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『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で悪役を演じたマッツ・ミケルセンの矜持──「悪人というのは善人と表裏一体」

インディ・ジョーンズの15年ぶりのスクリーン復活となるシリーズ最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が、ついに公開された。本作で元ナチスの科学者を演じるマッツ・ミケルセンが、自身の悪役、そしてカンヌ国際映画祭の思い出を語った。
マッツ・ミケルセン、カンヌ国際映画祭『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』Mads Mikkelsen attends the Jeanne du Barry Screening  opening ceremony red carpet...
Photo: Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

マッツ・ミケルセンと言えば、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)、『バトル・オブ・ライジング コールハースの戦い』(2013)『悪党に粛清を』(2014)、『アナザーラウンド』(2020)などで、何度もカンヌ国際映画祭に参加している常連だ。2012年には『偽りなき者』で最優秀男優賞を受賞し、2016年には審査員として参加もしている。そんなミケルセンにとってすら、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でカンヌ入りするのは特別な体験だった。「誰もがインディを愛するのには理由がある。キャラクターの魅力、ハリソン・フォードの魅力、映画制作の技術、音楽。すべてが揃った完パケなんだ」

そう語るミケルセンが、悪役を演じる上での役作り、ハリソン・フォードとの仕事、そして映画祭初日に遭遇したジョニー・デップと交わした言葉について明かしてくれた。

『インディ・ジョーンズ』シリーズのファンから一員に

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は6月30日より公開。

©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

──昔から『インディ・ジョーンズ』シリーズのファンでしたか?

『インディ・ジョーンズ』を観て育ったようなものです。15歳のときにボックスセットを借りて、兄と一緒にイッキ観をしたんです。あまりの衝撃を受けた私たちは、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)を10回も観ました。あんな映画は観たことがなかった。ブルース・リーをはじめ、たくさんの作品のファンではありましたが、『インディ・ジョーンズ』シリーズは、この世のものとは思えなかった。私たちもスクリーンの中に飛び込んで、遺物を探し出したい衝動に駆られるほど、強烈なインパクトがあったんです。

──『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』に参加することになった経緯は?

実は面白い話があるんです。というのも、出演オファーをもらう前の週に友人が、これまで私が悪役として出演してきた作品をリスト化していたんです。そのリストを見て、彼は「シュールすぎる」と言っていて。僕もデンマーク人なのにいろんな作品にも出演していて、確かにありえないし、すごいと改めて思っていたら、彼が「残すところはインディ・ジョーンズだけだな」と言って笑ったんです。するとその1週間後、『インディ・ジョーンズ』出演オファーの電話がかかってきた。すぐに彼に伝えたくて、その電話をとっとと切りあげたかったくらいです。

──ご友人は超能力者ですね。

本当に笑える話ですよね。最初に脚本を読んだときは、「今作の一員になりたがっている」自分を直感しました。それを経て再度読み直したところ、物語にはいつも通り素晴らしい冒険と、魅力が詰まっていた。また、インディの年齢をいい塩梅で考慮していた。彼の年齢を全面に押し出すと観ているほうはイライラしてしまうし、かと言ってまったくそこをネタにしないわけではない。その辺りが絶妙だなと思いました。そしてエンディングが本当に美しかった。インディ・ジョーンズ映画としては感動的すぎるくらいに。

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──映画でナチスの役を演じるというのは難しいと思いますが、どのようにしてキャラクターを作り上げたのでしょうか?

イデオロギーにまみれた人物の話の場合はそうかもしれませんが、我々はそういう物語を語っているわけではありません。今作に登場するのは1930〜40年代に生きたドイツ人科学者の男です。彼はドイツ人なので、当然政党の一員になる。それは避けようがない。でも彼の情熱と夢は科学にある。しかも、イデオロギーがその一旦を担ってくれるのであれば、悪い話ではない。でも、何よりも彼はインディとは違って、自分自身の科学への情熱に突き動かされているんです。

──今作のためにリサーチはされましたか? 歴史オタクだと聞いていますが。

リサーチはあまりしていません。私が演じたユルゲン・フォラーという役は、数人の著名人たちを元に描かれているのは明らかでしたから。その内の一人がヴェルナー・フォン・ブラウン。彼が何者でどういう研究をしていたかは、多くの人たちが知っています。実際に僕の役は、フォン・ブラウンの外見をお手本にしているんです。彼は1950〜60年代当時、波打つような美しい髪型をしており、僕も今作でそのヘアスタイルを楽しみました。

衣装に関しては、インディ・ジョーンズもそうであるように、過去に置き去りになっているというイメージを取り入れたいと思いました。インディもユルゲンも本人たちは変わらないけど、世界が大きく変わってしまったんです。過去のシーンでは、フォン・ブラウンを彷彿とさせるヘアメイクにしてもらっていたので、とても気に入っていたのですが、最近のシーンでは波打ちヘアがストレートのばっさりヘアになってしまい、ボーイズバンドの一員みたいで残念でした。

──ご友人がおっしゃっていたように、あなたは数々の悪人を演じてきました。悪役を演じる上で、どのようなアプローチをされているのでしょうか?

最初にすべきことは、スター・ウォーズであれ、ジェームズ・ボンドであれ、インディ・ジョーンズであれ、自分が演じる役の世界を理解することです。どんな世界かがはっきりと見えなくても、それがないとすぐにわかるんです。俳優にとってそれが基準となり、「今回はこの枠内にとどめておこう」とか、「枠の外にはみ出ない程度に役を広げてみよう」となる。世界観というのも役の一部でなくてはならないんです。でも、たいてい悪人というのは善人と表裏一体なので、可能な限り両方の面からアプローチしています。

例えばハリソン・フォード演じるインディ・ジョーンズは、ヒーローだけど欠点もある。嘘もつき、ズルもするし、酒も飲む。それが彼に人間味を与える。となると、悪役にも同じように人間味を見出さなくてはいけない。でもそれを表現できるシーンは限られている。だから役を正当化するのでなく、ちょっとしたことを見つけるようにしています。嘘くさい人物にならないように。

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──映画の冒頭ではフラッシュバックで過去が映し出され、あなたの容姿にもディエージング技術(容姿を若返らせるVFX技術)が使われていますが、実際は不要に見えました。

(笑)。それが小さなことなんですよ(と言って目の周りを指さす)。でも最初はディエージング技術をほどこさなくてもいいと言われていて、それはそれで落ち着きませんでした。28歳のときに髪を真っ黒に染めてもおかしくないけど、57歳になって同じことをしたら老婆にしか見えないですから。でも、ハリソン・フォードと僕には違う若返り技術が使われたようなんです。というのも、ハリソンは実際に若い頃の映像がたくさんあるので、それも使ったようです。

──若返った自分を見るのは違和感がありますか?

さすがに少し変な感じはします。でも、スタッフは大変だったと思います。ちょっと人工的な印象も受けるけど、あれができるのは本当にすごい。今作のように時代をまたぐ映画にとっては、最高な技術だと思います。でも、この技術のせいで俳優が不要になってしまったら、みんな一気に反対するようになると思いますけど。いずれにしろ、ハリソン・フォードはすべてのシーンを演じていて、容姿だけ技術で若返らせているんです。つまり、今のところはまだ我々は必要とされているようです。

カンヌ国際映画祭で再会したジョニー・デップ

カンヌ国際映画祭のフォトコールにて。左からフィービー・ウォーラー=ブリッジ、ジェームズ・マンゴールド監督、ハリソン・フォード、マッツ・ミケルセン、ボイド・ホルブルック。

Photo: LOIC VENANCE/Getty Images

──カンヌ国際映画祭の常連ですが、特に心に残っている思い出はありますか?

最優秀男優賞を受賞したときは大騒ぎでした。あの日は私にとって最高に素晴らしい1日でした。ただ、受賞の15分後に撮影でルーマニアに行かねばならず、楽しんでいる時間はあまりなかったのですが。それから、審査員として参加した日々も最高でしたね。すべての作品を観て、その背景にある物語を理解することの素晴らしさを実感しました。「本当にここまで意見が分かれるの?」と思いながらも、はっきり分かれたりして。とても面白い経験でした。

──自身の作品のプロモーションで映画祭に参加している場合は、ほかの作品を観ることは出来ませんよね?

全然そんな時間はないですね。でも、もともと私は大の映画ファンではなく、スポーツ観戦の方が好きなんです。スポーツにドラマを感じるタイプなので。

──今年のカンヌは『Jeanne du Barry(原題:ジャンヌ・デュ・バリー)』がオープニング作品で、あなたとジョニー・デップが挨拶を交わしている姿をファンの人たちが目撃していました。『ファンタスティック・ビースト』シリーズのジョニー・デップのグリデンバルト役をあなたが引き継いだことで、気まずさはありませんでしたか?

まったくありませんよ。彼とは数年前に初めて会って、ほかの人たちも交えてですが、何度も食事をしたこともあります。本当にいい人なんです。そしてあのゴタゴタがあって、私に役のオファーが来た。私は彼の電話番号を知りませんでしたし、裁判所が決断を下さなければならなかった。どういう結果になっても仕方はありませんが、最終的に彼が戻って来てくれたので、本当に心から良かったと思っています。ジョニーは「君が僕の役を演じてくれて本当に嬉しかった」と言ってくれました。優しいですよね。

Text: Rebecca Ford Translation: Rieko Shibazaki
From VANITY FAIR.COM