骨は、何歳になっても強くできる
骨量は、一度失われると取り返しがつかない……。そう考えている人は多いのではないだろうか? 善方裕美先生は、「骨の対策は早く始めるのに越したことはない」と前置きしつつ、「たとえ骨量が少なくなっても対策はある」と、話す。「骨は何歳になっても、ずっと代謝を続けています。適度な刺激を与えて鍛えれば、何歳になっても強くできますよ!」
そして対策としては、栄養バランスの取れた食事を摂り、きちんと眠って体を休め、適度に運動することが挙げられると続ける。いわゆる健康維持の三代要素だが、もう少し一歩踏み込んだ対策をしたいとしたら?
カルシウム、ビタミンK、ビタミンDを摂る
「骨の健康に重要な栄養素であるカルシウム、ビタミンK、ビタミンDを積極的に摂ってください。カルシウムは乳製品や小魚、大豆製品に多く含まれています。カルシウムが添加されている飲むヨーグルトなどは、手軽にできると思います。私も毎日飲んでいますよ。ビタミンKは納豆を1日1パックと、緑黄色野菜を片手いっぱいを1日3回で充足できるといわれています」
日本女性に不足しがちといわれるビタミンDは、食事からだけでは十分に供給するのが難しい。供給源の約80%は日光で、太陽光をきちんと浴びることが大切だとされている。「肌への負担を考えると、日光浴を避けたいという女性は多いと思います。その場合は、サプリで補うのがおすすめです」
ウォーキングで、大腿骨の骨量が増えたケースも
「骨の対策は、一夜漬けでできるものではありません。一生かけて続けるものです。ですので、誰でもできそうな運動をご紹介したいです」と、先生がおすすめの運動で挙げたのがウォーキング。
「通勤のときに、一駅前で降りて歩く。駅ではエスカレーターを使わずに階段を歩く……。このような、毎日続けられそうなことから始めてみてください。徐々に歩く量を増やし、一日7,000歩以上歩ければいいですね。骨粗しょう症の患者さんで、事務から外回りの仕事に変わって歩く量が大幅に増えたら、大腿骨の骨量が増えたというケースもありました」。体重が軽い女性は骨に負荷がかかりにくいため、骨粗しょう症になりやすいといわれる。体重が軽いと、たくさん歩いても骨の対策にはならないのかも? 何か解決法はあるのだろうか。
「体重が軽い方は、そのままウォーキングをしてもなかなか負荷がかかりません。ペットボトル500mlを2本、両手に持って歩くのがおすすめです」
骨粗しょう症の薬を始める前に、歯の治療もマスト!?
睡眠、食事、運動に気を配っていたけれど、骨が明らかに弱くなってきた。その場合は、病院で治療を受けることになる。骨粗しょう症の薬は多くの種類があるが、どのように選んでいくのだろうか。
「治療薬選択のポイントとしては、年齢や運動習慣、他の薬剤とのバランス、栄養状態、費用、骨折しているのかどうかなど、が挙げられます。また、薬は主に注射剤と内服がありますので、その希望も患者さんに伺って決めていきます」
まずは、「アルファカルシドール」や「エルデカルシトール」などの活性型ビタミンD製剤、ビタミンK製剤の「メナテトレノン」を使用し、骨の形成に必要な栄養素を補う。加えてSERM(selective estrogen receptor modulator) という骨に特異的なエストロゲン作用をもつ薬剤や、骨粗鬆症に適用をもつHRTの「エストラジオール・レボノルゲストレル錠」を使用することもある。
骨折リスクが高い場合は、ビタミンD,K製剤に加えて骨にダイレクトに利かせる薬剤を選択する。大きく2種類に分けられ、1つ目は、骨の代謝を抑えることで、骨からカルシウムが出ていくことを防ぐ「骨吸収抑制剤」。2つ目は、骨を新たに作っていく「骨形成促進剤」だ。「骨形成促進剤」は最長12ヶ月~24ヶ月までと、投与期間が限定されている。薬を使って骨をずっと形成していくというのは、今のところ不可能だ。
骨粗しょうの薬は副作用が強い、という印象を持つ人もいるのではないだろうか。もちろん副作用がゼロの薬はないのだろうが、注意するべきことは? 例えば、骨粗しょう症の薬で、歯茎が弱くなるなど口内トラブルが起こると耳にしたことが……。
「骨吸収抑制剤の「ビスフォスフォネート製剤」、「抗RANKL抗体」は、骨を丈夫にする代わりに、新しい骨を作る機能を抑えてしまう働きもあり、顎骨壊死の副作用があるともいわれていました。ただし、最近では、この薬の副作用だけで顎骨壊死になるのではなく、もともと口内に何らかの細菌やウイルスがいて、炎症があるところに薬剤を使うと生じやすいということが分かってきています。つまり、きちんと歯のケアをすることが大切なのです。年を重ねて女性ホルモンの分泌量が減ると、唾液の量が減りがちに。虫歯・歯周病リスクが高まるので、歯のクリーニングや検診も定期的に受けるようにするのがいいですね」
最近、骨吸収抑制剤と骨形成促進剤の両方を兼ね備えた新しいタイプの薬、ロモソズマブが登場した。しかし、投与期間は最長で1年までに制限されているし、患者によっては効果が見られないこともあるとのこと。
「骨粗しょう症に対する治療薬の開発は着実に進んでいますので、将来的にはさらなる画期的なものが登場する可能性もあります。ただし、繰り返しになりますが、早めの対策が重要です。高齢になって骨の問題を自覚してから整形外科を受診するのではなく、その前から積極的に意識して行動することが大切なのです。30代や40代のうちから、定期的に婦人科や内科を受診し、女性ホルモンや栄養状態をチェックすることも一次予防の重要な手段になると思います」
話を聞いたのは……
善方裕美先生
医学博士・日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医・日本骨粗鬆症学会認定医。よしかた産婦人科院長、横浜市立大学産婦人科客員准教授。分娩施設の院長でもあり、約30年前より、更年期症状に悩む女性のカウンセリング、ホルモン治療、漢方薬、食事、運動、代替医療など多方面のアプローチで治療を行う。厚生労働省による「みんなで女性の健康を考えよう」特設Webコンテンツ「骨粗しょう症予防 骨活のすすめ」も監修。
https://www.smartlife.mhlw.go.jp/event/honekatsu/
Text:Kyoko Takahashi Editor:Kyoko Muramatsu
