「野良になる」
都心でも年々感じることが増えた気温上昇。それに伴い、各地で激しさを増す自然災害。そんな今、人間の自然に対する態度を再考する必要があるかもしれない。自然を管理すべきものとして搾取してきた私たちが、自然を「守る」ことができるのか。本展は、人間を見直し、そこから排除された存在や思考に目を向ける機会になるだろう。
この社会には、さまざまなバイナリー(二項対立)が存在するが、同時に私たちの思考はその枠組みの境界を緩やかに越えることもでき、そのようなあり方こそが再考のヒントになることも。
出展作家は、日本とアメリカにルーツを持ち、トランスジェンダー女性として生きるあり方を彫刻で表現する丹羽海子。学校教育を離れてから独学で、羊毛を用いドローイングの下絵をカーペットの制作技法を用いた平面作品へ織りあげる技法を学び、風景を描く䑓原蓉子。品種改良や養殖といった人間のコントロールと動植物の生の関係を取り上げ、映像や料理の作品を作る永田康祐。ブラジルに植民地時代以前から伝わる知識をもとに、植物と人間の関係を問い直すアナイス・カレニンなど。
多様な視点から自然を捉える国内外のアーティストらによる表現が繰り広げられる。
場所/十和田市現代美術館
会期/〜2024年11月17日(日)9:00〜17:00
・休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)
・臨時開館日:7月15・29日、8月5・12日、9月16・23日、 10月14日、11月4日
https://towadaartcenter.com/exhibitions/noraninaru/
「翻訳できないわたしの言葉」
日々の暮らしのなかで、言葉を介したコミュニケーションをする機会は多い。一方で、話すという行為そのもの、そしてその権利、さらには世界にはさまざまな言語が存在し、そのなかにも方言や世代、経験による差異や、無数の豊かなバリエーションがあることに意識を向ける瞬間は少ない。
相手や場に応じての変化、仲間内だけで通じる表現、言葉にしなくても伝わるもの。これらはすべて、これまで個人のなかに蓄積された経験の総体から生まれる「わたしの言葉」だと呼べる。誰かのことを知ることは、その人の「わたしの言葉」をそのまま受け取ろうと努力すること。それが容易なときも、困難なときもあるだろう。
この「言葉」について考えるグループ展では、5人のアーティストによる作品を通じて思考をめぐらせる。みんなが同じ言語を話しているようにみえる社会に、異なる言語があることや、同じ言語の中にある違いに、解像度をあげ目を凝らそうとするものだ。
第一言語ではない言葉の発音がうまくできない様子を表現した作品や、最初に習得した言語のほかに本来なら得られたかもしれない言語がある状況について語る作品、言葉が通じない相手の目をじっと見つめる作品、そして小さい声を聞き逃さないように耳を澄ませる体験など。ユニ・ホン・シャープ、マユンキキ、南雲麻衣、新井英夫、金仁淑による展示に触れて、誰かの「わたしの言葉」と自分自身の「わたしの言葉」に眼を向ける機会を提示する。
場所/東京都現代美術館 企画展示室 1F
会期/〜2024年7月7日(日)10:00〜18:00(展示室入場は17:30まで)
・休館日:月曜日
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mywords/
「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」
1973年、米国・シカゴで生まれたシアスター・ゲイツ。彫刻と陶芸作品を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザインなど、メディアやジャンルを横断する活動を行ってきた。2004年には愛知県常滑市で陶芸を学ぶために初来日し、以来20年以上にわたり、陶芸をはじめとする日本文化の影響を受けてきたという。
日本やアジア太平洋地域での出会いや発見と、米国にルーツを持つアフリカ系アメリカ人としての経験を創作の礎とし、文化的混合性を探求。その末に、アメリカの公民権運動の一翼を担ったスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の「民藝運動」の哲学を融合した、独自の美学を表す「アフロ民藝」という言葉を生み出し、今回の展覧会名にも起用されている。
ゲイツの多角的な実践を通し、ブラック・アートの魅力、手仕事への称賛、人種と政治への問い、文化の新たな融合などに迫る日本初となる本展では、新作を含む日本文化と関係の深い作品などを紹介する。
場所/森美術館
会期/〜2024年9月1日(日)10:00〜22:00
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/theastergates/
「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」
フィリップ・パレーノは、映像、 音、彫刻、オブジェ、テキストやドローイングなどさまざまな表現を巧みに操り、現実とフィクションと仮想の境界、あるいは原物と人工物とのあいだに生じる乖離など、その意識は奇妙なずれや隙間へと向けられる。
AI をはじめとする先進的な科学技術を作品を取り入れながら、同時にピアノやランプ、ブラインドやバルーンといった見慣れたオブジェを用いることで、ダイナミズムと沈黙、ユーモアと批評性が交錯する詩的な状況を生みだす。
何者かの気配、声、光、暗闇、隠されたメッセージ──慎重に演出された、ドラマティックな構成 に導かれ、大規模な舞台装置のような会場に足を踏み入れる私たちは、驚きとともに混乱をともなう体験の中へと身を投じることに。国内最大規模の個展となる本展では、1990 年代の初期作品から初公開のインスタレーションまで、作家の幅広い実践が多面的に展示される。
場所/ポーラ美術館 展示室 1、2、5、屋外
会期/2024年6月8日(土)〜12月1日(日)
https://www.polamuseum.or.jp/sp/philippe-parreno/
「日本のまんなかでアートをさけんでみる」
以前は、 東京・品川に位置した原美術館と、別館ハラ ミュージアム アークが2021年に集約されたのが原美術館 ARC。そんな本美術館では、ここ群馬県渋川市から発信をする意味や意義について、考えられた展示が行われる。
日本のまんなかはどこなのだろうか。経済の中心とされる東京、文化の中心とされる京都。それに加えて、北海道宗谷岬と最南端の鹿児島県佐多岬を円で結んだ中心に位置することから、地理的な日本のまんなかと称しているのがここ渋川市だという。
中心都市である東京や大阪、京都からすれば周縁化された場所であるこの地で、「企画展」を中心に据える日本では周縁的展示とされる「収蔵作品展」を中心に紹介している。地球の今後が危ぶまれ、多くの災禍を経験したのち、大がかりな宣伝や演出よりもアーティスト個人との信頼関係を礎として、安心して呼吸ができる空気や青空の下で作品群と向き合うことを役割の1つと考えてとのことだ。アートを通じて、中心とされる既成概念をずらすような、展示を行う。
場所/原美術館 ARC
会期/〜2024年9月8日(日)9:30〜16:30(入館は16:00まで)
・休館日:木曜日(8月を除く)
「民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある」
「美は暮らしのなかにある」という展覧会名にもあるように、民藝のコンセプトは、日々の生活のなかにある美を慈しみ、素材や作り手に思いを寄せるという部分にある。これは約100年前に思想家の柳宗悦が説いた考え方でありながら、今改めて必要とされ、私たちの暮らしに身近なものとなりつつあるだろう。
本展では、民藝について「衣・食・住」をテーマにひも解き、暮らしで用いられてきた美しい民藝の品々約150件が展示される。また、今に続く民藝の産地を訪ね、そこで働く作り手と、受け継がれている手仕事も紹介。現代的な生活と民藝を融合させたインスタレーションも、見どころのひとつだ。
生活のなかの美、民藝とは何か。そのひろがりと今、そしてこれからを展望する。
場所/世田谷美術館 1, 2F展示室
会期/〜2024年6月30日(日)10:00〜18:00(入場は17:30まで)
・休館日:月曜日
https://mingei-kurashi.exhibit.jp/
Text: Nanami Kobayashi