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「タビ」と「レッドソール」のマリアージュ。メゾン マルジェラ×クリスチャン ルブタン、待望のコラボレーションシューズがついに実現

メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)、世紀のタッグによるカプセルシューズコレクションが3月12日(水)、それぞれのオンラインストアと一部店舗にて発売される。US版『VOGUE』は、ジョン・ガリアーノとの長年の友情が今回のコラボレーションに至るまでのエピソードを、ルブタン本人に聞くことができた。

メゾン マルジェラ 2024年春夏アーティザナルコレクションショーより。モデルはクリスチャン ルブタンとの初コラボレーションによるハイヒールの「タビ」を履いていた。

Photo: Filippo Fior / Gorunway.com

クリスチャン・ルブタンは40年前、ジョン・ガリアーノが夢の街、そしてファッションの街であるパリに初めて足を踏み入れたときのことをこう思い出す。「彼はファッションに胸を躍らせていた学生でしたが、パリという街にも胸を躍らせていました。彼はいつも、『私はパリを愛しているし、パリも私を愛している!』と言っていましたね。その通り、パリは本当に彼を愛していました」

ガリアーノは当時、ロンドンでの生活にむしろ絶望していた。80年代は輝かしく、自由でワイルドな時代ではあったが、そんな浮かれた日々も長くは続かず、エイズは蔓延し、薬物乱用も暗い影を落とした。ロンドンのファッション界を渡り歩くことは決して簡単ではなく、ガリアーノの後援者たちは支援を打ち切った。しかし彼は、パリへ行けば自分の空想が現実になることを知っていたのだろう。彼は友人宅のソファを借りてはそこで夜を過ごし、ビーンズオントースト(イギリスの定番朝食で、バターを塗ったトーストに缶詰のベイクドビーンズをのせたもの)を食べながら、遠い夢を追いかけた。ルブタンはこのときの彼を、「とても陽気でハッピーな人だった」と回想する。ガリアーノはパリの世界にすっかりと心奪われ、パリは一時、そんな彼を手厚く歓迎したりもした。

長年の友情がコラボレーションに発展するまで

ルブタンとガリアーノは、これだけ長い間友情を育んできたにもかかわらず、今までコレクションにおいて本格的に手を取り合ったことがない。もちろん、2011年のケイト・モスの結婚式(ルブタンが靴を、ガリアーノがドレスを手がけた)など、ルックを作り上げる上でコラボレーションをしたことはある。

そんなふたりに契機が訪れたのは、とある日にルブタンとガリアーノ、そして彼のパートナーのアレクシス(・ロッシュ)の3人でランチをしたときのことだった。

「ジョンが突然、『私と一緒に何かやってみない?』と聞いてきたんです。私はすぐに『もちろん!』と答えました。彼はとてもとても喜んでいました。それから次から次へとアイデアを連発していましたね。これは彼のキャリアにおいて重要な節目のようでした。というのも、彼は本当に夢中になって、そのアイデアに没頭していましたから。すごく興奮していると同時に的確で、創造的なエネルギーに満ちていました」

ルブタン曰く、「いつだって靴を愛していながらも、実際に作ったことはなかった」ガリアーノは、シューメイキングに精通したキーパーソンを集めた。ルブタンは、「その一人に選ばれたことをとてもうれしく、誇りに思います」と続ける。「私たちは1年ほど先を見越して仕事をしましたが、それは非常に複雑なものでした。というのも、彼がデザインする服はとても手が込んでいて、バッスル(スカートの膨らみを誇張するための腰当て)なども取り入れていますからね。そのすべてが、到達することのないであろうクチュールのレベルなんです」

Photo: Filippo Fior / Gorunway.com
Photo: Filippo Fior / Gorunway.com

ふたりの初コラボレーションシューズをフィーチャーした2024年春夏アーティザナルコレクションショーは大成功を収め、ガリアーノがメゾン マルジェラMAISON MARGIELA)で歩んだ10年間の集大成となった。「それは完璧なものでした」とルブタン。霧雨が降り注ぐ夜、アレクサンドル3世橋のたもとにガリアーノが作り上げたのは、1930年代のボワット・ド・ニュイ(フランスのナイトクラブ)のような世界観。それはパット・マクグラスによる一度見たら忘れられないビューティールックとも相まって、まるで写真界の巨匠ブラッサイが切り取ったような瞬間となった。

「たとえ素晴らしいものを期待していたとしても、これほどインパクトのあるショーのヴィジョンを目の当たりにするとは思ってもいませんでした」とルブタンは絶賛する。「これは、ごく少数の限られたデザイナーにしか期待できないことですが、ガリアーノになら期待できることでもあります。服だけでなく、ショーそのものに込められた感情のレベルも……。本当に魔法のような瞬間でした。あれは詩であり、魔法だったのです。話しているだけでも思い出して感動してしまいます。ショーで私を泣かせるには、ジョン・ガリアーノの40年間が必要だったんですね。それに、あの靴たちも!」

メゾン マルジェラとクリスチャン ルブタンの完璧なマリアージュ

「Maison Margiela by Christian Louboutin(メゾン マルジェラ バイ クリスチャン ルブタン)」と「Christian Louboutin by Maison Margiela(クリスチャン ルブタン バイ メゾン マルジェラ)」、それぞれ3つから4つのスタイルで構成された2つのカプセルコレクションは、両メゾンのオンラインストアと一部店舗にて3月21日(水)に発売される。

Photo: Fujio Emura

ファッション史上最高に数えられるショーを終えてひと息をついたルブタンは、この一夜に着想を得たセカンドコレクションを制作した。「マルジェラだけでなく、ルブタンでも販売されるんです」と、彼は興奮気味に話す。「ジョンと知り合ってからずっと、彼はある意味で民族的な服や演劇、ダンス、それに歌舞伎に対する情熱のようなものを持ち続けています。彼の頭のなかは、とにかくこういったことでいっぱいなんでしょうね」

コラボレーションのラインナップには、100mmの高さのハイヒールもあれば、より歩きやすいフラットシューズも登場する。また、マルジェラによるオリジナルよりもクチュール的で、まったく新しい方法で仕立てられているそうだ。

このほかには、ひねりを加えたウエディングシューズもある。「このアイデアは、マルジェラとルブタンというふたつのメゾンのコードを使って遊ぶゲームのようなものでした。マルジェラといえば脱構築です。私はそれを“クリエイティブなミニマリズム”だと思っています。しかし私のスタイルは、クラシックな女性らしさ、セクシーな女性らしさというイメージに近い。そこで私は、マルジェラらしさを私の世界に取り入れようとしたのです」

真紅のレッドソールがのぞく白の「タビ」ハイヒールに、マルジェラとルブタンの世界の融合を見ることができる。ルブタンは笑う。「おそらくこれ以上ないほど、完璧なマリアージュでしょう」

Text: Hamish Bowles Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.COM

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