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『バービー』をより楽しむために知っておきたいポイントを徹底解説──生みの親ルース・ハンドラーやイースターエッグetc.

全世界興行収入が10億ドル(約1420億円)を突破し、女性の単独監督作として史上初の快挙となった『バービー』。60年以上も子どもたちに親しまれてきたファッションドールを実写化した本作は、ハッピーなファンタジーと現実社会へのメッセージを織り交ぜたユニークな作品だ。そこでプロデューサーとしても活躍した主演のマーゴット・ロビー、女性監督として新たな記録を打ち出したグレタ・ガーウィグを中心に作られた世界の舞台裏を探ってみよう。

バービーの生みの親、ルース・ハンドラーとは?

『バービー』は全国公開中。

© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

人形遊びの常識を大きく変えたバービーを誕生させたのは、ルース・ハンドラーという女性だ。夫のエリオットと家具メーカーを始めた後、ビジネスマンのハロルド・マットソンと3人で新たに会社を設立。男性2人の名前を組み合わせてマテル社となった。玩具用の家具製造が成功したことで、玩具メーカーへとシフトした。

バービーは、同社の共同社長を務めたルースが、娘のバーバラが友達と紙人形で遊んでいるのを見たのをきっかけに誕生。「彼女たちは、大人の女性としての将来の夢を人形に投影していた。その遊びのパターンを立体化できたら素晴らしいのではないか?」。ルースは、このように回想録に綴っている。バービーという名前は、インスピレーションとなった娘にちなんだもの。バービーのボーイフレンド、ケンもハンドラー夫妻の息子ケネスから命名された。

1999年、バービー誕生40周年のイベントにて。

Photo: Jeff Christensen/RETIRED

ルースは1970年に乳がんを患った経験から、乳房切除手術を受けた女性のために人工乳房を開発し、当時の大統領夫人のベティ・フォードも愛用したという。そんな彼女は財務報告書作成の不正で1975年に社長を辞任したが、そのことには劇中でもレア・パールマン演じるルースが、自ら言及する。また、バービーがルースと対面して2人の手が触れ合うシーンは、イタリアのシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロが描いた神とアダムの手の位置を再現しているが、ルースとバービーの関係を重ね合わせた表現だ。

マーゴット・ロビーとグレタ・ガーウィグ、それぞれのこだわり

主演のマーゴット・ロビー(右)と、グレタ・ガーウィグ監督(左)。

Photo: Don Arnold/WireImage

主演俳優であると同時にプロデューサーとしても敏腕ぶりを発揮したマーゴット・ロビー。大作映画では主演スターがお飾り的にプロデューサーとしてクレジットされることもあるが、彼女はグレタ・ガーウィグ監督とともに描いたヴィジョンを実現するためには一歩も引かず、粘り強く相手を説得した。

例えば、マテル社はマーゴット演じるバービーについて、「ステレオタイプ・バービー」という呼称に難色を示して「オリジナル・バービー」と呼ぶことを提案したが、マーゴットはこれを断固拒否。“ステレオタイプ”という否定的なニュアンスが込められていることに重要な意味があると説明し、最終的にマテル側はこれを受け入れた。

監督であるグレタも、妥協はしなかった。リアルワールドにやって来たバービーが、バス停で佇むシーンがある。偶然居合わせた高齢女性と美について語り合うのだが、ありのままの笑顔が素敵なこの女性を演じたのは、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)などでアカデミー賞を受賞した衣装デザイナーのアン・ロスだ。心に残る名シーンだが、スタジオはカットを提案したという。『ローリング・ストーン』誌のインタビューによると、グレタは「もしこのシーンをカットすれば、この映画が何についての作品なのかわからなくなってしまう。私にとって、これが映画の核心です」と語り、バービーが美というものを理解するに至る名シーンを守り抜いた。

忠実に再現した衣装やシャネルのアーカイブの数々

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ファッションドールのバービーにとって、重要な要素の一つが衣装だ。衣装の担当は、グレタの前作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)も手がけたジャクリーヌ・デュラン。制作期間は11週間ほどと決して余裕のあるスケジュールではなく、撮影中にも作業は続いたという。彼女が拠点にするロンドンを中心に、ピンクやイエロー、明るいブルーやオレンジなど特定のカラーの服を大量購入し、バービーの歴史上のアイコニックなスタイルの数々を取り入れてデザインした。

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1959年に初めて発売されたバービー。

Photo: Chesnot/Getty Images

冒頭、巨大バービーが出現するシーンで着用している黒と白のストライプの水着は、1959年に初めてバービーが発売された時のスタイル。水着だけでなく、ポニーテールのヘアスタイルも忠実に再現した。また、リアルワールドにやって来たばかりのバービーとケンのネオンカラーの派手な出で立ちは、1994年発売のホットスケート・バービーへのオマージュとなっている。

ジャクリーヌの手がけたコスチューム以外では、マーゴットがアンバサダーを務めるシャネル(CHANEL)の衣装も登場する。シャネルのアーティスティック・ディレクターであるヴィルジニー・ヴィアールは、スーツ3着とドレス、スキーウェアの5つのルックを制作。バービーがバービーランド最高裁判所で傍聴する際に着用しているスーツは、クラウディア・シファーから借りたヴィンテージだという。ちなみにバービーはネックレスやイヤリングなどのアクセサリーはつけるが、人形の各指は付いている状態であることから、マーゴット演じるバービーも指輪をはめていない。

また、ケン着用のカルバン・クライン風の「Ken」ロゴ入りアンダーウェアはライアン・ゴズリングの発案で、クランクインした後から急ピッチで制作されたそうだ。

“バービーランド”はいかにして誕生したか

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バービーたちが暮らすバービーランドのシーンは、すべてロンドンのワーナー・ブラザース・スタジオ・リーブスデンに造られたセットで撮影。グレタのコンセプトはハリウッド黄金時代のミュージカル映画のように撮るというもので、美術は当時のスタイルを踏襲し、手描き風の敢えて人工的な背景を用意した。

あらゆるものがピンクという世界を作り出すため、美術チームはさまざまなトーンのピンクを多用したことから、一時的に世界規模でピンクの塗料が品薄になったほど。バービーのドリームハウスはマテル社製の現物を研究し、実在する富裕層の豪邸や別荘、ジャック・タチの映画『ぼくの伯父さん』(1955)などのミッドセンチュリーを意識したデザインだ。壁も窓もなく丸見えなのは、羞恥心を知る前のアダムとイヴが暮らしたエデンの園がモチーフとなっている。

全身コーディネートを収納するクローゼットのインスピレーションは、『クルーレス』(1994)のヴァーチャル・クローゼット。また、ベッドルームからプールに直結するウォータースライダーは、マーゴットの希望で実現した。ヘアブラシや歯ブラシ、愛車などのアイテムがバービーたちに対して大きすぎたり小さめだったりするのは、実物の人形とアイテムのスケール感を再現したからだ。

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セットの完成度の高さは評判となり、同時期に同じスタジオで撮影していた作品の関係者がこぞって見学に訪れた。そのうちの1人が、『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(2023)の撮影中だった俳優のジョン・シナだ。『スーサイド・スクワッド』(2016)でマーゴットと共演した彼は、「手伝えることがあれば」と申し出て、デュア・リパ演じる人魚のバービーと一緒に登場する人魚のケンメイド役をゲットした。

参考にした映画作品やイースターエッグをリストアップ!

© Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

撮影中、グレタ・ガーウィグは毎週日曜朝に“映画の教会(Movie Church)”と称して、ロンドン市内の映画館を借りてキャストやスタッフに参考作品を見せるのが習慣になっていた。そんな彼女の映画愛がつまった引用やイースターエッグの元ネタを知れば、さらに作品を楽しめて、同時に映画の歴史も学べるはずだ。

・海辺で人形遊びをする少女たちの前に巨大な初代バービーが出現するシーンは、『2001年宇宙の旅』のパロディ。バービーの長い脚は、実物大の脚の模型を作って撮影した。

・バービーのインスピレーションとしてグレタがマーゴットに提示したのは、『フィラデルフィア物語』(1934)のキャサリン・ヘプバーンと、『特急二十世紀』(1934)のキャロル・ロンバード。キャロルの相手役だったジョン・バリモアのユーモアのセンスは、ライアンに通じるものがあるそう。色使いやバービーのヘアスタイルは、ジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』(1964)や『ロシュフォールの恋人たち』(1967)。ドゥミ監督がロサンゼルスで撮った『モデル・ショップ』(1969)も、ストーリーテリングとセットの参考にした。

・バービーの朝のルーティンの様子は、『巴里のアメリカ人』(1951)でジーン・ケリーが演じたシーンへのオマージュだ。

・主人公の生活の場が映画のセットのような構造という非現実的な世界観の参考にしたのは、ピーター・ウィアー監督・ジム・キャリー主演の『トルーマン・ショー』(1998)。グレタはウィアー監督に電話して撮影技術のアドバイスをもらった。

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・大勢のバービーたち、ケンたちが盛り上がるダンスパーティーのシーンは『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)や、ミュージカルの古典的名作で監督お気に入りのバスビー・バークレイ監督の『ゴールド・ディガーズ36年』(1935)のクライマックス。

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シム・リウが演じるダンスが得意なケンたちが中心となって繰り広げるダンス・ファイトは『雨に唄えば』(1952)や『オクラホマ!』(1955)、『ウエスト・サイド物語』(1961)といった名作のエッセンスが散りばめられている。

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ケイト・マッキノンが演じる“へんてこバービー”のシーンでは、『赤い靴』(1948)や『マトリックス』(1999)を引用。『赤い靴』は本作のイースターエッグで、ライアン・ゴズリングがかけているキャットアイのサングラスは『赤い靴』でアントン・ウォルブルックかけたものとよく似ている。

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・バービーランドからリアルワールドへの道は、『オズの魔法使』(1939)の黄色いレンガの道ならぬピンクのレンガの道。バービーランドの映画館には「オズの魔法使」のポスターが掲げられていて、エントランスの扉の向こうには黄色いレンガの道が見える。

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・リアルワールドに来たばかりのバービーとケンがカウボーイハットをかぶった姿で街の活気に圧倒される様子は、『真夜中のカーボーイ』(1969)のオマージュ。

・キャラクターが状況を説明するセリフのキーワードは映画にまつわるものが多く、『シャイニング』(1980)や“スナイダー・カット”などが用いられている。

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・リアルワールドの男性の振る舞いを見て家父長制に目覚めたケンは、男らしさの表象として、『ロッキー』シリーズの頃のシルヴェスター・スタローンを真似て、ミンクのロングコートを素肌に羽織っている。

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・他のケンたちもマッチョイズムにハマり、『グリース』(1978)のジョン・トラヴォルタのような黒ずくめのスタイルでのファイトシーンも。彼らのお気に入り映画は、イタリア系マフィアの一家の年代記『ゴッドファーザー』シリーズで、隙あらばバービーたちに得意げに解説しようとする。

Text: Yuki Tominaga