「撮影は終始活気に満ちていてとても楽しかった!ジェイソンと私は今、達成感でいっぱいです。かなりエッジの効いた仕上がりになったと思いますので、ぜひご覧ください」
2022年、カナダのテレビ番組「ET CANADA」に対し、リッキー・リー・ジョーンズのMV「Danny’s All-Star Joint」に出演した際の感想をこう振り返った俳優のリンダ・カーター。
1951年7月、アメリカ・アリゾナ州フェニックスに生まれ育だったカーターは現在72歳。1970年にアリゾナ大学を中退後、音楽活動を追求する一方、1972年に地元アリゾナのビューティコンテストで優勝し、続くミスインターナショナルでトップ15入りを果たすと、そのままショービジネスの世界へと進出した。
そんな彼女の名を世界的なものにしたのが、1976年の『ワンダーウーマン』のダイアナ・プリンス/ワンダーウーマン役だ。
その美貌と抜群のスタイルに加え、超人的な能力、“パラダイス・アイランド”で採掘された鉱石・フェミナム製のベルト&ブレスレット、ティアラ(ブーメラン)、そしてかかった人は嘘がつけなくなる“真実の投げ縄”を武器に、悪人を次々と成敗する痛快アクションは、70年代各国で高視聴率を記録。日本でも、彼女の声を俳優の由美かおるが務め、2017年にはCSで『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』『紅い旋風ワンダーウーマン』等日本未放送エピソードを含む全60話が放送されるなど、未だ根強い人気を誇るシリーズでもある。
ワンダーウーマンは、LGBTQ+アイコン
Instagram content
This content can also be viewed on the site it originates from.
「私は『ワンダーウーマン』の作者ではありません。ですが、彼女がLGBTQ+アイコンではないと言う人は、多分彼女のことをよく知らないのでしょう。以前ある人が私にこう言いました。『自分が“クローゼット”(=カミングアウトしていない)の状態にあったとき、どんなにワンダーウーマンが心の支えになったことか』と。その時、この役がいかに特別なものかを思い知らされたのです。彼女は間違いなくゲイ・アイコンであり、クィア・アイコンであり、LGBTQ+のアイコン。そしてこの人の心を動かす力こそ、ワンダーウーマンが持つ真のパワーなのです」
2022年、ワンダーウーマンはLGBTQ+アイコンであるとSNSを通して明言したカーターは、長年にわたるLGBTQ+コミュニティのサポーターとしても知られる。同年6月のプライド月間には、コミック・アーティストのポリーナ・ガヌショー作、ワンダーウーマンのレインボー・イラストをシェアし、「ハッピー・プライド!私のLGBTQIA+の友人やファンのみんなとお祝いできることにとても嬉しく思います」とコメント。さらに、この投稿に反論する“荒らし”に対しては、パンチの構えをした自身の画像を投稿し、「いかなる同性愛嫌悪とも戦う覚悟ができています」と力強いメッセージを添え、ワンダーウーマンさながらに容赦無くシャットアウトした。
一方で、約30万人のフォロワーに対しては、トランス・ライフライン、PFLAGなどのLGBTQ+団体を支援するよう、「重要なのは、当事者の声を聞くこと。だから、プライドを通じて多くのことを分かち合いたい。他にも支援する価値のある団体はたくさんありますから、どうか皆さん温かい支援をお願いします」と呼びかけ、未だ改善しないジェンダー差別撤廃に向け尽力し続けている。
真のプロフェッショナリズムとは、社会に対し“責任”を負うこと。
「俳優になる以前の10代の頃、キャッツキルからラスベガス、サンフランシスコそしてテキサスの酒場を巡る演奏の旅に出ていました。その後映画やテレビに出演し続けたのですが、出産と同時に表舞台から離れました。そして、2006年にロンドンでのライブパフォーマンスで復帰しました。私にとって、歌は魂そのものなのです」
こう語るカーターが、5歳の時に地元テキサスのタレントショーでデビューし、14歳でプロの歌手になった経歴はあまり知られていない。そんな彼女は、俳優活動を経て、2007年にナッシュビル・オールスター・バンドを率いて再び音楽シーンに返り咲き、ワシントンD.C.のケネディ・センターやNY等全米の主要な会場でライブを開催。2010年には、ファーストCD『At Last』が、ビルボードチャート6位にランクインした。そして翌年にはアルバム『Crazy Little Things』を、2018年には『Red, Rock N' Blues』をリリースし、現在活動の中心をシンガーへとシフトしている。
「私たちは人間であり、神でもあります。ですが、私たち人間には欠点があります。そして、時に軽率な行動や、厳しい態度で無意識に愛する人を傷つけてしまうこともあります。それを“赦す”ことは、ひとつの愛の形であると同時に、愛するということの意味でもあるのです」
最新シングル「Human and Divine」(2021)のリリース時に、この楽曲に込めた想いをこう明かしたカーター。男性社会と言われた70年代アメリカ音楽シーンで活躍し、俳優として成功を収め、人生の晩年でさらなるキャリアチェンジを図るなど、生涯現役をまっすぐ貫く姿勢はまさにワンダーウーマンさながら。そんな彼女は、自身の成功を支えてきた独自のプロフェッショナリズムについて、かつてこんな風に明かしている。
「一つの物事の側面とは、私個人の視点と他人からの視点では違いますし、それが当たり前です。例えば、私という存在は、他人の目には”有名人”であり、特別な存在に映っているであろうことを私は理解しています。が、私にとって、自分はあくまでも“自分自身”として存在しているだけ。だから、通りを歩いたり、お店にふらっと立ち寄るだけでも、私には他人と社会に対しロールモデルであるべきという“責任”がつきまといます。外に出ると気を抜くことはできませんが、それは有名人である以上仕方のないこと。人生の大部分を“有名人”として過ごしてきた私にとって、いちプロフェッショナルとしての責任を全うした先に成功があるのですから」
Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba