アカデミー賞ノミネートを確実視される話題作
リドリー・スコット監督が、完成直後に「自分史上最高」と自信のほどを明かした続編『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』。これまで多くの傑作を送り出し、11月30日に87歳の誕生日を迎える巨匠にとっても満足のいく仕上がりになったようだ。予告編は公開後24時間の再生数で、あの『トップガン マーヴェリック』(2022)を超えるなど、早くから期待値が高かった。
前作『グラディエーター』(2000)は、アカデミー賞で作品賞や主演男優賞など5部門に輝いたが、いわゆる“アクション超大作”がアカデミー賞の頂点に立つことは稀だ(過去30年で作品賞を受賞したのは1995年の『ブレイブハート』、2003年の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』くらい)。つまりエンタテインメントとして広い層にアピールしつつ、作品のクオリティが高かった証明でもある。リドリー・スコット監督も、この続編の取材でこんなことを明かしていた。
「前作の後、周囲の人たちから『グラディエーター』が人生で最高の映画だという言葉をもらってきた。そこまで愛されているのなら、続編を作れないこともないだろう。それが製作のきっかけだよ」
では前作に続いて、『グラディエーターⅡ』はアカデミー賞などに絡む可能性があるのか? まだ少し早い時期とはいえ、作品賞ノミネート10本の中に『グラディエーターⅡ』を入れて予想している記事を目にする。2009年度以降、アカデミー賞作品賞のノミネート枠は、それまでの「5」から「最大10」に変更され、2021年度から「10」に固定された。そのため作品もバラエティに富むようになり、メジャースタジオの大作も2〜3本は必ずノミネートされるようになった。その傾向から、今年は『グラディエーターⅡ』や『デューン 砂の惑星PART2』、『ウィキッド ふたりの魔女』あたりが有力と考えられている。しかしあくまでも現時点の予想であり、どうなるかは不透明だ。
父から息子に引き継がれた剣闘士の物語
いずれにしても『グラディエーターⅡ』は高い評価を受けている。その要因はいくつもあるが、多く見受けられるのが、「伝説を作った前作のスピリットを継承し、続編にふさわしい作品」「アクションの演出、スケールは絶賛されるべき」といった評である。前作では、ラッセル・クロウが演じた最強の剣闘士=グラディエーターが主人公だったが、今作はその息子ルシアスの物語。この設定もリドリー・スコットのアイデアだという。
「続編の話は早くからあったのだが、当初の脚本(マキシマスが天国へ行くという、やや非現実的要素もあった)ではうまくいかないとプロジェクトが一旦ストップした。そこから2年間くらい考え、マキシマスの息子が生きていて、その息子には皇位継承権があるため命の危険があると察した母親が、彼を遠くの地へ逃がす……というアイデアがひらめいた。そこから新たな脚本化に着手したのだ」
息子へ継承された物語。その息子が古代ローマ帝国の新たな英雄となる流れに、前作を観た人は24年というインターバルを一気に超え、すんなりと没入してしまうのである。『グラディエーターⅡ』のオープニングでは、前作のドラマが美しいアニメで再現された後、最初のシーンで、あるアイテム=麦が前作のラストの記憶を甦らせる。ここにもスコットの“ビジュアリスト”としてのセンスが光る。
有無を言わさぬ興奮を届けるのは、コロセウム(円形闘技場)での剣闘士たちのアクションだが、もちろんCGIは使われるものの、マルタ島に巨大なセットを建築。コロセウムのアリーナの3分の1から4分の1は本物で、しかも観覧席にいる皇帝らのキャストは、実際に剣闘士たちの闘いを見つめながら演技をしていた。8台から12台のカメラで一気に撮影を進め、剣闘士の動き、それに対する人々の反応を生々しく映像に収めたのだ。「マルチカメラの手法によって、俳優たちも自由に演じることができる。特に会話のシーンなどは一気に撮ってしまった方がうまくいくんだ」とスコットは説明する。
前作に続いてルッシラ(ルシアスの母親)を演じたコニー・ニールセンも、「観客席に座ってアリーナの剣闘士の闘いを実際に見ることで、本物の緊張感を表現できたと思う。共演者たちのエネルギーを肌で感じながら演じられた」と振り返る。
前作では剣闘士とトラの対決が話題になったが、今作でヒヒ(サル)やサイ、サメといった信じがたい敵との闘いも強いられるルシアス役のポール・メスカルも「ヒヒは、その動きを完璧にマスターしたスタントマンを相手に闘ったし、サイはまばたきもする本物そっくりのモデルが使われたので、後の合成など考えることなく、真実味に溢れたアクションに挑めた」と語り、こうしたマルチカメラ、本物を見せながらの演技によって、アクション場面が臨場感をもって観客に届くということを本作は証明しているのだ。
ヴィランとして異才を放つデンゼル・ワシントン
前作ではマキシマス役のラッセル・クロウがアカデミー賞主演男優賞を受賞し、彼を追い詰める皇帝コモドゥス役のホアキン・フェニックスもその演技力が高く評価された。キャスティングですべてが決まると言われる、リドリー・スコット作品。役を任せられると信じた俳優に、スコットは撮影時もほとんど何も指導せず、演じさせる。
今回もデンゼル・ワシントンが、アカデミー賞などの助演男優賞でノミネート入りがささやかれている。彼が演じたのは、奴隷としてローマに連れて来られたルシアスに剣闘士としての才能を見出すマクリヌス。皇帝らとも近しい関係にあるこの男は、ローマ帝国の支配も目論み、恐るべき陰謀も進めようとする。
“悪”の側面も強いマクリヌスを、ワシントンが演じることで何層ものレイヤーが生まれる。自身の出自を知るルシアスの運命と並行する、マクリヌスを中心とした権力者たちのダークな駆け引きが背筋を凍らせるのも、名優デンゼルをこの役に配したからだろう。「この役はデンゼル以外に考えられなかった」とスコットが語るように、ここにキャスティングの成功例が見て取れる。
ついに大作映画で花開いたポール・メスカル
ルシアス役のポール・メスカルは現在28歳ながら、『aftersun/アフターサン』(2022)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、若き実力派として知られる。体重を8kg増やし、剣闘士の激烈アクションを披露しているが、その真価が発揮されるのは、コロセウムのアリーナで大観衆に語りかける芝居だろう。
もともと舞台で才能が開花し(本作の抜擢もスタジオ幹部が彼の舞台『欲望という名の電車』を観たことがきっかけ)、スコットも「コロセウムでのポールの演技は、舞台の名俳優を見ているようで素晴らしかった」と絶賛するように、前作のラッセル・クロウに引けをとらないカリスマ性で、英雄物語に説得力を与えた。スコットとメスカルは次回作でもタッグを組むべく、交渉が進められているという。
では、リドリー・スコットが『グラディエーターⅡ』で伝えたかったことは何なのか。巨匠は、少しだけ表情を強張らせて次のように打ち明けた。
「残念ながら、人間は歴史から何も学んでいない。ひたすら過ちを繰り返すのみだ。私は第二次世界大戦勃発前に生まれ、1947年と1952年は、陸軍の高官だった父の仕事でドイツに暮らした。父は敗戦国のドイツ復興事業、いわゆるマーシャル・プランに関わっていた。そんな父を通して私は戦争を少しばかり学んだが、現代人のほとんどは戦争について知らないことが多すぎる。だから宗教や、あえて名前は出さないが独裁者が今でも戦争の火付け役になってしまうのだろう」
このスコットのメッセージは本作から直接的に、あるいは押し付けがましく伝わるものではない。あくまでも全体の作りは、一人の人間の英雄伝、スペクタクルなエンタメ大作だからだ。しかし冒頭のローマによる北アフリカへの侵攻シーンから、ローマ帝国末期の皇帝の横暴、政治的な裏取引が導く惨劇まで、ベースになっている設定を現代の世界情勢と重ねることは容易だ。前作以上にバイオレンス描写が強烈さ、生々しさを極めるのも、この24年間でさらに悪化した“他者への攻撃性”を象徴しているようでもある。
古代ローマの剣闘士の物語が、現代を生きるわれわれに何をアピールするのか。『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』は、それを発見することで、より荘厳な後味がもたらされる。だからこそ高い評価が集まっているのかもしれない。リドリー・スコットは第3作への意欲も告白している。プロデューサーたちは「そのためには脚本など多くの高いハードルがある」と冷静に打ち明けるが、公開後の評判や興行収入、賞レースの結果によっては現実味を帯びることだろう。
Text: Hiroaki Saito
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