シェミナ・カマリ以上にクロエ(CHLOÉ)の新クリエイティブ・ディレクターにふさわしい人はいるだろうか。ボヘミアンなラッフルドレス、洗練されたアウターウェア、多彩なバッグ&シューズを前面に押し出したデビューコレクションで彼女が放ったエネルギーは、カマリがこのメゾンにカムバックするのが今回で3度目であることを物語っていた。
2000年代にはフィービー・ファイロのもとでジュニアデザイナーとして経験を積み、2012年にはクレア・ワイト・ケラーのクリエイティブ・ディレクションのもとデザインディレクターを務めたカマリは、クロエというブランドの歴史を熟知している。ユダヤ系エジプト人の女性デザイナー、ギャビー・アギョンが堅苦しいオートクチュールに対抗しようとメゾンを立ち上げたのは1950年代。以来、その女性を中心に据えた哲学とフィーリングは、何世代にもわたって受け継がれてきた。
「Intuition(直感)」と題された2024-25年秋冬コレクションについて、カマリは「どう感じるか、どう感じたいか」が鍵となったとプレビューで語っている。「今日、女性として直感に従い、自分らしくいる必要があると思っています。直感的な着こなし、軽さ、動き、流動性、そして感情。ほかにも、ノスタルジアの力も大好きです。過去に目を向けることで、未来に進むことができる。今を生きる女性たちが何を着たいかを考えているのです」
70年代後半のカール・ラガーフェルド期にオマージュを捧げて
カマリのデビューというより、“復帰”とも呼ぶべき今回のショーは、カール・ラガーフェルドがメゾンを率いた1970年代に深く根ざしている。鮮やかな白のケープ付きレースブラウスに、クールな黒のフレアパンツとキトゥンヒールのクロッグサンダルを合わせたルック3がその好例だ。「カールがいた70年代後半、特に1977年から1979年にかけての時代へのオマージュとして、このコレクションに取り組みました」とカマリ。レースをふんだんに使った1977年の「Musketeers」コレクションがインスピレーション源であることを明かした。
フロントロウに座っていたジェリー・ホールとパット・クリーブランドなら、おそらくこのレファレンスに気づいただろう(二人は娘のジョージア・メイ・ジャガーとアンナ・クリーブランドとともに、80年代にラガーフェルドのモデルを務めた当時の撮影現場やパーティーでの思い出を大声で話していた)。少し先に目をやると、そこにはシエナ・ミラー、そしてその反対側にはアレクサ・チャンと、ファイロが率いた2000年代初頭のクロエを象徴する顔ぶれもあった。
カマリはカール時代のエッセンスを再解釈し、透け感のあるレースやモスリンなどのファブリックを用いながら「今らしさ」をスマートに表現した。シフォン素材を使ったケープのようにも見えるマキシドレスの下にはお揃いのアンダーウェアが仕込まれており、実際に着る女性への配慮を感じさせる。
モデルたちは太ももの高さまであるスーパーロングブーツを履いて、力強く歩を進めていく。ネイキッドドレスのトレンドが台頭する今にあっても、ここでは肌を見せすぎることのない、リアルな着こなしが光った。
クロエがクロエらしく、私たちが私たちらしくあるために
クロエといえばロマンティックで実用的、そして遊び心のあるデザインで知られるが、デザイナーとして豊富な経験を持つカマリは、これらの要素をうまく調和させる方法を手に取るように理解しているようだ。その証拠に、ラガーフェルド期のマキシコートやケープ、ファイロ期のブレスレットバッグやプラットフォームサンダル、ステラ・マッカートニーが取り入れたバナナやパイナップルのモチーフなどを巧みに融合させている。
カマリのデビューショーは、クリエイティブ・ディレクターになるための必須条件を満たすように作られたものではない。女性を引き込み、自然な流れに身を任せる。これこそがクロエの真髄であり、カマリが自身に課した使命だ。「どうとでも受け取ってください」と彼女は微笑むと、こう言い切った。「私たちはただ、私たちらしくあらなければならないのです」
Text: Sarah Mower Adaptation: Motoko Fujita
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