2021年よりゲストデザイナーを招いて制作されているジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)のオートクチュールコレクションだが、これまで抜擢されたデザイナーの中でも、ニコラス・デ・フェリーチェは一番の若手だと個人的には思う。実際に、彼がクレージュ(COURRÈGES)でのデビューコレクションを発表したのは、ゴルチエがこの新たなコンセプトのもとオートクチュールラインを進め始めた時期と重なる。サカイ(SACAI)の阿部千登勢、バルマン(BALMAIN)のオリヴィエ・ルスタンなどの前任者たちに比べるとランウェイ経験が浅いとしても、決してそうは感じさせないショーを今宵デ・フェリーチェは繰り広げた。
クレージュの指揮を執り始めてからというもの、デ・フェリーチェは低迷していたメゾンに改革を起こし、ブランドのヘリテージを重んじながらも、ナイトクラブの熱気を感じさせるセクシーさが漂うデザインで、若者から圧倒的な支持を得るブランドへと変身させた。その勢いは一切衰えることなく、今回のオートクチュールコレクションに持ち込まれた。
マドンナがゴルチエ作のコーンブラを着用して世間を騒がせていた頃、デ・フェリーチェはまだベルギーに住む少年だった。それでも、ゴルチエは彼に強烈な印象を残した。「私を含め、片田舎出身や世界中の多くのクィアな人にとって、ゴルチエは何でも叶う街パリを象徴する存在でした。彼は、本当の意味で人々の多様性を称えた最初の人で、その功績は誰もの記憶に残っています」
クチュールだからこそできることを
デ・フェリーチェが手がけたオートクチュールコレクションは、パリで立身出世を狙う野心家についての物語だ。初めはジャケットやロングスリーブのドレス、ロングスカート、目もとまでくるネックラインのピースで体を覆い隠しているが、ショーが進むに連れて、徐々にその姿があらわになる。顔をさらけ出し、肩を出し、最後にはドレスがはだけるほどの大胆な服の着こなしを披露していく。昨シーズンのクレージュのショーで話題を呼んだ、局部を撫でるようなセンシュアルな手のジェスチャーも再び見られた。そして地位の高まりを反映するかのように、ルックのカラーも次第に明るさを増す。
各ルックにはインスピレーションとなったアーカイブルックがあったが、デ・フェリーチェがコレクションを通して繰り返し取り入れたのが、ホックとアイだ。アーカイブでそれらを刺繍代わりに装飾した生地見本を見つけた彼は、2つのパーツからなる留め具を、体に絡むようにドレープさせた長方形や正方形の生地の連結部分として使用。シルクギャバジン、ガザル、タフタなど、クレージュでは決して使うことのできなかった生地も存分に活かした。
「このテクニックがなければ決して作ることができないドレープを生み出せました」とデ・フェリーチェは言う。それだけでなく、ホック留めは自由に操れる。つまり、着る人が肌見せ加減を調整できるのだ。ウエストまではだけ、下のコルセットがあらわになったスリップドレスも同じように調整可能なデザインとなっている。それは4万個ものホックとアイを繋ぎ合わせて作り上げられた、ラストのチェーンメールドレスに似た強さと脆さを同時に感じさせた。
クレージュでのコレクションですでに幾度となく証明されていることだが、今回のショーで改めて実感した──デ・フェリーチェは、この上ない才能の持ち主だ。
※ジャンポール・ゴルチエ 2024-25年秋冬オートクチュールコレクションをすべて見る。
Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano
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