愛に満ちた“小さな宝石箱”
「自分だけの城」と呼べる場所を持つことは、間違いなく、あらゆる若い女性の夢だろう。そしてまさにこれを実現したのが、モデル兼俳優からデザイナー、起業家、エンジェル投資家へと活躍の場を広げているロージー・ハンティントン=ホワイトリーだ。
イギリス生まれの彼女は、同じくイギリスに拠点を持つ売れっ子インテリアデザイナー、ローズ・ウニアックのサポートのもと、夢の空間を創りあげた。ロージーは緑の多いロンドン郊外に、パ ートナーの俳優、ジェイソン・ステイサムと幼い2人の子どもと一緒に暮らす家をすでに持っている。だがそれとは別に、ロンドンの街中に完璧なプライベートスペースをつくることにした。
「私はよく、“小さな宝石箱”にたとえています」と語る彼女の声には、ひときわ熱がこもる。平日の大半は、仕事のため、そして「落ち着いて考える心の余裕を得る」ために、ここを訪れるという。「この家では、クリエイティブな仕事をしていることが多いですね。とてもきれいなしつらえなので、ミーティングにもぴったりの場所です。個人的に、都会が好きなタイプなのも、ここにいる理由です」
最近では、ロンドンで夜を過ごすときには、友人と集まり、料理の腕を振るうのがお気に入りの過ごし方だという。「今ではレストランで外食することはほとんどなくなりました。ここに来る人はみんな、とても親密でパーソナルな場所だと、この家を褒めてくれるんですよ」
ロージーとジェイソンは長年、ロサンゼルスで暮らしたのち、ロンドンに戻ってきた。この家もそのときに手に入れたものだが、ロージーは以前から、この家に何かと縁があった。実際、最初に内見したのはジェイソンと住む家を探していた 10年前のことだったという。「お互いに、夢中になれることのひとつですね。二人とも建築やデザインが大好きなので」と、彼女は振り返る。
だがこのときは、「将来的に子どもを持ちたいと思っていた」という事情もあり、一緒に暮らすには狭すぎると感じたという。「それでも、この家のことは、一目見て以来ずっと気にかかっていました。実はモデルの仕事を始めるためにロンドンにやってきたときに、親戚の家に住まわせてもらっていたのですが、そこがこの家のすぐそばだったんです。当時、この家の前の道を歩いては『いつかこんな家を持ちたいな』とひとりごとを言っていたんですよ」
しかしこの家が再び売りに出されたとき、その様子は彼女の記憶にあった姿から変わり果てていた。「複数のオーナーを転々とし、賃貸に出されていて、かなり傷んでいました。それでもチャーミングなところは変わっていませんでした」
この家は、英国にとって特別に重要な建造物に与えられる「グレードII*」に指定されたタウンハウスでもある。「この時代のジョージアン様式(18世紀前半から19世紀半ばのイギリス建築)の建物には、高いエレガンスと洗練が漂っています」と、ロージーは語る。
この家を手に入れると、ロージーはローズ・ウニアックに声をかけた。ウニアックは、ロンドン郊外にある彼女の家でも、すでにインテリアデザインを手がけていた。このときに「インテリアの趣味や理想が一致していた」ことが、今回も彼女に依頼する決め手になったという。「これは素晴らしいプロジェクトだと感じていました。
私は自ら計画を後押しするアイデアを出すとともに、居住者としてのリアルな視点を提供できました。そこにウニアックが彼女ならではの個性やスタイルで、新たなレイヤーを加えてくれたわけです」と、ロージーは、このリノベーション計画を振り返る。
「このプロジェクトをとても誇らしく思います。それは、ウニアックと私、両方の“筆跡”が刻まれているからです」一方のウニアックは「住む人をいい気分にさせ、ハグされているように感じさせるスペースをデザインする」ことを、仕事の原則に掲げている。「このジョージアン様式の家に、私なりのコンテンポラリーな味、そしてロージーにふさわしいスタイルを加えたいと思いました。クリーンでフレッシュ、エレガントでフェミニンな感覚を呼び覚ましたかったのです」
すべての部屋の床材にはディーネセンの、ダグラスファー材の淡色系のフローリングを敷き詰めた。ウニアックの自宅で採用しているのを目にしたのが決め手だったという。「これで家全体のトーンが決まりました」と、ロージーは熱く語る。
また、キッチン、バスルーム、ドレッシングルームのキャビネットにも、同じ木材を採用した。 壁は温かみのあるオフホワイトを選択し、職人の仕上げの技が光っている。この空間に、ウニアックはクリーム系のソフトな中間色のアイテムを配置した。これはインテリアとファッションに共通した、ロージー の好みのスタイルだ。 「ここにいると、喜びが湧きあがってくるとともに、心が落ち着き、静寂が得られます」と、ロージーはこの環境を絶賛する。
かつてランウェイのスターとして名を馳せ、俳優としても『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』に出演した実績を持つ彼女は、デザイナーとしても活躍している。イギリスの小売大手、マークス&スペンサーとランジェリーを共同開発したほか、最近ではワードローブ エヌワイシーとコラボしている。「エントランスのドアから足を踏み入れたときに、こういう感覚を得たいと思っていました──家に入った瞬間に深呼吸をして、安らいだ雰囲気に包まれていると実感できるのが夢だったんです」
セカンドハウスだからこその高い自由度
このタウンハウスを自分用の家としたことで、まだ幼い子どもたちの少々荒っぽい行動を想定してインテリアを選ぶ必要はなくなった。それゆえに、ロージーとウニアックは、素材を選ぶ際に、家族と暮らす家に比べて、実用性をある程度は度外視することができた。「より大人の雰囲気のある空間にしたかったんです」と、ロージーは語る。
この希望は、コンテンポラリーとアンティーク、両方のピースを配置したインテリアによって見事に実現されている。「ヨーロッパのアイテムが多いですね。北欧のものもありますが、フランス産のものがメインです。それから一部には、フィリップ・ロイド・パウエルのようなアメリカのデザイナーのピースも採用しています」とウニアックは解説する。
そして、アート作品として、テキスタイルが数多く飾られているのも特筆すべき点だ。「ガラスのフレームに入ったアートが並ぶのは、堅苦しく感じたんです」と、ロージーはその理由を説明する。テキスタイルやアートに、女性アーティストの作品が多いのも目につく。壁を飾るのは、ターカ・キングスの3枚1組のアートや、シモーヌ・プルーヴェのテキスタイルアートなどだ。そして、家具については官能的なカーブを持つものが選ばれている。
「この家には、グッドガール・エナジーがあるんです」と言って、ロージーはにっこりと笑う。あらゆる空間を埋め尽くす「明るさ」も、彼女が言う“エナジー”の表れだ。朝から晩まで、各部屋を柔らかに照らす日光だけでなく、ウニアックが各部屋に合わせて選んだ絶妙なインテリアピースの配置も、明るさの演出に一役買っている。 それぞれの要素が相乗効果を発揮することの大切さを説く中で、「一つ一つの部屋について、アイテムを密集して置くか、あるいは空間を生かすか、という組み合わせが肝心なんです」とウニアックは話す。「例えば、何も飾られていない壁の前に家具が置かれていれば、それぞれの要素がお互いの見え方に大きく影響を与えます」とのことだ。
とはいえ、それでも、デザイナーとして、ウニアックは差し色としてのブラックや重厚感のあるものを加えることで、空間を引き締めることも忘れていない。リビングルームに置かれた赤いトラバーチンのサイドテーブルや、ダイニングエリアの壁にとりつけられたジョージ・ナカシマのウォールナット材のコンソールテーブル、くっきりとしたマーブル模様が目を惹くベッドルームの暖炉などがその例だ。こうすることで、「軽すぎて飛んでいってしまいそうな感じにならないよう」気をつけたと、ウニアックは解説する。「ちょうどよいバランスを見極めることが大事です。適切なピースを選ぶことで、それぞれの部屋の活気を奪うことなく、むしろ空間にエネルギーを与えることができます」
特に気に入っている部分について教えてほしいと頼み込んだところ、ロージーはこう答えてくれた。「『この家の中をつくり出している一つ一つの要素すべてが本当に特別』というのが、偽らざる気持ちなんです。二人で選んだものすべてが、じっくりと時間をかけて吟味したものですから」
家や家具、アートで互いへの愛を伝え合う
さらに彼女によれば、「優雅さや造りの確かさ」というヴィンテージの魅力に目覚めたのには、パートナーのジェイソン・ステイサムのおかげだという。「最初に会ったときから、ミッドセンチュリーの家具について教えてくれたんです。その後、カップルになり、一緒に家を買い、デザインを考え、インテリアコーディネートに夢中になる中で、お互いの趣味がどんどん進化していきました」と、彼女はこれまでのパートナーとの共同作業を振り返る。
ロンドンのタウンハウスでお気に入りのアイテムにも、ステイサムからの贈り物が含まれている。例えばリビングルームに置かれている、パーヴォ・ティネルがデザインしたフロアランプもその一例だ。「チャイニーズ・ハット」という名でも知られるこのランプは、 真鍮製の本体の上に、 三角錐形のかさがついたデザインだ。
「見ておわかりのように、私たちが愛を伝え合う言葉は、家、家具、そしてアートなんです」朝食コーナーに置かれたトラバーチンのテーブルを頭上から照らすイサム・ノグチのペンダントシェード「AKARI」や、リビングに置かれた1950年代のフリッツ・ハンセンの、2脚1組のシープスキン張りのイージーアームチェアなど、この家ではアイコニックなデザイン家具が随所に配置されている。一方で、コンテンポラリーなピースにも、目を惹くものがいくつもある。
「リビングのマントルピースにグリテロの『ホールドミー』という花瓶を置いているのですが、ちょっと変わったデザインなので、いつも家に来たゲストのみなさんの間で話題になりますね」とロージーは語る。また、「羽根のように軽く、ソフトでセンシュアル」と形容されるアトリエ・セドリック・ブライザッハのシカモア材のテーブルとスツールは、バスルームに置かれ、エレガントなドレッシングテーブルに変身した。また、背もたれが三日月形の60年代のソファは、ウニアックのブークレのウール生地で張り直されている。もともと、ロージーはジャン・ロワイエのオリジナルモデルを希望していたが、より財布に優しい選 択肢として、こちらが採用されたという。「(オリジナルモデルの)ソファを選ぶと予算のかなりの部分が吹っ飛ぶことに、すぐに気づきました。それに今にして思うと、重厚感がありすぎて、この場にそぐわなかった気がしますね」
当然ながら、ウニアック自身のアイテムも家のそこここにちりばめられている。未塗装のオーク材とステッチ入りレザーシートのアームチェアや、スカートのようなキャラコのシェードつきのブロンズのペンダントライト、ろくろのようなフォルムのトラバーチンでできたサイドテーブル、壁紙として使われた薄手のリネン、ソファに張られた厚手のウール織物、肩肘張らないムードを演出するローマンシェードに使われたシアーなリネンも、すべて彼女自身のコレクションの品だ。「キャリアを通じて、さまざまなコラボレーションに、最も興味を抱いてきました」 と、ウニアックは振り返る。
この家でもフランスの陶芸家、イザベル・シカール作のストーンウェアを、立体感のあるテーブルランプに作り替えている。「そうしたコラボを通じて、仕事術が進化してきました。 作るものや買うものの選択、そしてその理由を考えることは、仕事のカギを握る部分なんです」
「ここだけの話、この家を誰よりも気に入っているのはジェイソンなんです」と言って、ロージーは笑う。「ここに来るたびに、彼はとても刺激を受けて帰るんですけど、少しうらやましく思っているところもあるみたいです── 私が自分だけの“隠れ家”を持っていることに」キッチンのドアからの眺めを堪能しながら、ロージーは「これは私の人生でも一番満足感のあるプロジェクトです」と語る。その言葉に嘘はないようだ。ドアの向こうに見えるテラスガーデンは、小さいながらも緑であふれている。こちらは数々の賞を受賞しているイギリスの景観アーキテクトでガーデンデザイナーのトム・スチュワート・スミスが設計したものだ。「ランプやウォールライトから、アート作品、そしてキッチンの引き出しに収められているナイフやフォークに至るまで、ここにあるすべてのピースは、一つ一つ選び抜いたものです。キャビネット類のデザインにもこだわって、自分が思った通りのものにしました。 まさに、大きな夢がかなったんです」
Profile
ロージー・ハンティントン=ホワイトリー(ROSIE HUNTINGTON-WHITELEY)
1987年、イギリス・デヴォン州プリマス生まれ。モデル事務所でのインターンを経て、モデルとして契約、16歳でモデルデビュー。2004年、ニューヨークコレクションでランウェイデビュー。2011年、映画『トラ ンスフォーマー/ダークサイド・ムーン』でヒロインのカーリー・スペンサー役に大抜擢され、スーパーモデルから俳優へと転身を遂げた。
Photos: Simon Upton Text: Fiona Mccarthy Translation: Tomoko Nagasawa Adaptation Editor: Sakura Karugane
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