「私にとって美しさとは、おおらかさと同義語。ですが、アメリカではこういう姿勢があまり賞賛されるものではありません。何しろアメリカ人は贅沢はもちろん、休暇という言葉すら恥ずべきことだとプログラミングされている人種ですから」
かつてUS版『VOGUE』にこう語った俳優のダイアン・レインは、1965年1月22日にNYで生まれ育った。14 歳のときに『リトル・ロマンス』(1979)のローレン役でスクリーンデビューを果たし、一躍スターダムに躍り出た彼女は、現在にまで至るまで世界を魅了し続ける80年代アメリカンアイドルの筆頭だ。そして、彼女の代表作となった本作も、ラストのイタリア・ベネチアのゴンドラの上で交わしたふたりの小さな恋人同士のキスシーンが世界を感動の渦に巻き込んだ映画史上に残る名作の一つでもある。
しかし、フランシス・コッポラ監督映画『コットンクラブ』(1984)に続く映画『ストリート・オブ・ファイヤー』が商業的に失敗に終わったことから、彼女のキャリアは一時低迷期に陥り、長期にわたり俳優業から離脱。その後1987年の『ビッグタウン』、『愛は危険な香り』などの作品で復帰してからは、1989年の「ロンサム・ダブ」でプライムタイムエミー賞優秀主演女優にノミネートされたかたわら、2000年の『マイ・ドッグ・スキップ』、『パーフェクト ストーム』、2001年の『グラスハウス』、『陽だまりのグラウンド』と、商業的にも成功を収めた作品にも恵まれるなど、現在まで順調なキャリアを築いている。
「私がこれまでの人生で学んだのは、どの年代にもそれぞれの喜びがあったということ。いつもハッピーでいる秘訣は、何か問題が起きたときは一旦それを放っておいて、何か別のことをするのが一番だということです」と、6歳から演技を始め、アイドルとして人生の初期に成功を収めたダイアンは言う。
変わらぬ美の秘密は、紫外線ケアのための帽子とデジタルデトックス
「ビューティーの関しては、私は“A”で始まる言葉──“アンチエイジング”言葉は決して使いません。人間は誰もが等しく年を取るのに、なぜ年を重ねることに怯えなければならないのでしょう?それに、仕事柄たくさんのアンチエイジング製品を勧められますが、できればほかのことにもっと時間を費やしたい。顔で生計を立てているとはいえ、私には美容法に関しては異なる哲学があるのですから」
かつてモデルとしてニュートロジーナと契約していた彼女のトレードマークは、一点の曇りもないポーセリンスキンと、いつも手櫛で手入れすると言うサンディカラーのヘアだ。さらに、今年59歳になったダイアンだが、デビュー当時から変わらないそのルックスもまた、人生の中盤に差し掛かってもなお世間の注目を集める理由でもある。
「私が年をとらないように見えるですって?(笑)それはすべてプロによる素晴らしいメイクアップとライティング、そしていつも心の平穏を保っている成果です。一つアドバイスがあるとすれば、私は常に大きな帽子をかぶって直射日光を避けていること。ガーデニングおばさんに見えようが、そんなことを気にしたところで紫外線で肌は確実に傷みますから(笑)。ですから、車の中には常に8種類の帽子を準備しています。エイジングは人間の自然な流れなので、自分がコントロールできるものでもありません。それに、決して怖いことではありませんから抗うこともしません。だからもし、私がいつも変わらないように見えるなら、それは親の遺伝子のおかげでしょう」
こう語る彼女のもう一つのエイジレスな美容哲学は、デジタルに一切触れない時間を作り出すこと。これこそが、心身ともに深いリラックゼーションをもたらし、生活や睡眠の質を向上させる重要な方法だという。
トップ俳優ならではのメンタルマネジメント
「(デジタルデバイスが発達したことで)私たちは、常に世界の最新情報を得ることができるようになりました。そういったニュースを知ることは、とても重要です。でも、今の私たちは情報から逃れようにも逃れられない状況に追い込まれているように感じるのです。それは本当に良いことなのでしょうか? 他人のキラキラした生活が気になって、ストレスになっている人も多いのではないでしょうか?」
こう語るダイアンは、長年ヨガを実践するなど、人気絶頂の頃からメンタルヘルスに目を向け、独自の取り組みを続け、最近ではデジタルデトックスの大切さを説いている。が、そんな彼女でも仕事柄どうしてもSNSが気になってしまうこともあると率直に明かす。
「そんなときに実践するとっておきの秘策があります。まず、瞑想で心の中を平穏に保つこと。心を無にする時間があるというのは本当に必要だと思います。そして、私は有酸素運動が得意ではありませんから、エンドルフィンを出して心拍数をあげたいときは、ウォーキングを楽しみます。さらに、どうしても心がざわつくときは、マンハッタン島をボートで一周したり、ハドソン川からニューヨークの雄大な景色を眺めに行ったりします。離れたところから大都会を見つめながら、この街の歴史を想像するのはとても楽しいこと。ほんの少しの間でも、いつもいる場所を離れたり、まったく別のことを考えたりするだけで、不思議と気分がリセットされるものです」
そしてもう一つ、彼女の美容哲学の中で大きな存在となっているのが“香り”だという。
「私は、ヴィンテージフレグランスをすべて保管しているほど香りが大好き。香りは、それぞれの思い出と直結していますから、香るたびに“あの時”に戻ることができます。特に好きだったのが、ペリー エリス フォー メンなど、80〜90年代のメンズ フレグランス。きっと周りの人から、私はボーイフレンドが途切れたことがない人と思われていたでしょうね(笑)。そうやって嗅覚エンドルフィンを大量に分泌して、純粋に香りを楽しむのがルーティンになっていました。本当に、香りとはなんとも言えない魔力を持った素晴らしいものだと思います」
最近ではケビン・コスナー共演映画『すべてが変わった日』(2020)で世界的に高い評価を得、目下Apple TV+で放送中のドラマ「エクストラポレーションズ:すぐそこにある未来」(2023)に出演中のダイアン。59歳の現在も順調なキャリアを築いている永遠のアメリカンアイドルは、最後に美容哲学の揺るぎない“切り札”を明かした。
「ファッションや美容では、時代に左右されないタイムレスな感覚を持っておくこと。“今”だけに集中してしまうと、後悔することも多いものです。そして、休むことを義務に思ってはいけません。休暇中はしっかり休むこと。これにつきます(笑)」
Text: Masami Yokoyama Editor: Rieko Kosai