BEAUTY / EXPERT

vol.7 エロスな「脂肪」の蓄え方とは? 【連載・内なるエロスの高め方】

この数十年、世の中で何度となく聞いてきた「ちょっとぽっちゃりがいい」という声。あらゆる角度で「エロス」を分析するこちらの連載、今回のテーマは脂肪。美容編集者歴30年のジャーナリスト、麻生綾がストイックに深掘りする。

「脂肪」におけるアンビバレンツ

映画『バッファロー'66』(1998)のクリスティーナ・リッチ。彼女の“ぽっちゃり”した美しさは当時話題に。 Photo: ©Lions Gate/courtesy Everett Collection

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はるか10代の昔はもちろん、還暦のゴールテープが見えてきた現在に至るまで、一貫して常に関心のあるトピックスが「ダイエット」だ。実際、女友達とは(ときに男友達とも)寄ると触ると「いかに楽に痩せるか」の話をしているように思う。お腹周りを筆頭に、二の腕の振袖、下半身の肥大化……などなど。ウヌウ、Why? なぜに脂肪は溜まり、増殖し、理想として思い描くフォルムを台無しにしてしまうのだろう?

映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)のブラッド・ピット。男性に関しても脂肪の配分の重要性は存在するのかも。 Photo: ©Paramount/Courtesy Everett Collection

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がしかし一方で、ないと困るのがこれまた脂肪である。病的な太り過ぎは論外だが、脂肪はやはりエロスの源……というよりエロスそのもの。オッパイだって脂肪なわけだし、女性らしさを司るホルモン、エストロゲンの分泌も脂肪あればこそなのだから。あと、カラダにも増して問題提起したいのは顔ですよ顔! 年をとれば否応なしにこそげて角張ってくるので、若年層における顔の丸みを気にしての美容施術(脂肪除去)なんて、まーさーに後悔先に立たず! 当人はもとより請け負うドクターに対しても「いったい何をやっているの!」と恫喝したくなってしまう。

あっては困り、なくても困る、この脂肪における厄介なアンビバレンツ。こういった場合は専門家に尋ねるのが一番、というわけで美容医療の最前線に立ち続けるアヴェニュー六本木クリニックの寺島洋一院長に「エロス視点での脂肪談義」を持ちかけてみた。

ジェニファー・ロペスのボディには美しい筋肉と、いい塩梅の脂肪を感じる。映画『メイド・イン・マンハッタン』より。Photo: © Columbia/courtesy Everett Collection

©Columbia Pictures/Courtesy Everett Collection

寺島先生は超・信頼しているドクターの一人である。眼瞼下垂オペの名手でもあり、私の周りにも“メイド・イン・寺島”のまぶたの持ち主がたくさん。「やりすぎ」がないので、誰もがカミングアウトしなければわからないほどの実にナチュラルな仕上がりが特徴だ。私も小学生の頃から「眠いの?」と訊かれ続けてきた目もとなので、本来なら匠による華麗なメスさばきのお世話になるべきなのだが、ここまできたらそれはまたひとつのキャラと自認、「その眠そうなのがいいのよ」と言ってくれる人もいるのであえてそのままにしている。もっとも、先生ご自身は私を見るたび手早くチャッチャと切りたくてウズウズしているみたいだけれども(笑)。そして腕前だけでなく、「また敵を増やしてしまう……」とボヤきながらも、思ったことを包み隠さずズバズバおっしゃるキャラクターもナイスだ。

エロスを追求するならダイエットはやめてよし!?

多くの男性を魅了してきたボディといえばこの人、サマンサ。2008年公開の映画版『セックス・アンド・ザ・シティ』より。Photo: ©New Line Cinema/courtesy Everett Collection

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寺島Dr. 基本、脂肪というのはないとダメなんです。医学的に言うと、一定量の脂肪がないとレプチンというホルモンが分泌されず、レプチンがないとエストロゲンの分泌も起こらない。そうなると月経が来なくなり、生殖機能を健康に維持することができなくなります。
麻生 過度なダイエットで生理が止まる理由ですね。
寺島Dr. そうです。女性はすぐ痩せたがるけど、男性同士で話をしていると「ムチ」のほうが好きという人が多いのも事実。僕自身、二の腕や太ももがしっかりあるのは素敵だなと思います。
麻生 まあそうなんでしょうけれど、スレンダーな体形に憧れる女性も多いわけですよ。
寺島Dr. いやでも今回のテーマ「エロス」とは何か? っていうと、つまるところは人間の本能に訴えかけるセクシャルな魅力……なわけでしょう? そう考えたら、痩せすぎで不健康に見えるのは、(ヘテロ)男性から見たらエロスを感じないという理論が存在します。過度な肥満体となると、これまた不健康なので話が違ってきますが、男性は女性が思うより「いいな」「綺麗だな」と感じるレンジは相当広いです。
麻生 うーん、「エロスを追求するならダイエットはやめてよし」という朗報と受け取りましょう。

モテていたのは、スッとした美人より丸顔の子!?

フローレンス・ピューの丸いフォルムの顔とボディからはどこか安心感を得られる。映画『フォーリング 少女たちのめざめ』(2014)より。Photo: © Cinedigm Entertainment Group / courtesy Everett Collection

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寺島Dr. 顔についても同じで、若い世代は顔がまん丸なことを気にして、何なら「顔の脂肪全部取りたいです」みたいなリクエストをされることがあるのですが、ホント必要ないと思います。大抵の場合、年とともに顔面の脂肪は必ず失われていきますから。それも特定部位ね。上から列挙しますと、こめかみ、おでこ、頬骨の下、目の下、鼻の横、おとがい。
麻生 あー、わかります。見事にこけてくる……。
寺島Dr. 逆に加齢で脂肪がついてしまう場所もあって、僕はそれを「モチョ肉」と呼んでいるんですが、ほうれい線やマリオネットラインの上にのっかった脂肪、バッカルファット(頬の内側の脂肪)、あと目袋ね。
麻生 あるべき部分から脂肪が移動しちゃったということでしょうか? 重力で。
寺島Dr. はい。僕が思うに「老けた印象」とは、顔面に表れている影の総和なのではないかと。肉がそげると、その部分がくぼんで影ができるじゃないですか。その影の総面積が広いほど、顔は老けて見える。それが証拠に、赤ちゃんの顔には影がないでしょう? 先程のエロス=健康説を取るとしたら、若い印象と老けた印象では前者がよりエロティックに感じられるはずです。学生の頃、クラスで何だかんだでモテていたのは、スッとした美人より丸顔のわりと普通の子じゃありませんでした? かようにエロスとは理屈ではなく、本能に訴えかける「なんかええやないか」だと思うんです。

かつてあったものを足し、増えたものは引く

最近、ボディラインに変化が見られるセレーナ・ゴメス。Photo: Lionel Hahn/Getty Images

Lionel Hahn

寺島Dr. 実際、ある程度のお年頃の患者さんは10人中10人が「どうやったら若返りますか?」の注文に終始します。その場合どうするか? 手っ取り早いのは、以前その人がそうだった顔に復元すること。かつてあったものを足し、増えたものは引く。つまり原状回復です。
麻生 部屋の引き渡しでもあるまいに(笑)。まあ、要は「お直し」ではなく「お戻し」ですね。
寺島Dr. ただね、その匙加減が難しい。僕は美容施術の基準は、周りが気づかないくらいの変化、もしくはその変化を「あれ? なんか綺麗になったね」と心地よく受け入れてくれる範囲と考えています。僕が好んでやっているのはこめかみ、頬骨の下にボリュームを足すこと。たとえば加齢で頬骨が尖ってきたというのは、頬骨が新たに生えたわけではなく、周りの脂肪が減っただけなんですよね。かといって足し過ぎで卵みたいになるのも、これまた不自然でダメ。自然界に存在しない「なんか変」は、それはそれで魅力を削いでしまうので。
麻生 不自然にならない範囲で影を消していくことが大事と。まさに匙加減!
寺島Dr. 自分の顔(外見)ってね、唯一客観評価ができない部分なんですよ。主観でしか見ることができない。だから、必ずしも患者さん当人が一番輝く施術を希望してくるわけではないのがこれまた難しいところで。内心ではおかしいと思いつつ、注文されるままに諾々「はいよー」とやってしまうドクターもいますが、それはプロの仕事ではないと思います。

「小顔になるよ」はヤバすぎる魔法の言葉

メーガン・トレイナーによるボディボジティブ思想から刺激を受ける人は数多く。Photo: Frazer Harrison/Getty Images

Frazer Harrison

寺島Dr. 最近、若い世代に流行っている脂肪関連の施術に「脂肪吸引した後に糸を入れて小顔にする」というのがあります。医者のような専門家の言う「小顔になるよ」「可愛くなるよ」は、必殺の決めゼリフというかヤバすぎる魔法の言葉でして(笑)。
麻生 確かに。19、20歳で言われたら私もまず抗えないだろうなあ。
寺島Dr. そのうち勝手になくなる脂肪なのに、吸引して、糸で引き上げて、その後大抵の場合えらの部分にボトックスを打つ。そうすると確かに「顔が小さくなった」ふうになるんですが、ほとんどが最後のえらボトによる効果なので、大枚はたいても一年くらいで元に戻ってしまう。それに、こけた頬なんてエロスと逆方向ですよ。あと、過度の「クマ取り」手術もね。いらんとこまで取られて困っている人を何人も見ています。とにかく美容施術はノリで決めないこと。セカンドオピニオンも取ること。あと、借金してまでやるものではありません。
麻生 10代、20代の皆さん、もしここを見ていたらホントその通りです。肝に銘じておいてくださいね!

【まとめ】
というわけで寺島先生、ご協力ありがとうございました。要は病的に太っている場合以外は、無理に痩せようとする必要はなく現状ママでOKと(ありがたや)。もっとも寺島先生もおっしゃっていたけれど、面長のガリ痩せなのに妙にエロティックな竹久夢二の美人画や、ときにヘテロ女性がヘテロ女性にエロスを感じる場面などもあるわけで、そこが高度に発達したヒトの脳の一筋縄ではいかない面白さ。つまり、生殖能力という直接的なエロスのほかにも魅力のベクトルは存在しているということだ。

ともあれ、脂肪においてコントロールすべきは「量」ではなく「位置」、というのが今回の結論である。体も顔も、あるべき場所に、あるべき脂肪を。「中年よ、正しく脂肪を抱け!」ということなのだろう。

本日の“エロスな”リコメンド
「モチョ肉」退治に! 脂肪融解注射と高周波の合わせ技

チンセラプラス 1cc ¥11,000、トゥルースカルプiD(フェイス)1ショット ¥11,000

自力ではまず落とせない、ほうれい線やマリオネットラインにのっかった脂肪。そんな寺島先生おっしゃるところの「モチョ肉」に、デオキシコール酸を主成分とした脂肪融解成分の注入「チンセラプラス」×高周波エネルギーによるフェイス用の痩身マシン「トゥルースカルプ」の合わせ技で一撃を。正しい位置に脂肪を収めて、かつてのスッキリ顔を目指す。

アヴェニュー六本木クリニック(皮膚科・形成外科)
東京都港区六本木7-14-7 六本木トリニティビル5F
0120-766-639(予約制)
診療時間 10時〜19時
https://www.a6-clinic.com/

Profile
麻生綾 美容編集者歴は30年越え。『25ans』『婦人画報』(ハースト婦人画報社)、『VOGUE JAPAN』ビューティー・ディレクター、『etRouge』(日経BP)編集長を経て、現在はビューティーのエディター、ジャーナリスト、エッセイストとして数々のエディトリアル、広告にて執筆やディレクション等を行う。その豊かな発想力を求め、多くのブランドがラブコール。日々移り変わる美容をかわりやすく噛み砕き、時に新たな発想をあたえる美の伝道師的存在。2024年の“エロス”な抱負は「その日のうちに寝ること」。いまあらためて睡眠の時間帯の重要性を感じているところ。

Text & Editor: Aya Aso Editor: Toru Mitani