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民主主義とメディアを守るために、今 なされるべきこと【MY VIEW│アレックス・ガーランド】

「ポピュリズムと急進主義が台頭する今、世界的に民主主義が大きく揺らいでいることを憂慮する」と語るアレックス・ガーランド監督。最新作『シビル・ウォーアメリカ最後の日』(10月4日公開)は、内戦の勃発により戦場と化したアメリカが舞台だ。ジャーナリズムの重要性と必要性を強く信じているからこそ、本作を撮ったと語る監督が、SNSを含めたメディアへ強く求めることとは?

メディアへの信用が地に落ちた今、描きたいもの

Photo: © 2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

ポピュリズムと急進主義が台頭する今、世界的に民主主義が大きく揺らいでいることを憂慮しています。2016年にドナルド・トランプが米大統領に選出され、私の祖国イギリスでも、ミニ・トランプとも言うべきボリス・ジョンソンに率いられ、ブレグジット(EU離脱)が完了しました。そんな現実に対して多くの人たちはショックを受け、ある種の絶望を感じていました。『シビル・ウォーアメリカ最後の日』(10月4日公開)は、そんな絶望から生まれた作品です。なぜなら、私も同様に現実にショックを受けた一人だったからです。前述の二人以外にも、イスラエルのネタニヤフ首相やブラジルのボルソナロ前大統領などもポピュリストの右翼急進派指導者です。ヨーロッパの多くの国では、極右の指導者が政権を握っています。それでも、今作の舞台をアメリカにしたのは、世界最大の影響力を持つ強大な国だからです。

民主主義には本来、中立かつ客観的視点で報道をするジャーナリズムが強く影響してきました。ですが、今はメディアが現実の一部を切り取って好き勝手に報道しています。そのため、メディアへの信用は地に落ちてしまった。本作で分断されゆく国をジャーナリストたちの視点で描いたのは、私自身、ジャーナリズムの重要性と必要性を強く信じているからです。

メディアとトランプの共通点

キルステン・ダンストが演じる戦場ジャーナリストリー・スミスのモデルとなったのは、かつてVOGUEのモデルとしても活躍し、のちに写真家となった。リー・ミラーだ。Photo: © 2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

なぜメディアへの信用が失われてしまったのか? 原因は2つあると思っています。1つ目は間違いなくSNSの登場だと言えるでしょう。SNSは何を持って事実とするか、あるいは事実と呼ぶためにどのような裏付けが必要かというルールを大きく変えてしまいました。そして2つ目は、ニュースやテレビジョン放送局、新聞社といった大手メディア組織が、自分たちの責任を放棄したことにあります。大手メディアは広告収入や視聴率によって生み出される金銭を優先し、メディアとして中立かつ客観的な報道をする責任を放棄してしまった。金銭や権力を得るために嘘をつくことも厭わなくなってしまったという点では、トランプやジョンソンと何ら変わりはないのです。ただ、それはあくまでも報道機関の破綻であり、ジャーナリストたちに問題があるとは思っていません。なぜなら、ジャーナリストたちは報道機関から強い圧力をかけられ、彼らが求める記事を書かなければ仕事を失ってしまうからです。50年以上前にアメリカで起きたウォーターゲート事件の時代は、報道は絶大なる信頼を得ていました。ワシントン・ポスト紙がニクソン政権の不正を暴いた際も、共和党員であろうと民主党員であろうと、その報道をプロパガンダだと感じる人はいなかったでしょう。ところが、今はまったく違う。現代の報道機関がトランプのような元大統領について、ニクソンのスキャンダルと同等かそれに匹敵するような暴露記事を掲載しても、何も起こらない。トランプにおいては、性的暴行の加害者であり、事業記録の改ざんでは有罪評決まで下されているのに、次期米大統領選での再出馬を果たしているくらいですから。

アレックス・ガーランド監督の最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、10月4日公開

私の母国イギリスで、少女たちの刺殺事件に端を発した全国的な暴動が発生したニュースは、みなさんの記憶にも新しいと思います。これもSNSで容疑者に対するデマが拡散されたことで、暴動が発生し、広がりました。この件も踏まえて、私が今必要だと思っているのは、政府がSNS企業に対して、誤解を招くような情報を発信し、それが事実であるかのように装った場合には、法的責任を負う必要があると警告をすることです。例えば、X(旧ツイッター)上で暴動を煽る虚偽の情報が発信された場合、Xには責任を負う必要がある。もしある新聞社が特定の人物を殺人犯として報道し、それが誤りだった場合、新聞社には無罪の人を犯罪者に仕立て上げて報道をしたという重大な責任が課されます。一人のジャーナリストが書いた記事でも、それが新聞という媒体を介して世に発表された場合、新聞社に責任があるように、SNSに関しても一般市民の発言であろうと、それを発信しているのはSNSの会社なので、会社がきちんと責任を負うべきなのです。SNSメディアを禁止すべき、あるいは解体すべきだと言っているのではありません。ただ、SNSメディアが責任を負わない現状を打破するには、法律を変える必要がある。いや、それしかないと思っています。

アレックス・ガーランド監督。デビュー作『エクス・マキナ』(2015)で多くの賞を獲得。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)では、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、報道ジャーナリストの姿を圧倒的迫力で描く。Photo: © 2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

© Miller Avenue Productions LLC.

今作では、内戦勃発の要因や、その後の未来を明確には描いていません。なぜなら、その答えは観る人の人生経験によって異なるからです。ただ重要なのは、どのような意見や考えに対しても反射的になったり、一方的に拒絶したりするのではなく、他者の意見を考慮し、理解をすることです。私の理想は、今作を観終えた意見の異なる人たちが、お互いに自身の思いを口にし、その後、楽しく会話をする。そういう世界なのです。

Text: Alex Garland As told to Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto