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「ファインダイニングのステレオタイプに甘んじない」──世界が注目するスターシェフ、ニコ・ロミートが考える食文化の基盤【FAB FIVE】

ブルガリ ホテル 東京の「イル・リストランテ ニコ・ロミート」に、開業からわずか8カ月で、ミシュランガイド東京の一つ星をもたらしたニコ・ロミート。異色の経歴を持つ彼はなぜ、食のサステナビリティに取り組むのか。

ニコ・ロミートは、経済学を専攻するも、トラットリアを営む父の病を機に独学で料理を学び、7年でミシュラン星を獲得。

ブルガリ ホテル 東京のシグネチャーダイニング「イル・リストランテ ニコ・ロミート」が、2023年4月の開業からわずか8カ月で、ミシュランガイド東京の一つ星を獲得した。シェフのニコ・ロミートは、イタリア中部、アブルッツォ州のレストラン「レアーレ」で三つ星を獲得し、「世界のベストレストラン50」でも16位にランクインする、世界的なスターシェフだ。ブルガリ ホテルズ & リゾーツとは、パリ、北京、ドバイ、上海ミラノ、ローマでレストランを展開している。「イタリア料理とラグジュアリーダイニングの新たなコードの定義は、“ニコ・ロミート”ブランドの重要なテーマです。イタリアのクラシックに根ざし、自身のアイデンティティを表現しつつ、ファインダイニングのステレオタイプに甘んじない世界観をつくり上げる。私たちの考え、実践が世界屈指の美食都市である東京で評価を得たことは、自分だけでなくチーム全員の喜びです」

ブルガリ ホテル 東京の「イル・リストランテ ニコ・ロミート」も開業から8カ月でミシュランガイド一つ星を獲得。

アブルッツォ州出身、トラットリアを経営する家に生まれ、独学で料理を学んだ。大都市の料理学校に学んだ経験も有名店での修業歴もない、異色の“エリート”シェフは、社会への働きかけもユニークだ。「レストランで使用する食材選び云々だけで、食のサステナビリティは語れない。私は本拠地のアブルッツォにラボラトリーを設立し、病院食や学食の刷新に努めています。おいしくて栄養価に優れ、喜びを感じられる食事を、誰もが衛生的な環境で楽しめる社会こそが食文化の基盤。ガストロノミーとはかけ離れたことのように思われるかもしれませんが、私にとってはコインの表裏なのです」

1. 食のシーンが印象的だった映画やドラマなどの映像作品を教えてください。

Photo: Eric Zachanowich / © Searchlight Pictures / Courtesy Everett Collection

映画やテレビドラマなどはあまり観ないのですが、たまたまドバイに滞在中に観た『ザ・メニュー』は、なかなか衝撃的でした。孤島にある、予約至難なレストランでの出来事を描いたサスペンス。ざっくりいえば“注文の多いレストラン”の話で、私にとっては完全な反面教師。レストランは楽しい体験が素敵な思い出となる場所なのですから。

2. 自身の探求心を刺激するアートは?

Photo: Werner J. Hannappel / Courtesy of Fondazione Ettore Spalletti

刺激を受けているイタリア人画家の一人がエットーレ・スパレッティです。偉大なイタリア芸術の伝統を受け継ぐ代表的人物として知られるエットーレの絵は、グレイやブルー、ローズといった独特の淡い色彩で、美の神髄や人間の魂を描き出している。私はアブルッツォの店に蒸溜器を置いているのですが、「蒸溜」はエッセンス(本質、神髄)を抽出する作業で、シンボリックな意味でも大切にしているもの。彼のフィロソフィには共感するところが多いです。

3. 壮麗なインテリアも見事な「イル・リストランテ ニコ・ロミート」ですが、デザインの面で影響を受けた表現者は?

Photo: David Lees / Getty Images

建築家、プロダクトデザイナーのジオ・ポンティです。1900年代初頭には、イタリアの陶磁器メーカー、リチャード・ジノリのアートディレクターを務めたことでも有名です。彼の表現は常に美しく、オリジナルであり、さらに機能的である。料理も同じ。おいしく、美しく、「人の役に立つ」機能を備えていなければ。そういう意味において大きな影響を受けました。

4. 世界各国でレストランを展開されています。日本の文化で心惹かれるものは?

Photo: Heritage Art / Heritage Images via Getty Images

日本文化は非常に繊細で、隅々にまで細やかな気配りが尽くされている。料理はもちろん、食材の加工品や工芸品など、あらゆる分野の仕事がそうであるように感じます。今回まで二度の来日時はレストランの仕事にかかりっきりなので、次回は必ず日本各地の旅のための時間を取りたい。特に、陶磁器が有名な有田焼の里には足を運びたいです。

5. イタリアの食文化を知りたいと思った人に、おすすめの本はありますか。

Photo: The New Cucina Italiana: What to Eat, What to Cook, and Who to Know in Italian Cuisine Today by Laura Lazzaroni / Rizzoli

イタリア料理の教科書的な本ならば、19世紀に活躍したペッレグリーノ・アルトゥージの『イタリア料理大全』が有名ですが、VOGUE JAPANの読者の方なら、もう少し時代に即したものがよいでしょうか。著名なジャーナリストのラウラ・ラッザローニが2021年に発表した『THE NEW CUCINA ITALIANA』は、マンマの台所からシェフのラボ、イタリア各地の農場とさまざまな視点から現代のイタリア料理を解析した名著。若い料理人たちにも勧めています。

Text: Kei Sasaki Editor: Yaka Matsumoto