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BTS・SUGA初心者の演劇ライターがライブレポ。練られたステージ、空間掌握力に感動! 「SUGA | Agust D TOUR ‘D-DAY’ in JAPAN」

2023年6月2〜4日の3日間、SUGA | Agust D TOUR ‘D-DAY’ の日本公演が横浜・ぴあアリーナMMで開催された。そのステージはオンラインで配信され、世界中のファンが熱狂! BTSのメンバーであり、彼らの楽曲の多くのプロデュースを手掛けるSUGA | Agust Dのソロステージでは何が行われていたのか? SUGA初心者の演劇ライターが、オンライン公演を観た率直な感想を語る!

PSYとのコラボ曲で知ったソロ歌手SUGAの顔

友人である編集者から電話がかかってきた。「あの、SUGAさんのソロライブレポートを書いて欲しいんだけど」。「ん?あのBTSの?」「そう」。

もちろん天下のBTSの名前はわかるし、サバイバル番組でよく使われる有名曲くらいは知っている。が、それだけ(滝汗)。特にSUGAさんの個人曲は、PSYとの共同制作「THAT THAT」しか知らない。私は本業が演劇ライターで、K-POPも狭い沼しか知らない。ちなみにPSYと彼の事務所P-NATIONを推していて、「THAT THAT」はPSYにとって久しぶりのカムバだった。ましてBTS のSUGAさんがフィーチャリングと発表され、MV公開時には正座待機していたくらいだ。そこでウエスタンの荒野に、SUGAさんが天から降ってきたかのように突如現れ、PSYと共に軽やかに舞い踊った時の、あの感動と言ったら!天下のBTS、忙しいだろうし映るとしてもチラッと顔見せ程度だろうと思っていたのに、おかげさまで曲は大ヒット。勝手に恩人みたいに思っている。

だから、SUGAさんに恩返しをしたい。でも無知すぎる自分には荷が重い、勉強する時間がない…と渋る自分に、友人はこのライブのキーになるMV、「Haegeum」「AMYGDARA」のURLを送ってくれた。ちなみに友人はBTSファンでシカゴ公演も既に観ている。物語仕立てになったそれらのMVを見て、だから演劇ライターの私に声がかかったのか…と納得した。物語は抽象的で、受け取る人によってさまざまな解釈ができるだろう。正解があるわけではなさそうなところが、実に演劇的だ。とはいえ、BTSがそれまで積み上げてきただろう物語は壮大で複雑そうで、初心者がとやかく言えるものではない。

ということで、日本公演の最終日、6月4日(日)のライブ配信を見た、素直な感想を綴りたいと思う(あ、韓国語もわからないです。ご容赦を)。

高速ラップから弾き語りまで、多彩な顔を見せる

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

冒頭はバイク事故によるものか、雨に打たれたまま倒れているSUGAの映像から。「D-DAY」のタイトルが出て、これまでのMVのシーンがフラッシュバックのように流れる。瞳に映るのは記憶だろうか。と、会場にも雨と雷、稲妻が起こり、男たちに運ばれてきたSUGAがステージ上に横たわっていた。ああ、これは映像と同じ光景だ!すると起き上がり「Haegeum」を歌い出した。何かに取り憑かれたようにパワフルに。そこからダンサーも登場して「Daechwita」と大ナンバーが続いていく。

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

ラップというとゴリゴリの、フックを効かせた泥臭いスタイルも多いが、彼のラップはどちらかというと滑らかでメロウ。耳に心地よい声が、すっと入ってくる。その分、メッセージが刺さりやすいともいえるだろう。何かに捉われている人々の自由への解放(「Haegeum」)、大スターになった者の自虐と本音(「Daechwita」)など、歌詞を見るとキレキレだ。声の響きと歌詞との絶妙なバランス、韓国語がわかればもっと楽しめるのにと悔しく思う。続く「Agust D」では高速ラップをいとも容易くやってのけ、この時点ですっかりSUGAの世界に引きずり込まれた。

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

面白いのはフロア(舞台)の床が鎖で吊るされたパーツになっており、可動式で上下すること。フロアを小さな面にするなど、自在なのだ。このフロアが上下する様が、とても絵になる。その上、フロアは真下から照明やスモークを当てられるようになっている(炎もこのシステムかもしれない)。「give it to me」で、フロアが上がっていく様子は照明とも相まって、近未来かのように美しい。このSUGAさんの音楽と共に、すごいものを目撃している感!

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

かと思えば、一人でのアコースティックギターの弾き語り(「Trivia轉 :Seesaw」)、客席と同じフロアに降りて自宅リビングにいるような「SDL」など、ダイナミックさとは逆の親密さを感じる場面も。そうそう、レモンのスライス入りの飲み物は何だろう? 友人によると、シカゴではお酒を飲んでいたとのこと。「People」「People Pt.2」などカジュアルな曲では、客席に「歌いましょう」と語りかけ、大合唱に。

ストーリー仕立てに練られたステージ構成、SUGAの空間掌握力に感動!

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

新たな映像では、路地で起き上がったSUGAが拉致され、連れ去られる。「SUGA: LOST IN MEMORY」とタイトルが映り、不穏な空気でまるでサスペンスのよう。その後、古びた部屋を訪れると、その壁にはプロファイリング途中のような(あるいは犯罪目的の?)写真や資料、黄色いペンキの手形など。これは謎解きなのか、自分の記憶を探す旅なのか?

ここからまた違う世界が広がり、白い衣裳に着替えて登場すると、トップを目指す者の意志と苦悩(「Interlude:Shadow」)をダンサーとともにパフォーマンス。スマホの光で囲まれる場面は、それこそ私たち観る者への問いかけでもあるに違いない。「HUH?!」ではオーディエンスも歌い、場内は激しい盛り上がりを見せた。

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

「一人で歌うとすごく寂しいですね。皆さんが一緒に歌ってくれて心強かったです」とうれしそうに話した後、「…シカカタン」とポツリ。何か造語?とメモしたら、「ARMY(BTSのファンネーム)しか勝たん」と言っていたことに気づいた(笑)。客席の微妙な反応を気にしたのか、しばらくして「さっき言ったもの、違ったみたいですね」と韓国語で言い、かわいらしい方なんだなぁとしみじみ。

この後も、ピアノの弾き語り(「Life Goes On」)や坂本龍一とのコラボ曲(「Snooze」)など、多才ぶりを発揮。最後の曲「AMYGDALA」では、ステージに倒れ、冒頭の雨のシーンにつながるという、不思議なマジックを見た気持ちになった。

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

ここで終わりかと思いきや、ミステリアスな映像が再び。白い服のSUGAが部屋を燃やし、また別の黒い服のSUGAはその様子を見ていたTVを消して去る。あれ、SUGAさんは一人二役? 内面と俯瞰で見た自分? 過去と現在? うーん、ARMYの皆さんの解釈はいかに?

Photo: (P)&(C)BIGHIT MUSIC

「次回僕が日本で公演する際は7人で行います」。この最後のSUGAさんの言葉には、人柄が現れていたように思う。鋭い刃のような歌詞とは真逆の、人を思いやる言葉。どちらもSUGAさんだろうし、その多面性が魅力なんだろうな。

ライブを通して、曲の並び、装置、照明や効果、生演奏、ダンサーのステージングなど、めちゃくちゃ練られていることに感動した。そして、もちろんSUGAさんの空間掌握力の強さ! 全てが調和して、エンタメを超えたひとつの芸術作品を観たかのよう。明日から自分のPLAYLISTに入れて聴き込むつもりだ。