ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)のショー会場となったガレージの壁には、シアトルで創業されたアウトドアブランド、フィルソン(FILSON)のポスターがずらりと並ぶ。写っているのは荒野をバックに、斧を振り、伐採用の鋸を担ぎ、釣りをしている屈強なひげ面の男たち。そしてゲストたちが握りしめている、薄っぺらなプラスチック製の招待状には「本物を知ろう。歴史があるもの、伝統があるものを。私たちなりのオリジナリティ。ベーシックに対する、新たな感覚」と書かれている。それを渡辺自身がショー後、バックステージで通訳を介して語った言葉に置き換えると、「フィルソンの古き良き、クラシックなワークウェアを“共有する”こと」になる。
「『マッキノー クルーザー ジャケット』なんかは、ずっと昔からありますしね」と渡辺が言うように、フィルソンはクロンダイク・ゴールドラッシュが始まった1897年に、一攫千金を狙いシアトルに大挙した、何万人もの人々に向けて誕生した歴史あるブランドだ。1914年には、ゆったりとしたショルダーとマルチポケットが特徴のフィールドジャケット、“クルージング コート”で特許を取得。後に「クルーザー」として知られるようになったこのアイコニックなアウターは、オイル仕上げの“ティンクロス”とマッキノーウール製のタイプが特に人気を集めた。
ショーでは、モールスキン、ティンクロス、無地のウール、チェック柄のウール、蛍光オレンジのツイル、スカーレットレッド、黒いカーフレザーやシアリングをはじめ、あらゆる色と素材の「クルーザー」が展開。オレンジのパーカと合わさったもの、継ぎ当てがされたウールのトップコートと融合されたもの、ブラウンレザーのパッチポケットが付いたものなどが披露され、プロポーションも至るところに手が加えられていた。中でもルック17として登場した1着は、おおもとになっているマッキノーウールのジャケットに最も近い。
これらを中心にコレクションを組み立てたのは、実に面白い。モデルたちは例外なく、皆フィルソンのキャンペーンに登場するたくましい男たちのように髭を貯えていたが、全身アウトドアウェアには身を包んでおらず、「クルーザー」ジャケットの下にはシャツやネクタイを着用。リーバイス(LEVI'S®)をハインリッヒディンケラッカー(HEINRICH DINKELACKER)のボートシューズやパラブーツ(PARABOOT)のハイキングシューズ、ニューバランス(NEW BALANCE)のスニーカーと合わせるなどして、アウトドアの無骨な空気感と都会的な色気をかけ合わせた。
フィルソンの熱狂的なコレクターも満足させるであろう、「クルーザー」の新釈モデルが出揃った今季のジュンヤ ワタナベ コレクション。会場に流れていたアヴィ・カプランの曲「Change on the rise」のタイトルにもあるように、長きにわたって愛されてきたものも、変化を続けながら継承されていくのだろう。
※ジュンヤ ワタナベ 2025-26年秋冬メンズコレクションをすべて見る。
Text: Luke Leitch Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
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