音楽のルーツは“フラメンコ”
「私の家族は、誰も音楽業界やエンターテインメント業界との繋がりがなかったので、ゼロからのスタートでした。けれど、私は必ずアーティストになると確信していました」
2019年、「The New York Times」のインタビューでこう語ったロザリアは、90年代後半にリッキー・マーティンやエンリケ・イグレシアスらラテンアーティストが世界のミュージックシーンを席巻した「セカンド・ラテン・エクスプロージョン」以来の新星として、現在世界の注目を集めるスーパースターだ。
1992年、スペイン・カタルーニャ州バイス・ロブレガットのサン・エステベ・セスロビレスで、地元で企業を経営する実業家の母・ピラールと父・ホセのもと、姉・ピラール“ピリ”とともに育ったロザリア。そんな彼女は、プライバシーを重視することから公の場で家族のことを滅多に語ることはないが、現在はマネージャーを務める母と、美術史を学んだスタイリスト兼クリエイティブ・コンサルタントを務める姉がワールドツアーに同行している。
幼い頃からショービジネスに憧れていた彼女は、業界に入り込む唯一の手段であることから、スペインのTV番組「Tú Sí Que Vales」のオーディションを受け、見事にデビュー。「曲のコードやヴォイシングからアレンジ、そしてプロダクションに至るまで。自分で作る音楽の全てをコントロールしたかったのです」と語る彼女は、ピアノと曲作りを独学で習得。その音楽の根底にあるのは、幼少期から親しんできたフラメンコだ。
10代の頃からパフォーマンス活動を始め、国内外の様々なフェスティバルで独創的かつスタイリッシュなショーを展開。その後DNAに刻まれたフラメンコのスピリットとヒップホップのフュージョンは、2018年のスマッシュヒット「Malamente」へと結実し、新たなラテンミュージックのアプローチを確立した。
そして、2018年ラテン・グラミー賞5部門ノミネート/2部門受賞、2019年同賞2部門受賞、2022年同賞4部門受賞、そして第65回グラミー賞で最優秀ラテン・ロック/オルタナティヴ・アルバム賞を受賞するなど、錚々たる受賞歴を誇る一方、グラストンベリー、コーチェラ、ロラパルーザ等大型フェスを制覇した彼女は、名実ともにラテン界のクイーンとして世界に君臨する。
愛する日本へのオマージュ「Tuya(トゥーヤ)」
「『Tuya』は、日本にインスパイアされて作った楽曲です。日本にいると、どんな些細な動作でも、ゆっくり優雅にこなしたい気分になる。どこに行っても美しいものばかりで、些細なことにもまるで儀式のようにこだわるところに心から感心します」
2023年、MVの全編を日本で撮影した新曲「Tuya」は、まるでプライベートで日本を訪れているかのようなストーリー展開で、現在世界中の若者たちの間で大きな注目を集めている。
Instagram content
This content can also be viewed on the site it originates from.
「このMVの主人公は、東京に住む外国人の女の子という設定。ビジュアル的にとても面白く仕上がったと思います。撮影の前日に東京で全てのコーディネートを決めたのですが、その行程が本当に楽しかった。全てのルックに、その時の楽しい遊び心とクリエイションの核である“センシュアリティ”が表現されています」
そんな彼女の日本への愛は、もちろん他の楽曲にも投影されている。2022年にグラミー賞を受賞したアルバム『MOTOMAMI』には、美しいメロディラインとは裏腹にインパクトのあるタイトルで攻めた「HENTAI」、カンテフラメンコ(=フラメンコの歌)を彷彿とさせる「SAKURA」、そして「この曲を書いている間は本当に笑いが止まらなかった。だから聴く人にも楽しんでほしい」と語る「CHIKEN TERIYAKI」等、日本語のタイトルを冠した楽曲が収録されている。
渋谷のスクランブル交差点や温泉、ラーメン屋、ラブホテルなど、日本人におなじみの様々なスポットが“紹介”されている「Tuya」のMVや、アルバム『MOTOMAMI』に込めた日本への思い──これら作品は、昨年12月に婚約者でプエルトリコ出身のシンガー、ラウ・アレハンドロと共にプライベートで初来日した際、自身の楽曲の哲学と日本の美学が完全にマッチしたことから生まれたマスターピースだ。
全てのジェンダーのために戦うフェニミスト
「私の音楽のインスピレーションは、ローラ・フローレス、ジャニス・ジョプリン、パティ・スミスなど女性アーティストが中心。でも、15歳のときに初めてレコーディング・スタジオ入りした時、セッションには男性しかいなかったことにとてもショックを受けました。その時以来、私はスタジオの男女比を同等にするために戦ってきたのです」
2019年、ビルボード・ウーマン・イン・ミュージック・ガラでこうスピーチしたロザリアは、自身をフェミニストと言ってはばからない。そんな彼女はまた、左の太ももにオーストリア出身の芸術家ヴァリー・エクスポートの1970年のボディアート・パフォーマンスにちなんだガーターベルトのバックルのタトゥーを入れていることでも知られる。ガーターが示すのは“過去の奴隷制”と“決定権のない女性の属性”、そしてドレスは“セクシュアリティの抑圧”とし、女性を取り巻く文化と身体との対立の象徴でもあるという。いちフェミニストとして社会における全てのジェンダーの未来のために尽力してきた彼女は、自身の哲学をこう語る。
「私たちがここにいるのは、私たちの前に道を切り開いてくれた女性たちのおかげです。そして今度は、私たちがここから後に続く人たちのために道を開く番なのです。今日が国際自由恋愛デーであろうとなかろうと、いつでも自分が誰であろうと、誰を愛していようと、誇りに思うべきなのです。だってそうでしょう?愛し方にはいろいろあって、どの愛し方が正解なんてことはないのだから。愛は愛です!」
命がけで政権にもNO!
「FUCK VOX(VOXなんてくそくらえ)」
2019年11月、スペインで行われた総選挙で躍進した極右政党”VOX”が議会で第3党になったことに対し、怒り心頭の彼女は異義を唱えた。しかし、対するVOXも 「あなたのように自家用飛行機を持つ大富豪だけが、自由と言う贅沢を許されるのだ」と、ラスベガス行きのプライベートジェットに乗り込む彼女の姿をキャッチした写真とともに応戦。この一節は、スペイン内戦中に処刑されたファシズム政党・ファランへ党の中心人物の一人、ラミロ・レデスマ=ラモスの言葉をアレンジしたものだったが、一方のロザリアのたった二言のツイートは20万人以上もの“いいね!”を獲得し、その後も賛同のリツイートが収まることはなかった。
そんな彼女は、2020年5月にアメリカで発生したジョージ・フロイド殺害事件にも怒りを表明。マイアミで行われた人種平等を擁護する抗議デモに一時参加するなど、世界各国で発生する人権侵害に心を寄せている。
「昨日リスボンのアリーナに爆破予告があったので、大勢の警官を配備しました。正直に言うととても怖かったし、不安でした。ステージに立つ私は、ファンのためにパフォーマンスする強い立場にもあり、ファンを守らなければならない弱い立場にもある。爆破なんてとても恐ろしいことだけど、私はこれを解決しなければならない。何があっても、ファンのためにステージに立たなければならないのです」
2022年のポルトガルツアー中には会場の爆破予告を受けるなど、その存在感と発言力でますます世界の注目を集めるロザリア。そんな彼女は、こんな思いを胸に日々ステージに立っているという。
「不測の事態への備えなんて、どうすれば良いのか誰にもわからない。だから、私にできることはただ最善を尽くして、無事を祈るだけ。祈ればきっと全ては上手くいく──そう心から信じて毎日ステージに立つだけです」
Text: Masami Yokoyama Editor: Mayumi Numao
