞いたのは……
YUSUKE KIMURA
木村祐介。TONAFU-調-主宰、身体調律家、所作研究家。機能的な美しさを追求する独自のセオリーが人気で、モデルや俳優の顧客も多数。代官山、京都、金沢をベースに、魅力的な顔やボディのあり方を啓蒙中。Instagram @kimura__yusuke

Text: Satoko Takamizawa Editor: Toru Mitani

※『VOGUE JAPAN』2023年8月号「変えるべき体」、「変えなくていい体」の境界線」転載記事。