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“隠す”常識を超え、“見せる美”へ。陰毛トレンドの逆転現象

アンダーヘアは剃る(あるいは脱毛する)もの──そんな固定観念が変わりつつある。TikTokのバズワードや、ハイファッションの最前線、アートの世界へと広がる“ブッシュ・リバイバル”。陰毛は単なる体毛の域を超え、個性や自己表現の象徴として新たな注目を集めている。
“隠す”常識を超え、“見せる美”へ。陰毛トレンドの逆転現象

「フル・ブッシュ・イン・ア・ビキニ」、この言葉が今TikTokで大きな話題になっている。きっかけは、アーティストのSujindahが投稿した動画で、再生回数はすでに1400万回を超えた。

しかし、これは単なるバズワードではなく、アンダーヘアのトレンドが再びナチュラル志向へと戻りつつあるサインでもある。「フル・ブッシュ・イン・ア・ビキニ」というフレーズが象徴する通り、時代は再び“ナチュラルヘア回帰”へ。自然な美しさが、改めて脚光を浴びているのだ。

メゾン マルジェラ2024年春夏クチュールコレクションより。Photo: Filippo Fior / Gorunway.com

約1年前、メゾン マルジェラMAISON MARGIELA)の2024年春のクチュールコレクションで、モデルたちは“フェイク・ブッシュ”をまとってランウェイを闊歩。その後、ビョークがスカンジナビア版『VOGUE』のカバーで、このルックをマーキン(=同ブランドのショーで登場した陰毛ウィッグのアクセサリー)付きで披露したのも記憶に新しい。この“ブッシュ”は、まさにオートクチュールの極み。シルクチュールに本物の人毛を丁寧に刺繍して作られたもので、ヴィクトリア朝風のガウンのシアースカート越しに、その繊細なディテールがちらりとのぞく仕掛けになっていた。

イギリスのファッション業界誌『System Magazine』のインタビューで、クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノは、このコレクションのインスピレーションについて「ブラッサイの静謐でスタイライズされた写真、そして当時のパリアンダーグラウンドに生きる人々から影響を受けたんだ」と語っている。1920〜30年代のパリのナイトライフを撮影した写真家として知られるブラッサイの作品の中には、豊かなアンダーヘアを捉えたヌード写真も含まれていたのだが、それらは当時あまりにも衝撃的だったため、すぐには発表できなかったという。

ランウェイでモデルたちがマーキンを纏っていたころ、エマ・ストーンもスクリーン上でそれを身につけていた。2023年公開のヨルゴス・ランティモス監督作『哀れなるものたち』で、彼女が演じたベラ・バクスターは、ちょうどブラッサイが撮影したようなパリの娼館で働くキャラクターだった。

「娼館の女性たちは、大きな袖のついた洋服を着ていましたが、胸もとは露出していました」と衣装デザイナーのホリー・ワディントンは米・NYを拠点にするメディア「Coveteur」のインタビューで語った。「私のチームは全員のために小さなホットパンツを作ったのですが、クロッチ部分の編み上げを、開いた状態で着用することでアンダーヘアが見えるようになっていました。私たちの文化では、アンダーヘアを見せることに抵抗がありますが、あえて見せることで、それをひとつの表現にしたのです」

映画『哀れなるものたち』より。Photo: Searchlight Pictures/Courtesy Everett Collection

グエン・フィオーレ、リンスキー、日景由実子、ナスチャ・クリチコワの4人によるアート展「Motherland」では、アンダーヘアにラインストーンを散りばめたり、編み込んだりと、まるでアートのように装飾を施した作品が披露された。2024年9月にパリで開催されたこの展示のステートメントにはこう記されている。「陰毛はしばしば社会的な不快感やタブーの対象とされるが、ここでは個人の自己表現とエンパワーメントの場として再構築されている。このプロジェクトは、ユーモアと遊び心を持ちながらも、そのテーマの持つ深みを損なうことなくアプローチしている」

アンダーヘアがオートクチュールやアートの世界で注目を集める一方で、日常のランジェリー事情への影響はあるのだろうか? その答えは「イエスでもあり、ノーでもある」。オーガニック スキンケア NYCのオーナー、アリータ・テリーは『VOGUE』の取材に対し、「脱毛のオーダーが大きく変化したとは感じていません」と語る。ただし、気温が上がると予約が増える傾向は例年通りだという。しかし、彼女が特に注目しているのは、Z世代の間で脱毛そのものを選ばない人が増えている点だ。アンダーヘアだけでなく、脚のムダ毛やハッピートレイル(おへそから下に続くうぶ毛)もそのままにする傾向が見られるという。「彼らは性別も美の基準もまったく新しい形に再定義しました。だから、デリケートゾーンの見せ方が変わったとしても、不思議ではありません」

想像以上に長い歴史を持つボディヘアの脱毛事情と、複雑なトレンドの変遷

『Vulva』の著者であるノンフィクション作家のミトゥ・サニャルはボディヘアの脱毛についてこのように語る。「90年代に突然ブラジリアンワックスが流行し始めたというのは誤解です。古代ギリシャでも、人々は陰毛の処理をしていました」。さらに、そもそもアンダーヘアには身体的な機能があると指摘。「デリケートゾーンを保護し、フェロモンを拡散する役割があるのです。本来、ちゃんと意味があって生えているのです」

Sujindahがこのコンセプトに興味を持ったのは、昨年の夏。オンラインマーケットのEtsyで販売されていたビキニのレビュー写真の投稿で、堂々とフル・ブッシュを披露する姿を見かけたことがきっかけだったという。「そのレビューを見つけたとき、ビーチでの装いに対する考え方が変わりました」とSujindahは『VOGUE』に話す。

「私はもともとビーチに頻繁に行くタイプではなかったのですが、彼女のスイムウェアの着こなしを見て、今まで見てきたビーチファッションの概念が完全に覆されたんです。自分らしくいることを大切にする私にとって、陰毛を見せることを厭わないビキニの着こなしはストライクゾーンど真ん中。“モロ”って感じで衝撃的。私たちは本当はもっと目にするべきなのに、意識的に避けてきたのでは? そう思わされた瞬間でした」

そのビキニのレビュー写真は、Sujindah自身の創作活動にも影響を与えた。彼女はすぐに、その画像をクリエイティブパートナーであるエヴァンジェリンに送り、プロジェクトのインスピレーションとして共有したという。「私は昔から、ハイファッションの世界やTumblrで見てきた写真に陰毛が登場するのが大好きでした」とSujindahは語る。「だからこそ、あのレビュー写真にはアートとしての魅力も感じたんです」

アートと現実は互いに影響を与え合う。たとえそれが陰毛であっても。

Text: Erika W. Smith Translation: Makiko Yoshida
FROM VOGUE.US

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