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【LVMH PRIZE グランプリ】ダブレット井野将之 x セッチュウ桑田悟史が語る、受賞の裏側とグローバルを見据えたクリエイティビティ

イタリア・ミラノを拠点にセッチュウSETCHU)を展開する桑田悟史が一時帰国をした。ドーバー ストリート マーケット ギンザでプレス関係者向けに最新コレクションのプレゼンテーションと朝食会を行い、それに参加していたのが、ダブレットDOUBLET)を手がける井野将之。LVMHプライズのグランプリ受賞者という共通点はあるが、二人は一体どんな関係性なのか。出会いからグランプリ受賞にまつわる体験、今後について語り合ってもらった。

――お二人に面識はあったのでしょうか。

桑田悟史 僕が昨年LVMHプライズのグランプリを受賞した時、インスタグラムに井野さんから「おめでとう」とメッセージをいただいたのが始まりです。

井野将之 お会いしたことはなかったのですが、セッチュウSETCHU)のセールス担当の方と知り合いで、彼を通じて桑田さんのお話は聞いていたんです。

桑田 やっぱりLVMHプライズは、多くのデザイナーが目指したい道の一つだと思うんです。2018年に日本人で初めてグランプリを受賞された時は前例もなくてすごく大変だったでしょうし、後進にレールを敷いていただいた気がします。ですから、「本物の井野さんからメッセージが来た!」と驚いてしまいました(笑)。

井野 実際にお会いしたのは、今年5月にオープンしたドーバー ストリート マーケット パリのレセプションでしたね。

桑田 照れながら挨拶させていただいて。その後ショールームにも来ていただきました。

井野 その時の案内の仕方がスマートで、すごいなと思いました。

桑田 本当ですか?!LVMHプライズのグランプリを受賞したことで、イタリアのファッション学生が多い街に行くと声をかけられることが多くなって。振る舞いには気を付けるようにしているんですよね…

――セッチュウもダブレットもドーバー ストリート マーケットで取り扱いがありますね。

井野 今の僕があるのはドーバー ストリート マーケットのおかげだと思っています。LVMHプライズのグランプリを受賞する前から銀座ロンドンニューヨークの店舗で取り扱ってくださっていて、おかげでブランドを知ってくれる人や服を着てくれる人が増えました。常にファッションでお客様を楽しませる試みを実践されていることに共感しますし、それに僕も参加させてもらえているのはとても幸せなことです。

桑田 スタッフの方に昨年LVMHプライズのセミファイナリストのショールームイベントを見ていただいたのが初めだったと思います。僕はロンドンでの生活が長いのでオープン当初の店舗も知っていましたし、憧れの存在でした。ですから、今日のようなイベントを開催できたのはとても感慨深いです。ただ、まだディスプレイさせていただいたことはないので、今後ぜひ機会があれば…

井野 今季のダブレットのように銭湯のディスプレイを作ります?!(笑)

桑田 そのレベルに行けるように頑張りたいです(笑)。ブランドの世界観を表現する空間を作れるようになれたらいいですね。

銭湯を再現したドーバー ストリート マーケット ギンザ店内のダブレットコーナー。

――お互いのブランドにはどういうイメージを持たれていますか?

桑田 いろいろな方からダブレットDOUBLET)は「世界で戦える服作りをしている」というお話は聞いていたのですが、実際にテーラリングを見るとすごくしっかり作られていて。ヨーロッパには作りが荒い若手ブランドが結構多いのですが、井野さんの服はすごく完成度が高い。

井野 ありがとうございます。

桑田 サヴィル ロウ(SAVILE ROW)でテーラーをしていたので、思わずその目線で言ってしまいました!すいません!(笑)

井野 (笑)。パリのショールームでは桑田さんに説明してもらいながらセッチュウのサンプルを見せてもらったのですが、率直にめちゃくちゃわくわくするな、すごく袖を通したくなる洋服だな、と思いました。そして個人的にすごく好きなのは洋服のネーミングです。シグネチャーの「折り紙ジャケット」とか。衣紋を抜いた着物のような感じになるモデルを「ゲイシャ」と名付けるセンスは素晴らしい。

桑田 本当ですか!

井野 サヴィル・ロウでテーラリングを学んだ、という経歴を聞くと、毛芯を使って硬い仕上がりになるのかな?と想像してしまいますが、平らに畳めるようにするなどルーツである日本のイメージをうまく融合させて思わず着てみたくなる服だと思います。

セッチュウ 2024-25年秋冬コレクションより

セッチュウ 2024-25年秋冬コレクションより

セッチュウ 2024-25年秋冬コレクションより

――お二人共 LVMHプライズのグランプリを受賞されていますが、5年違うと、待遇やシステムは変わるものなのでしょうか。

桑田 井野さんの時の賞金は30万ユーロだったようですが、僕の時は40万ユーロにアップしていました。サポートは今後どんどん良くなっていくのではないでしょうか。

井野 僕たちは日本ベースなので、日本にいるLVMHのエキスパートの方に指導を受けましたね。僕の場合、受賞によって急に知名度が上がったのが怖かった。それに見合うようにものづくりのクオリティを高めることが先決だと思ったので、LVMHには「それまでのスタンスを変えずにゆっくり成長していきたい」と伝えました。パリでコレクションを発表するノウハウなどは教えてもらいましたが、もしかすると拍子抜けだったのかもしれません。

桑田 僕のメンターはLVMHグループのメゾンであるパトゥPATOU)のCEO、ソフィー・ブロカールさんです。

井野 パリに行った時はソフィーさんにいろいろ教えてもらいました。めっちゃ優しくて。

桑田 優しい方ですよね。僕はイタリアでものづくりしているので、「取引していた工場が潰れてしまったので他に良いところはないか」とか「こういう素材を作りたいが知り合いはいないか」とか、週に一度は電話で相談しています。あとはブランドを経営していくにあたってのビジネスプランの作り方とか。TEDスピーカーの方にこうしたインタビューの受け答えやプレゼンの仕方を教わったりもしました。

井野 桑田さんはLVMHと良いコミュニケーションを築けていて、今後の受賞者たちの可能性も広げているのではないでしょうか。とても素晴らしいです。

――受賞もきっかけの一つとなり、今お二人はグローバルに活躍されているわけですが、そのために必要なことは何だと思われますか?

井野 語学ができるにこしたことはないですね。世界中の人ともっとコミュニケーションが取れたらいいな、とは思います。

桑田 僕は海外生活が長いのでその点はラッキーでしたが、一生懸命、納得がいくまでものづくりをしていれば、言葉は関係なく見る人に伝わるはずだとは思っています。

――ものづくりに日本の要素を取り入れることはグローバルに展開することと関係するでしょうか?

桑田 先人のおかげで日本が海外で人気ということもあり、絶対僕は日本の要素を入れています。ブランド名が「折衷」を元にしているように、日本とヨーロッパを足して2で割るという感じです。

井野 グローバルに展開するからといってそっちに合わせようとすると嘘っぽくなってしまう。自分が体験していないことは、話すにしても何かあやふやになりますよね。だから僕にとっては日本で育った自分が慣れ親しんでいることや実体験を表現するのが一番合っているんです。

桑田 それがダブレットの世界観のすごいところだと思うんですよね。皆世界に向けてこういう風に見せようと力んでしまうのに、リラックスして取り組んでいるうえに、アイロニーも感じさせます。

井野 ありがとうございます!

ダブレット 2024-25年秋冬コレクションより

ダブレット 2024-25年秋冬コレクションより

ダブレット 2024-25年秋冬コレクションより

――今後についてはどのように考えていらっしゃいますか?

井野 パリ・ファッション・ウィークでショーを開催することがブランドの表現にとっては大切だと思っているのですが、莫大な経費がかかります。ショーを続けていくために、楽しくビジネスを広げていけたら、と思っています。

桑田 僕は、もっと頑張って知名度を上げたいですね。

井野 洋服を手に取ったら、皆好きになると思いますよ。

桑田 本当ですか!こうして井野さんとお話ができる関係性はすごくうれしいです。デザイナー同士というのは競争相手でもありますが、例えば、カール・ラガーフェルド高田賢三が一緒に写っている昔の写真を見ると、ファッションのファンとしてかっこいいと思ってしまうじゃないですか。お互い切磋琢磨できるといいですね。

――最後に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

桑田 だいたい伺えたような気がしますが……お酒が入ればさらに出てくると思います(笑)。

井野 確かに(笑)。続きは今度ゆっくり。

桑田悟史(Satoshi Kuwata)
1983年京都府生まれ。セレクトショップで働いたのち、21歳の時にロンドンへ。サヴィル ロウでテーラリングを学びながら、セントラル・セント・マーチン美術大学に通う。その後数々のブランドで経験を積み、2020年イタリア・ミラノでセッチュウを設立。23年LVMHプライズのグランプリを受賞した。

井野将之(Masayuki Ino)
1979年群馬県生まれ。ミハラヤスヒロなどを経て、2012年にダブレットを立ち上げる。18年に、アジア人で初めてLVMHプライズのグランプリを受賞。20年からパリ・ファッション・ウィークに参加している。

Photos: Hiroaki Nagahata (Portraits) , Gorunway.com Interview&Text: Itoi Kuriyama Editor: Saori Yoshida