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クリエイティブ・ディレクター不在のグッチが奏でる、個性とコードの融合【2025-26年秋冬 ミラノコレクション】

今月初め、クリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノの退任を発表したグッチGUCCI)。2月25日(現地時間)に披露されたデザインチームによる2025-26年秋冬コレクションは、メゾンを作り上げるあらゆる個性とコードを融合させ、新章へと向かうグッチの基本に立ち返った。
Photo: Daniele Venturelli/Getty Images

10年前の1月、新たにグッチGUCCI)のクリエイティブ・ディレクターに任命されたアレッサンドロ・ミケーレは、わずか5日間で新コレクションを作り上げてみせた。それも、デザインからモデルのキャスティングに至るまでのすべてを固め、その道すがら、メゾンの新章を書き換えた。

今月初め、わずか2年という短い任期を経て、グッチのクリエイティブ・ディレクターを突如退任したサバト・デ・サルノ。もしや10年前と同様に、秋冬コレクションを目前に新任デザイナーが任命されるのではないか、と巷では憶測が飛び交っていた。しかし、やはりそれは憶測に過ぎず、本日行われた2025-26年秋冬ショーでは、ミケーレの時のように颯爽とトップの座を継ぎ、メゾンを新たな方向へと導いてくれる人物は現れなかった。

Photo: Daniele Schiavello/launchmetrics.com/spotlight

その代わり、今季のコレクションは2年ぶりにデザインチームが担当。新任クリエイティブ・ディレクターが任命されるまでをつなぐコレクションで、ひとつの時代の終焉を示すかのように、フィナーレに登場したスタジオチームは全員、デ・サルノによるグッチを象徴するカラー“ロッソアンコーラ”ではなく、“アンコーラヴェルデ”色のトレーナーに身を包んでいた。デザインとは、骨折り仕事だ。何十人ものメンバーからなる制作チームを見て、改めてそう気づかされた。メゾンもプレスリリースで、何かをデザインするということは、いかに多大な労力と人員を要するかを強調。「ファッションハウスとは、時を超越するクラフト、テイスト、カルチャーの連続体です。多くの経営者や後見人、工匠や職人、クリエイティブ・ディレクターやデザイナー、コミュニケーターや顧客が携わっており、それぞれの歴史が絡み合っているのです」

Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com

個性と個性が絡み合うものがメゾンだが、私たちが見たいのは、そのぶつかり合いではなく、異なるもの同士の融合から生まれる、心揺さぶるひとつの一貫したビジョンなのだ。次はどんな壮大なアイデアが展開されるのか。それが知りたくて、来るシーズンも来るシーズンも、コレクションを鑑賞する。デ・サルノの後任者に関するアナウンスはまだなく、そのため新生グッチの指針となるビジョンもまだ定まっていない。その分、今回のコレクションではあらゆるグッチらしさの融合が披露された。全盛期の60年代を思わせる煌びやかなシフトドレスに、ミケーレ期に打ち出されたアイコニックなスリッポンローファーのファーなし版。ラインストーンのダブルGモチーフが光る、ベルベットのキャットスーツは90年代のトム・フォード期を彷彿とさせ、デ・サルノが在任中に手がけたようなアシッドカラーのシルクスリップドレスなども登場。一見、何の変哲もないイエローのコートにも、デ・サルノの名残はあった。バックにセットインされたギャザーが全体を格上げするデザインのコートは、特別な日にも纏えるアウターウェアを好んで制作した、デ・サルノらしさを漂わせる。

Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com
Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com
Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com

メゾンのあらゆる時代を巡るコレクションであることはさておき、どのルックも一癖も二癖もある仕上がりになっていた。少なくともウィメンズは、個性が強い。フェイクファーのコート、ペンシルスカートにレースのブラレットという見せブラコーデ、キャップの上からスカーフを巻いたスタイル、レザーグローブをハンドバッグに合わせたルックなどがランウェイに送り出された一方で、メンズはテーラードアイテムにより焦点を絞っていた。ダブルブレストスーツは、シャツからネクタイまで同色。シングルブレストのものは極薄のタートルネック、ビニールやツイード、緑青付けされたアニマルプリント生地のカーコートとスタイリングされ、奇抜さよりも王道を攻めた模様。

Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com
Photo: Alessandro Lucioni / Gorunway.com

グッチは、次はどこへ向かうのか。ショーノートにもあったように、メゾンには多くの人によって作り上げられたレガシーがある。ありとあらゆる形で展開されてきた「ホースビット」など、メゾンを象徴するコードはもちろんこれからもグッチの根幹をなすが、誰かの創造力が加わることで、ショーは初めて息吹を吹き込まれ、ブランドは進化する。今季のコレクションを昇華させ、グッチの新章を幕開けてくれる後任者への期待は高まるばかりだ。