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稀代の歌姫テイラー・スウィフトに学ぶ、人生とキャリアのサバイブ術!

アメリカや南米で凄まじいチケット争奪戦を巻き起こしてきたテイラー・スウィフトの「The Eras Tour」が、遂に日本に上陸。キャリアの集大成ともいえるヒット曲満載の最新ツアーは、2月7日から東京ドームで4日にわたり開催される。テイラーの音楽的変遷にみる、巧みでスマートな処世術とは?
テイラー・スウィフト ツアー The Eras Tour
MARCELO ENDELLI/Getty Images

16歳のときに作った曲のタイトルは、憧れのカントリースターのフルネーム!?

2007年5月、ネバダ州ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで開催された第42回アカデミー・オブ・カントリー・ミュージック賞の授賞式のステージでは、ギターを片手に「Tim McGraw」を披露。同授賞式でカントリー・アーティストのティム・マグロウ(右)&フェイス・ヒル(左)夫妻と。Photo: Kevin Winter/ACMA/Getty Images for ACMA

Kevin Winter/ACMA

今やポップカルチャーのアイコンとなり、ポップミュージック界の最前線に立つテイラー・スウィフト。でも、そのルーツはポップではなくカントリー。カントリーミュージックに魅せられた少女は、16歳で憧れのカントリースターの名を冠した曲「Tim McGraw」(2006年)でデビュー。思わず誰もが“え?”と振り返った同曲は、いきなり大ヒットというわけではなかったけれど、カントリー系ラジオ局を中心に話題を呼んだ。知ってか知らずか、この時からすでにビジネスの才覚をしっかりと発揮していたようだ。

ナッシュビルからNYへ移住し、イットガールズの仲間入り

2015年2月、ロンドンでモデルのナタリア・ヴォディアノヴァとカーリー・クロスが主催するイベントに出席。右からテイラー、カーリー・クロス、ナタリア・ヴォディアノヴァ、カーラ・デルヴィーニュ。Photo: David M. Benett/Getty Images for Naked Heart Foundation

David M. Benett

ナッシュビルからニューヨークへの移住を機に、ポップなサウンドへとシフト。5枚目のアルバム『1989』(2014年)からは「Shake It Off」などビッグなヒットが続出。“テイラーの女子会”なるSNS写真やトピックが頻繁に報じられていた頃で、エマ・ストーンカーリー・クロスケンダル・ジェンナーハイム三姉妹、レナ・ダナムらとの和気あいあいとしたホームパーティ写真にはファンでなくともときめき、憧れた。いわゆるトップセレブの仲間入りとポップスターへの変身は、ほぼ同時タイミングだった。

過去の恋愛はすべて音楽の糧に。“匂わせソング”スタイルを確立

2012年12月、NYのセントラルパークを歩くテイラー・スウィフトとハリー・スタイルズ。 Photo: David Krieger/Bauer-Griffin/GC Images

David Krieger/Bauer-Griffin

ハリー・スタイルズとの恋愛がテーマとされる「Style」、ジョン・メイヤーに宛てた思われる「Dear John」、ジェイク・ギレンホールジョー・ジョナステイラー・ロートナー、コーナー・ケネディら元カレを題材にした“匂わせソング”のスタイルを早くから確立。シンガーならではの手法で華麗にリベンジを遂行。当然ながら、ファンやメディアは新曲がリリースされるたびに、元ネタ探しに疾走──思わぬ PR効果ももたらした。

ただし、進行形の恋人に関しては徹底して秘密主義。カルヴィン・ハリスとの交際中に2人で共作したリアーナの「This Is What You Came For」では偽名を使い、ジョー・アルウィンとの交際中も、アルバム『Folklore』(2020年)で彼にペンネームを使わせている。自らが求めていないタイミングで余計な注目を浴びるのは徹底して避け、機が熟したと判断したタイミングで、音楽を通じて私生活の一部を公表するがテイラーのスタイルなのだ。

カニエ・ウェストやケイティー・ペリーとの確執や和解も楽曲やMVに昇華し、世論を味方に

一方、大々的に楽曲の中で怒りをぶちまけたのが、カニエ・ウェストとの確執だ。直接的な名指しはないもののアルバム『Reputation』(2017年)の大きなテーマはウェストであり、同名ツアーには巨大なヘビを登場させた。というのは、彼の当時の妻キム・カーダシアンが彼女をヘビ呼ばわりし、ヘビの絵文字を使ったから。楽曲のサウンドは激しさを増し、ギラついた電子音が飛び交った。ケイティ・ペリーとのダンサーを巡る確執も、「Bad Blood」とそのビデオで大胆に公表した。

“アライ”としてのポジションも確立

2019年8月、2019 MTV Video Music Awardsのステージで「Video For Good」賞を受賞したトドリック・ホール(中央)とテイラー・スウィフト。Photo: Dimitrios Kambouris/VMN19/Getty Images for MTV

DIMITRIOS KAMBOURIS/Getty Images

そしてどちらのケースでも、しっかり世の中を自分の味方につけることに成功している。ケイティとは後に和解し、自身の「You Need To Calm Down」(2019年)のミュージックビデオで共演。いかにもテイラーらしい和解宣言だ。ビデオの共同エグゼクティブプロデューサーには、トドリック・ホールを起用。LGBTQアライのセレブが多数カメオ出演しているのも、時代の空気をうまく取り込むテイラーらしさの現れだろう。この頃から、多様性やインクルーシブな要素もアーティストイメージに加味されたように思う。

コロナ禍では穏やかでフォーキーなアルバム2枚を立て続けにリリース

ツアーなどの活動がストップしてしまったコロナ禍には、『Folklore』(2020年)『Evermore』(2020年)と立て続けに2枚もアルバムを発表して驚かせた。自宅に篭っている時間が長かったせいか、曲調は穏やかなフォーク調に。歌詞もこれまでのような実体験にインスパイアされたものではなく、架空人物のストーリーへと変遷。コロナ禍で落ち込む人々の心にそっと優しく寄り添った。

最新ツアーでは前代未聞のビジネスモデルを構築

2024年1月、AFCチャンピオンシップゲームで恋人でカンザスシティ・チーフスのトラビス・ケルシーと勝利を祝うテイラー・スウィフト。Photo:Patrick Smith/Getty Images

Patrick Smith/Getty Images

そしてコロナが収まり始めてからは、キャリア史上最大規模の『The Eras Tour』(2023年)をアメリカからスタート。エルトン・ジョンの記録を抜いて史上最高収益の音楽ツアーに認定されるなど、話題に事欠かない。同ツアーが映像化された『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』も大ヒット。そのワールドツアーは今年12月まで続けられるが、そのツアーを行っている最中にツアー映画を公開するという前代未聞のビジネスモデルも構築した。

今年2月のスーパーボウルハーフタイムショーへの出演は、打診を受けたものの断ったと噂されるテイラー。だが、現在の恋人トラビス・ケルシーの所属するカンザスシティー・チーフスがスーパーボウル進出を決めたため、彼女が日本から駆けつけるはずとの話題で持ちきりだ。彼女が応援席にいることでテレビ視聴率が跳ね上がり、新たなアメフト・ファンを開拓したとも言われる。となると来年こそは、いよいよ彼女がハーフタイムショーに出演し、ケルシーが観客席から見守るのかもしれない。

Text: Hisashi Murakami Editor: Yaka Matsumoto