──監督デビューおめでとうございます。そして、日本へようこそ!
ありがとうございます(日本語で)! ずっと日本に来たかったのになかなか実現できず、ついに来ることができました。本当に幸せです。
──『クリード』シリーズを3作目にして初監督ですが、どこかのタイミングでメガホンを握るんだろうなという予感はありましたか?
いつか監督をすることになるだろうなとは思っていましたが、それがどんな作品になるのかは自分でもわかりませんでした。ただシリーズ2作目の『クリード 炎の宿敵』(2018)あたりから、もし自分が『クリード』を監督するなら、どんな風にボクシングのファイトシーンを撮るかなど、考えるようになっていたんです。その流れから今回、監督業をやってみようと決意しました。
──そのファイトシーンですが、今作で日本のアニメにヒントを得たと語られています。あなたが演じるアドニス・クリードと敵役のデイムとの対戦で、リングだけにフォーカスが当てられ、観客が消えるというインパクトのある見せ方は、実に日本のアニメや漫画的だなと感じました。
あの演出は、僕がアニメや漫画から得た知識の中で、ライバルとの戦いのシーンにおける最大のレファレンスでした。日本のアニメでは二人のキャラクターがバトルをするとき、特にものすごく意味のあるシーンでは、肉体は戦っているけど、感情は別の場所にあって静かに二人で会話をしたりする。あのシーンもアドニスとデイム(ジョナサン・メジャース)の極めてパーソナルなシーンだったので、そういう見せ方をしたいと思ったんです。彼らはお互いに内なる思いをぶつけたいけど、それを表現する言葉を持ち合わせていない。本音を語り合うには、お互いに拳を振り上げるしかなかった。だから、彼らが抱える思いを、なんとかして観ている人たちに伝えたかったんです。
──脚本にはどの程度書いてあったのでしょうか?
答えは簡単。脚本にはとくに描写はありませでした。だから僕はみんなに「このシーンでは日本のアニメの技法を取り入れたい」と言ったのですが、誰一人ピンときていませんでした。ただ、「君が何を言っているのか全然わからないけど、なにか感じるものはありそうだ」と(笑)。実際に撮影に入っても、その状況はあまり変わりませんでした。でも、編集作業とVFX(視覚効果)作業を経て、ようやく伝わった感じです。今作で僕は、みんなに日本のアニメとはどういうものかを教育するという大仕事もやってのけたと思っています。
「監督をする作品には、演じる以上にこだわりがある」
──今作で監督&主演をするにあたり、最も大切にしたことは?
ファイトシーンで一切の妥協をしなかったことかな。ときには自分が思い入れの強いシーンをカットしなければいけないこともありますが、ファイトシーンだけは自分のエゴを通しました。一方、冒頭のシーンは当初、長回しで撮影していたのですが、ここは泣く泣くカットし、編集でつなぎました。とても気に入っていたのですが、映画に欠かせないテンポが悪かったんです。僕は若い頃からずっと、映画の撮影現場でほかの人たちが何をしているのかを見るのが大好きなんです。1本の映画を作るのにどれだけの労力が必要なのか、それぞれが皆プロフェッショナルで、最終的にはオーケストラのシンフォニーのように一つになる。今回は自分が指揮者という立場だったので、どのようにまとめるのかを実際に経験し、とても学びの多い現場でした。
──俳優デビューから25年近く経ちましたが、監督業と役者業へのこだわりや思いに変化はありますか?
役者としては間違いなく、演じる役を選ぶようになりました。若いころはいろいろ役に挑戦したいし、目の前にある仕事をすることも大事でしたが、役者として成長をした今、自分が演じることに意味がある役、自分とのつながりを感じる役でない限り無理をして演じることはしたくないと思っています。一方で、監督業に関してはまだ1作目でまだまだ未熟者です。でも、これが自分でも不思議なのですが、経験のためにどんな作品でも撮りたいという気持ちはないんです。役者は場合によってはどんな役も経験になりますが、監督はそういうわけにはいかない。そして、僕はそこそこの映画を撮る気はないし、悔いを残すのも嫌なんです。そう考えると、自分が監督をする作品には、演じる以上にこだわりがあるように感じています。
──今後どのような作品を監督するのか、楽しみです。
監督業は本当に大好きなんです。ただ、アドニス・クリードは8年間演じてきたので、キャラクターを熟知しているため、自分の中でも最高の演技を引き出せる自信はありました。でも、今後は自分が出演していない、ほかの俳優たちに100%集中できる作品を監督したいと思っています。
──今作ではヒーローを演じられていますが、実生活でも黒人コミュニティの変革構築のために尽力されています。幼いころからエンターテイメント業界で活動してきたあなたにとって、ロールモデルであり続けることの意義とは?
ロールモデルになるのは簡単なことではありません。自分のためではなく、誰かのためのお手本となるような良識のある人というのは、人の判断によって決められる。つまり、常に人に見られているということ。人間は失敗をする生き物ですが、今の世の中は1つの失敗で自分が何者であるかを決められてしまう、難しい時代になっている。
僕は今まで、常にファンの人たちや世間の認識というのを念頭に置いて、正しいと思える決断や行動をしてきました。そのおかげで、僕の人生は豊かになった。だから、今は良いことをして自分の成功をみんなに返していかなければいけない、そういう責任が自分にあるんだと思っています。
──監督業や俳優業以外では料理が得意だと公言されています。得意料理を教えてください。
新しいレシピを覚えたら、自分で完ぺきだと思えるまで何度も作り直す性格。今は、ラムチョップで作るメダリオンを徹底追及しています。肉の焼き加減とソースの塩梅、それから付け合わせのクリーミーで軽やかなマッシュポテトという、全体のバランスを探っているところです。何度か挑戦しているのですが、もっと改善の余地があると思っているので、最近はこればかり作っています。
『クリード 過去の逆襲』
5月26日全国公開
creedmovie.jp
Interview & Text: Rieko Shibazaki