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爽やかで多幸感あふれる香り、「シトラス」と「フルーティ」の魅力を紐解く

香水とは互いを補い合ういくつもの香料で成り立つもの。さらに、同じ分類に属する香料同士をブレンドすることで生まれる香りのタイプを“ファセット”と呼ぶ。今回は、ともに爽やかでみずみずしい印象のシトラスとフルーティのファセットに着目。果実を思わせるフレッシュな香りは幅広く用いられ、弾けるような明るさと心地よい刺激性を表現する。※ジェンダーレス化が進むトレンドの背景や主要な7つのファセットについて解説。「プロが教える、フレグランスの選び方ガイド」の記事もチェック。
爽やかで多幸感あふれる香り、「シトラス」と「フルーティ」の魅力を紐解く
Photo: Hiroki Watanabe(TRON)

シトラス みずみずしく弾け飛ぶ、柑橘のフレッシュさ

ビタミンカラーのイエローをイメージカラーとするシトラス。フランスではギリシャ神話の“黄昏の娘たち”を意味するヘスペリデスと称されるファセットで、神々の園に実る黄金の果実を想像させる、ひたすらに軽やかで明るい、歓喜の香りだ。ベルガモットやグレープフルーツ、オレンジ、マンダリン、レモンなどの柑橘で構成され、つんと鼻を突くような刺激を孕み、ジューシーで酸っぱさを感じさせる香りは、明朗で快活、フレッシュな印象を与える。

「シトラスの魅力は何と言っても爽やかさ。弾けるようなZestyなフレッシュさから洗練された大人のエレガンスまで、様々な表情の爽やかさがあり、気持ちを持ち上げてくれるのが魅力です。また、伝統的なコロンの香りはシトラスの代表的な用い方ですね」と話すのは、香りの専門家でありフレグランススクール「サンキエムソンス ジャポン」の代表を務める小泉祐貴子さん。香りのビタミンと呼びたくなるようなエナジー溢れるダイナミックさを感じさせ、多幸感で包み込む、喜びに満ちたノートだ。

シトラスのもつ香りの表現力

「爽快で清々しく、凛としたウッディノート」と小泉さんが表現するシトラス ウッディ。「酸の効いた爽やかさとジューシーさが魅力のノート。弾けるようなフレッシュさを表現したり、シトラスとウッディノートを組み合わせて清々しく凛とした表情に仕立てて洗練されたエレガンスを感じさせたり、幅広いニュアンスがあります。最近では、シトラスとニューフレッシュネスという洗い立ての洗濯物のような爽やかな清潔感を持つファセットと組み合わせて都会的な爽やかさを表現するフレグランスも出てきており、パフューマーのクリエイティビティに触れるのも楽しみです」

1966年に発表したブランド初のメンズフレグランスは、シトラスを潜ませたフローラル。この一滴のために栽培するカラブリアン ベルガモットに色鮮やかなラベンダー、ベチバーなどが溶け合う。微妙なシブレーのバランスで、ディオールのエレガンスを紡ぐ。オー ソバージュ オードゥ トワレ 100ml ¥16,500/パルファン・クリスチャン・ディオール(03-3239-0618)

フレッシュでフルーティな日本の柚子がモチーフ。明るいエネルギーを音符のようにつなぎ合わせ、鮮やかに描いた。日本の伝統的な柚子風呂を想起するみずみずしい柑橘の香りは、肌に触れるが速いかセンシティブな海と潮の香りへと誘う。柚子にマンダリン、グレープフルーツを序章にしたユニセックスパルファンはひたすらに清新。オードパルファン ノート デ ユズ 100ml ¥24,200/ヒーリー(アイビシトレーディング 078-581 -2482)

黄金色に輝く、ランタン型のフラコン。草原やオリーブの木、フレッシュなピスタチオを想起させる、シテール島に初めて旅した時の記憶。青い海を遠くに望み、時空を昇華させ、《庭園のフレグランス》シリーズの7作目に投影。エルメス オードトワレ シテールの庭 100ml ¥19,580/エルメスジャポン(03-3569-3300)


フルーティ 活気に満ちた存在感と弾けるような高揚感が魅力

シトラスと同様にフレッシュで爽やかさをもち、艶かで活気に満ちた印象をも与えながら遊び心も感じさせるファセットだ。果実を中心とし、みずみずしくもフレッシュさを封じ込めたノートで、アップルや西洋梨、カシス、フランボワーズ、無花果などの香料を用いるのが特徴。ほかのさまざまなファセットと組み合わせることでパワフルな存在感を放つ。フルーティでジューシーなこの香りは屈託のない高揚感を付与。それでいて、穏やかなエレガントさを光らせ得るのも魅力だろう。

「フルーティには、摘み立ての果実のようなフレッシュなものからコンポートを思わせる凝縮された甘さが魅力のものまでありますが、フレグランスに親しみやすさを感じさせます」と小泉さん。この20年ほど、フローラルと組み合わせた香りがトレンドを牽引しているという。

フルーティのもつ香りの表現力

誰もが一度は香ったことがあるのではないか、と思えるほどにスタンダードだ。「男女を問わず、フルーティファセットを使用したものは人気。フルーティ フローラルは柔らかい甘さと爽やかさをあわせ持つ女性らしい香り。可憐で親しみやすいフレッシュさを表現します」。日本人に好まれるファセットで知られるこの香りは、日常に彩りを繊細に与えてくれるはず。

ブランドの不動の人気を誇る、フルーティ フローラルをアップデート。ジューシーで香り高いイングリッシュ ペアーを主役にライトフローラルをブレンドしている。食品生産過程で出る、洋梨の香りの成分を含む水蒸気を活用し、環境にも配慮。艶やかでパワフルなその香りを芳しいスイート ピーに溶け込ませ、大胆かつ繊細に描く。イングリッシュ ペアー & スイート ピー コロン 100ml ¥21,340/ジョー マローン ロンドン(0570-003-770)

ハッピーでエナジーに満ちた歓喜の調べ。カリフォルニアの健康やウェルネスを大切にするカルチャー=デトックススムージーからのインスピレーション。シトロンやレモンがフルーティに、清冽な湧水のように清らかに空を舞う。わずかに感じるメイローズがフローラルの甘美さをもたらしながら、ウェルビーイングを表現する。パシフィック チル オー ドゥ パルファン 100ml ¥42,900/ルイ・ヴィトン ジャパン(0120-00-1854)

話を聞いたのは……
小泉祐貴子
香りデザイナー。サンキエムソンス ジャポン代表。慶應義塾大学理工学部卒業後、資生堂、香料会社フィルメニッヒを経て、2014年にセントスケープ・デザインスタジオを設立。コンサルティング、香り環境デザイン、香水のプロデュースなどを幅広く手掛ける。近著に『英国王立園芸協会 香り植物図鑑』(Stephen Lacey著 小泉祐貴子訳/柊風舎 刊)。
https://www.cinquiemesens.jp

Text: Akira Watanabe Editor: Rieko Kosai