BEAUTY / EXPERT

vol.5 無意識に男性を惹きつけてしまう女性の魅力って?【連載・内なるエロスの高め方】

あらゆる角度でビューティーを分析する、美容編集者歴30年の麻生綾が「エロス」を追求するこの連載。今回は、多くのヘテロセクシュアルの男性を不思議な力で引き込む“あのタイプの”女性を深掘りする。※前回の記事はこちら。

ナチュラルボーンの“メンズ・ホイホイ”

映画『(500)日のサマー』(2009)より。地味すぎず派手すぎないヴィジュアルは、男性を引き寄せやすい要素のひとつかもしれない。Photo: ©Fox Searchlight. All rights reserved/courtesy Everett Collection

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なぜか男を引き寄せてしまう女――友人や知り合いなど、あなたの周りにもたまに居ないだろうか? もう少し説明すると、ただそこに立っているだけでヘテロセクシュアル男性の関心を引いてしまう女性。当人の意志とは関係なく、払っても払っても好意を寄せる男性が次から次へと湧いてくる、言うなれば“メンズ・ホイホイ”である。ただ、不思議なのはそれが誰もが認める美人さんとは限らないことで、比較するとむしろスーパーな美女(ここでは世の中の多くの人々が「美しい」と呼称する女性を端的に指します)のほうが案外寂しくお茶を挽いていたりする。

小悪魔は極めていると同性から支持されることも多いので、このタイプが男性引き寄せ系、とも言えない。映画『小悪魔はなぜモテる?!』(2010)より。Photo: Adam Taylor/©Screen Gems/Courtesy Everett Collection

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「男を引き寄せる女」。実は私、高校1年生のときからこのカテゴリーに興味を抱いており、ことあるごとに考えを巡らせてきた。きっかけはクラスメイト(以下A子とします)が、他校の男子生徒に一目惚れされる瞬間に偶然居合わせたこと。A子も私も小学校から高校までの一貫教育、筋金入りの女子校育ちだったので、見知らぬ男の子にいきなり告白されるなんていうのは漫画の中でしか見ないレア中のレアな出来事。そんなわけで興奮冷めやらぬまま帰宅するなり母に“事件”の報告をしたのだが、私が指差す写真の中のA子をチラ見した母から返ってきた感想は「ああ、確かに男好きする顔してるわねこの子」という妙に生々しい一言だった。

意図せず漏れてしまう色香に翻弄される男性は大多数。映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)の主人公の妻は、その代表例かも。Photo: © Janus Films / courtesy Everett Collection

男好きする⁉︎ はっきりとはわからなかったけれど、通常の母娘の会話にはあまり登場しないような淫靡(いんび)さを孕む表現に、16歳の私は変に興奮したというか気持ちがザワついたのを覚えている。A子は確かに可愛かった。がしかし目を引く美形というより、ちょっぴりおどおどした言動、華奢で身長も160cmに届かない小動物的な可愛さだ。ちなみに告ってきたのは言っては悪いが正直、顔も話の内容も極めて平均点ど真ん中な感じの男の子。でもどうやらA子には、そんなMr.フツーくんに声をかける勇気をふり絞らせるだけの魅力、あからさまに言えば「オスを起動するメス」のような非常に根源的な力が備わっていたらしい。それって……? 以来、「男を引き寄せる女」は私にとって解明マストの一大テーマとなった。なぜなら女子校特有の横並び感をぶった斬るかのようにクラスメイトが突然違うダンジョンに行ってしまった寂しさ=取り残された感はかなりのものだったし、また、なによりこのままほっておいたら自分が「じゃないほう」、すなわち真逆の「男を引き寄せない女」まっしぐらと薄々気づき始めていたから(爆)。

ヘテロセクシュアル男性の本能を刺激する“顔”って?

映画『クリスティーナの好きなコト』(2002)のキャメロン・ディアスを思い出してみる。日本においては、彼女のような天真爛漫な可愛い女性には同じく陽キャの比較的イケメンがアタックしがちかも。Photo: ©20th Century Fox Film Corp. All rights reserved. Courtesy: Everett Collection.

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時が経ち、受験勉強の果てにやっとこさっとこ大学に入学。19歳なんていうのはエロスがモリモリに目覚め出すお年頃であり、日夜机に縛り付けられる生活からようやく解放され、しかも幼稚園以来の共学とくれば勉学よりも恋バナに夢中になってしまうのは、まあいたしかたなしという毎日だった。そんな状況下に、A子とはまた全然違うタイプながらやはり入学当初からクラスの男子に大人気の同級生(B子とします)が居た。確かに綺麗な顔立ちだったが、B子はなぜこうまで初見で男の子たちを虜にしたのだろう?

ホン・サンス作品に登場する女性は非常にニュートラル。この普通感は惹きつける要素を持ってそうな気配が。映画『自由が丘で』(2014)より。Photo: © Grasshopper Film / Courtesy Everett Collection

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たぶん彼女より(昔の定義で言う)美人だったり、お洒落でスタイルがよい子はほかにも居たと思う。が、共学育ちだからなのか、B子は男のいなしかたが上手。一浪していたこともあり大人っぽくて、そしてなにより出張ることなくいつも静かに穏やかに微笑んでいた。でも一番衝撃かつ密かに納得したのは、とある男子がぼそっと口にした一言だった。「俺はそんなに興味ないけど(←往生際の悪い前置きであり言い訳。笑)B子はさあ、下半身にくる顔なんだよ」。

な・に・そ・れ!? まさか40年後にこんなコラムを書くなど想像だにしていなかった当時の私には、そのつぶやきはあまりに刺激が強く、いまだ口調も含めて覚えている。男子の勝手な妄想に巻き込まれているB子を気の毒に思うのと同時に、それまで女の園にどっぷりだった「じゃないほう」のオボコには決して分かり得ないオス特有のあまりにダイレクトな感性について、憤りと敗北感のようなものが交互に去来。A子のときと同様にずぶずぶと思考の深淵に沈んだ私であった。

まあ今にして思うのは、A子にしろB子にしろ、決め手は「顔立ち」以上に「顔つき」だったのではないかということだ。俺を否定することなく受け入れてくれそうな顔、というか雰囲気。

共通するのは“つかみ取れそう”な存在であること!?

映画『パーティで女の子に話しかけるには』(2017)より。エル・ファニングのフェアリーな演技を眺め、身のまわりの不思議ちゃんを思い出す。Photo: © A24 /courtesy Everett Collection

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さて、回想はほどほどに、ここで「男を引き寄せる女・あるある」をまとめてみようと思う。私を含めた「じゃないほう」の女性たちのジェラス混じりの生温かい目による観察記録、そして今回あらためて周りの気心の知れた男性たちにヒアリングして得られた考察は以下の通りである。

1. 威圧感がない
前編に登場したA子、B子はまさにこのタイプ。そしてこれ、態度・言動・服装はもちろん小柄もしくは華奢であることもポイントなのだそうだ。まあ確かにスラリと高身長の女性は憧れの対象にはなるが、物理的な威圧感は否めない。

2. 怒らなそう、否定しなさそう
ファーストインプレッションにおいて。そんな表層的なイメージの話ならば、いざというときのために(っていつだ? 笑)タレ目、下がり眉のメイクの練習でもしておきますかね。

3. 表情、佇まいがはかなげ
庇護欲をかきたてるのか、こちらも鉄板(いやいや、そういう女は構われ慣れているので案外ワガママで性格もきつかったりするんだけどな……とは圏外女子のやっかみか?)。もっとも男性も百戦錬磨の手練(てだれ)になると、いざお近づきになったときの彼女が全然「やさしくも」「はかなげでも」なかった場合、それはそれで闘争心に火がつくらしいけれど。

4. 不思議なムードが漂っている
話の本筋から外れた、ときにこちらの膝がカックンするような発言、「微笑ましい」の範疇にギリギリ収まるくらいの空気を読まない(読めない)振る舞いなど。女性からすると、正直イラッともするこの「不思議ちゃん」の「天然」の言動、ある種の男性にとっては「すごく面白い」に変換されるらしい。なぜだ……

5. 働いてなさそうという回答もあった。なんだそれ(笑)
曰く「私、バリバリ仕事しています」ではなく、常に存在がふわふわした感じの人に惹かれるのだとか。これも庇護欲? あるいは誘いを「忙しいから」と断られることの回避?

6. 距離が近い
いわゆるパーソナルスペースの概念がない人。わざとなのか、それとも生まれつき感覚が欠如しているのか、そういう人は気がつくとハッとするほど側にいたりする。そしてパーソナルスペース無視の人は心理的な壁も薄く低く、よくも悪くも「開けっぴろげ」であることが多い。また、より深い部分で男心を鷲掴みにできる“上級者”は、そうやって相手をドギマギさせてからの「おあずけ」のタイミングも実に上手だ。一度着火を成功させた後の軽い知らんぷりやちょっとした意地悪は、火おこし送風機のように効く。

そういえば「男を引き寄せる」のテーマからは少しずれるが、男女関係においては女性側の性格の悪さや底意地の悪さが必ずしも決定的なマイナス要因にはならないのは本当に謎。逆に、尽くしんぼの性格よし子さんがともすると男性に軽んじられやすいのは、彼らの大好物である闘争心や攻略欲を掻き立てることがないから?

そのほか服装や会話の中身などの条件もあるのだが、それらを意識的に行なっている女性との区別がつきにくいのでここでは割愛する。とりあえず総合するとナチュラルボーンの「男を引き寄せる女」とは、相対するヘテロセクシュアル男性を、それこそナチュラルにオスにすることができる女性と定義できるのではないだろうか。「(俺でも)行ける!」と思わせ、ときにはその大いなる勘違いを実際の行動にまで移すパワーを付与。そう考えると、この関係はある種の立派なエコエネルギー開発にもなり得るのでは(笑)。もっとも今回話を聞き回った結果、その思考回路が本能なのか、それとも育つ過程における世間の「男というもの」の刷り込みなのか、当の男性たちもよくわかっていないように感じられたけれども。

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そして女性の立場からすると、逆にそう簡単に「行ける!」などと思われたくない、オンナの矜持みたいなものはある。なんだかんだで日本はまだまだ男社会、世渡り戦略のひとつとして「男を引き寄せる女」に学ぶところはあるかもしれないが、かといって積極的にそうなりたいわけではないし、それを称賛しているわけでもない。最終決定権は常にこちら側。学んで利用できる部分は利用すればいいとも考えられるし、一方で「そんなの知らんがな」と思ったら盛大な勘違いに付き合う必要ナッシングだ。

ちなみに「男を引き寄せる女」について考えるなら、アマゾンプライムビデオ恋愛リアリティ番組『バチェラー・ジャパン シーズン5』の視聴をお勧めする。解というかヒントがゴロゴロしておりますぞ?

本日の“エロスな”リコメンド
男を引き寄せる香りって? 本命の「洋梨」と大穴の「シーシャ」

〈左〉イングリッシュ ペアー & フリージア コロン 100ml ¥21,340/ジョー マローン ロンドン(0570-003-770)〈右〉キリアン スモーキング ホット オード パルファム50ml ¥36,850/キリアン パリ(ブルーベル・ジャパン 香水・化粧品事業本部 0120-005-130)

まずはほんのり甘くて爽やかで、ついふらふらと後をついていきたくなる魅惑の香りの代表を。日本におけるブランド人気No.1、誰をもひと嗅ぎで魅了し幸せな気分で包み込むジョー マローン ロンドンのイングリッシュ ペアー & フリージアが、このたび大進化を遂げた。なんとフレグランスの根幹をなす洋梨のエッセンス、すなわち熟したての洋梨の香りが規格外の果実をアップサイクルした天然ものにアップデート。ますますみずみずしく豊かな、よりいっそうの“愛される香り”となった。

一方、キリアンの新作スモーキング ホット オード パルファムは、ある意味真逆の突き抜けた個性の持ち主。りんごとタバコと濃厚なバニラが入り混じったような甘苦い匂いで、センシュアルなものが多いキリアンのフレグランスの中でもとびっきり退廃的な色気をまとっている。どちらかというとターゲットがメンズ寄りのため、この香りを語るキーワードもシーシャ、タバコ、ヘネシー(ブランデー)など男性の興味を引くものばかり。というわけで「何つけているの?」と訊かれた後のカンバセーションピースとしても優秀だ。

Profile
麻生綾 美容編集者歴は30年越え。『25ans』『婦人画報』(ハースト婦人画報社)、『VOGUE JAPAN』ビューティー・ディレクター、『etRouge』(日経BP)編集長を経て、現在はエディター、ビューティー・ジャーナリスト、エッセイストとして数々のエディトリアル、広告にて執筆やディレクション等を行う。その豊かな発想力を求め、多くのブランドがラブコール。日々移り変わる美容を、かわりやすく噛み砕き、時に新たな発想をあたえる美の伝道師的存在。

Editor & Text: Aya Aso  Editor: Toru Mitani