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グレン・パウエルが今、最も熱いハリウッドスターと言われる理由

大作を担うスターが生まれにくいと言われているハリウッドで、その期待を一身に背負うグレン・パウエル。日本でも主演作の公開が相次ぐハリウッドの寵児が、脚本家・共同プロデューサーとしても名を連ねる最新作『ヒットマン』(9月13日公開)への熱い思いを語る。

ハリウッドが熱視線を注ぐ、未来の大スター

パウエルが『ヒットマン』で好演するゲイリーは、さまざまな“ヒットマン”殺し屋に成りすまし、囮捜査に協力する。Photo: © 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

大作を担うスターが生まれにくいと言われているハリウッドで、その期待を一身に集めているのがグレン・パウエルだ。トム・クルーズの代表作『トップガン』の36年ぶりの続編にして予想を上回る大ヒットを記録した『トップガン マーヴェリック』の“ハングマン”役でブレイクしたパウエルだが、今年は立て続けに3本の主演作が日本で公開されるという超売れっ子となった。シドニー・スウィーニー共演のロマンティック・コメディ『恋するプリテンダー』、巨大竜巻に向かう人々を描いたアクション・アドベンチャー『ツイスターズ』というヒット作に続くのが、リチャード・リンクレイター監督の奇想天外なクライム・コメディクライム・コメディ『ヒットマン』だ。

そんなゲイリーの素顔は猫と暮らしながら哲学と心理学を教える冴えない大学教授。Photo: © 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

大学講師のゲイリーは、さまざまな殺し屋に成りすまし囮捜査に協力。やってみたら思わぬ才能を発揮し、依頼してくる“クライアント”を次々と逮捕に導くが、マディソンという女性クライアントに同情したばかりに事態は思わぬ方向に転がっていく──。第80回ベネチア国際映画祭でワールドプレミアされ、作品とともにその演技を絶賛されたパウエルだが、本作では共同脚本・プロデューサーにも名を連ねる。実は、そもそも本作の映画化をリンクレイターに持ちかけたのが彼なのだという。

きっかけは、雑誌で目にしたとある記事

プレミアイベントで、『ヒットマン』の共演者たちと。Photo: Josh Huskin

「コロナのパンデミックで家に籠もっていたとき、リック(リンクレイター監督)に電話で『テキサス・マンスリー』誌に掲載されていたスキップ・ホランズワースが書いたゲイリー・ジョンソンという実在の人物についての記事の話をしたんです。30年間もニセの殺し屋というクレイジーな仕事を続けていたなんて実に魅力的なキャラクターですからね。本当にエキサイティングで楽しい映画になると思うと話し始めると、彼はちょっと間を置いて“その記事なら、君が中学生の頃に読んだことがある”と言ったんです。“ものすごく魅力的な男の話だから、これまでもいくつの映画企画が上がったけど実現できていない。僕もいつもこの記事を見直す”と」

ファンサービスにも気軽に応じるフランクな素顔も人気の理由。Photo: SHOOT Photography

リンクレイターによって映画化の企画が進む中、そのリサーチ量の膨大さと熱意をかった監督がパウエルを共同脚本の執筆に誘ったのだという。
「リックと僕は、この物語のもつアイデンティティの模索というテーマに着目しました。コロナ禍の初期、多くの人は自分が何者であるかということを考え、行き詰まっていたと思います。キャリアも住む場所も恋愛関係も変化を余儀なくされていましたから。リサーチをしていて、ゲイリーがさまざま殺し屋に成り切るのは、相手が求めるいわばファンタジーを具現化していることでもあると気づいたんです。人は、誰かに会う時、自分の最も魅力的なバージョンを作り上げるものでしょう? これは普遍的なアイデンティティの問題と深く結びついていると思います」
 実際に、映画中におけるパウエルの“七変化”はこの映画の最大の魅力でもある。

「さらに僕たちのイマジネーションに火をつけたのは、マディソンというキャラクターでした。 記事の中で、ゲイリーは、夫を殺そうとしていた女性に会うのですが、彼は彼女は良い人でそんなことはできるはずがないと彼女を説得します。僕たちは、その先はどうなるのか追求したくて、マディソンというキャラクターを生み出したようなものです」

映画界における、テキサスの同胞たちとの絆

『6歳のボクが、大人になるまで。』などでも知られるリチャード・リンクレーター監督(右)。Photo: Brian Roedel / Netflix

同じテキサス出身のふたりは、パウエルが子役時代からの知り合いで『ファストフード・ネイション』(2006)や『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)でもともに仕事をしているが、大人になった今は親しい友人なのだという。実際、テキサス出身の映画人は絆が固い。パウエルもロバート・ロドリゲス、イーサン・ホークといった同胞との仕事も多い。テキサス人のルーツに根ざしているものはあるのだろうか?

「僕らがやろうとしていること、そして誇りに思っていることはオリジナリティの追求です。それは、リックを特徴づけているもののひとつでもあります。彼は実際にハリウッドにもあまり行かないですし、それ故に純粋さや芸術性、誠実さが損なわれることがありません。僕たちはこの映画をほとんど自主制作のようにして、自分たちが作りたかった映画を作りました。それがどんなジャンルにも属さない映画になった理由でもあると思います」

グレン・パウエルの七変化を目撃したい『ヒットマン』は9月13日公開

Text: Atsuko Tatsuta Editor: Yaka Matsumoto