いわゆるファッションにおける4大都市のファッションウィークの中で、NYはリアルクローズが主流だと長らく言われてきた。しかし2024-25年秋冬シーズンをウォッチしていると、若手を中心に、クワイエット ラグジュアリーからの揺り戻しと言わんばかりに、前衛的なクリエイションで話題を集めるデザイナーが目を引いた。今回は、脱リアルクローズを体現するミレニアル世代のNYデザイナー5人を紹介する。
【BACH MAI/バック マイ】本場パリ仕込みのクチュールテクニックで、NYに新しい風を吹かせる
ベトナム系移民のルーツを持つデザイナーのバック・マイは、ヒューストンで育ち、幼い頃からオートクチュールに傾倒し、ドレスメイキングを独学で始めた。その後パーソンズに進学、卒業コレクションではウィメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーにノミネート。カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)、オスカー・デ・ラ・レンタ(OSCAR DE LA RENTA)で経験を積んだのちに渡仏、オートクチュール・プレタポルテ連合協会で修士認定を受け、メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)のアトリエでジョン・ガリアーノに薫陶を受けている。
2021年に設立した自身のブランド、バック マイ(BACH MAI)の特徴は、ドレープやプリーツといった伝統的なテクニックで作り出す構築的かつクチュールライクなシルエット。2024-25年秋冬コレクションでは、シアーな素材使いやスパンコールで華やかさを強調しつつ、ストリートファッションのバランスを取り入れ、ヤングセレブにぴったりのワードローブを提案した。
【LAQUAN SMITH/ラカン・スミス】セレブ人気はNYの若手随一、ボディコンシャスなシルエットに大人の色香を薫らせて
ボディコンシャスなシルエットのグラマラスなドレスで、ビヨンセやジェニファー・ロペス、キム・カーダシアンをはじめ名だたるセレブリティからラブコールを集めるデザイナーのラカン・スミス。クイーンズ出身、服飾学校での教育を受けず、21歳の若さで自身のブランドを立ち上げ、NYファッションウィークでデビューを飾っている(米『フォーブス』誌のインタビューで、デビューの背後にはメンターである故アンドレ・レオン・タリーの支援があったと語っている)。
2024-25年秋冬コレクションでは、バーガンディやマスタード、カーキ、グレーといったミューテッド・カラーでパレットをまとめつつ、スリークな光沢感のレザーやメタリックのシアーファブリック、ラグジュアリーなフェイク・ファーをふんだんに使い、成熟したディーヴァルックを完成させた。
【MAISIE WILEN/メイジー ウィレン】LAの開放的なムードに、シュールなプリントが心地よい違和感を演出
LAを拠点にするデザイナーのメイジー ウィレンはシカゴ生まれ。NYのパーソンズで学んだのちに、イェ(カニエ・ウェスト)が手がけるイージー(YEEZY)のウィメンズウェアデザイナーとして手腕を発揮し、2019年に自身のブランド、メイジー ウィレン(MAISIE WILEN)をスタート。NYファッションウィークには2021年春夏シーズンから公式スケジュールに名を連ねている。
メイジーが得意とするのは、西海岸らしい華やかな色彩のプリントや、ぱっと目を引くブライトカラーのジャージードレス。2024-25年秋冬コレクションでは、SF映画のセットのようなサイケデリックなプリントのドレスに加え、モノクロ写真を拡大したシュールレアリスティックなプリントのルックも登場し、エキセントリックでありながらシックなスタイルを提案した。
【PUPPETS AND PUPPETS/パペッツ&パペッツ】淑女スタイルにひねりを、アーティストならではの視点が新鮮
チョコチップクッキー付きのトップハンドルバッグ「ジュエル クッキー バッグ」で大きな話題を集めたNYブランドのパペッツ&パペッツ(PUPPETS AND PUPPETS)。デザイナーのカーリー・マークはミシガン出身、NYのスクール オブ ビジュアル アーツを卒業した後にアーティストとして創作活動に打ち込み側で、2020年春夏からはNYファッションウィークでコレクションを発表してきた。
「コレクションの制作過程で淑女という言葉をよく使う。その度に、淑女の概念を少しばかりねじ曲げるために」というデザイナーの言葉通り、2024-25年秋冬コレクションではクラシカルなレディルックのエレメントを用いながら、オフビートなスタイリングを提案。ラグジュアリーなファーのショール合わせたノーボトムルックは、エマ・チェンバレンやエマ・コリンあたりが私服で取り入れそうだ。
【LUAR/ルアー】ビヨンセが来場し話題に、NYアングラシーンからメインストリームへ
フロントローにビヨンセが来場し、SNSを大いに賑わせたのはルアー(LUAR)のショー。NY出身のデザイナーのラウール・ロペスは、NYのアンダーグラウンドシーンを牽引したカルトブランド、フッド・バイ・エアー(HOOD BY AIR)をシャイン・オリバーと立ち上げた経歴を持ち、2011年に自身のブランド、ルアー・ゼポル(LUAR ZEPOL)をローンチ。2018年春夏からはルアーにブランド名を変更し、2023年にはLVMHプライズのファイナリストに選出されている。
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ブランド立ち上げまでのバックグラウンド、そしてブルックリンを拠点にしていることからも分かる通り、ルアーのコレクションはブラック&ラテンカルチャーの影響を色濃く反映している。2024-25年秋冬シーズンでは、ダイナミックなビッグショルダーや、フェイクファーのブーツなど、セレブリティの衣装にぴったりなルックが出揃った。
Text: Shunsuke Okabe