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高額なコンサートチケットにNO! 高騰する手数料をファンへ返金した、ザ・キュアーのロバート・スミスの狙い【社会変化を率いるセレブたち】

一流アーティストのコンサートチケットは、とかく高額だ。さらには悪質な転売問題もあり入手困難となっているのが公然の事実になってしまっている現在。だが、一体何故そんなに高額になってしまうのか──チケットをめぐる手数料の不当請求や買い占めに対し、真っ向から対峙するザ・キュアーのフロントマン、ロバート・スミス。彼を筆頭に、テイラー・スウィフトらアーティストたちも続くムーブメントへと発展しているこの問題にフォーカスした。

2016年オーストラリア・バイロンベイにて行われたコンサートで、パフォーマンスするザ・キュアーのロバート・スミス。Photo: Mark Metcalfe/Getty Images

「今回、私とチケットマスター社との協議により、現在請求されている手数料の多くが不当に高額であるとし、チケット1枚につき10ドルを認証済みファンアカウントに返金することが決定しました。その他取引において生じた手数料についても、不当に高額であることからチケット1枚につき5ドルをすべての認証済みファンアカウントに返金します。アメリカ国内の全会場におけるザ・キュアーのショーを対象としており、すでにチケットを購入されている方には自動的に支払いが行われます。明日以降発売のチケットに関しては、正規の手数料が含まれます」

数年ぶりの“Songs of a Lost World”北米ツアーを控えた2023年3月、自身のツイッターからこうメッセージを発信したロバート・スミス。ブラックのアイライナーと赤いリップ、そして全身黒のファッションがトレードマークの彼は、言わずと知れたザ・キュアーのフロントマンだ。

不平等な格差社会への怒り

1986年撮影。Photo: Ross Marino/Getty Image

1978年、イギリス・ウェストサセックス州クロウリーでポリ・トンプソン、マイケル・デンプシー、ローレンス・トルハーストとともにオルタナティブ・インディー・バンド「ザ・キュアー」を結成。直後にファーストシングル「Killing An Arab」(1979)とデビューアルバム『Three Imaginary Boys』(1979)を発表し、以降「Boys Don’t Cry」(1980)、「Charlotte Sometimes」(1981)、「The Lovecats」(1983)、「Friday I’m in Love」(1992)等々のヒット曲を生み出し、2019年にはロックンロールの殿堂入りを果たすなど、メッセージ性の強い歌詞とサウンドで世界中に根強いファンを獲得してきた。

「今更ですが、この世界は“不平等”がはびこっている。上位1%が下位30%の何百倍も豊かで、労働党政権下でさらに下位の人々は苦しんでいる。それなのに、政府は下位に目を向けることも、何か手段を講じることもしない。何もしないのに高額な報酬を得る人がいる。何も生み出さない、何も役に立っていないのに、巨万の富を得る人がいるのだから、私でさえ怒り心頭です」

イギリス「ガーディアン」紙にこう語ったように、ザ・キュアーの人気を支えてきたのは、その音楽性のみならず、シニカルでチャーミング、かつ的を得た歯に衣着せぬ物言いで常に注目を集めるスミスの存在に他ならない。一方で彼は、2023年6月の全米ツアー中にコロナの影響を受けたLAの貧困家庭に対し地元の支援団体を通じて食料を提供するなど、常に社会的弱者に目を向け、積極的に発言することでも知られる。そんな彼の言動の根底にあるのは「生まれてきたというだけですでに過酷。生きるということは、辛いこと」という独自の一貫した人生観だ。

コンサートチケットが高額な理由

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「ライブに来るつもりのない人は、絶対にチケットを買わないでください! 4月8日から当日券が一般販売されます。詳細は後ほど #ShowsOfALostWorld2023 3/5」

ツアーに先立ち、こうツイートした彼が現在尽力しているのが、コンサートチケットに不当に上乗せされる手数料や転売問題だ。

多くのアーティストたちは、より多くのファンの手元に適正価格でチケットが行き渡るよう願っており、不当に利益を得る “転売ヤー”によるチケット販売を防ぐために、チケットマスター社といったチケット販売会社の“認証済みファン”という事前登録システムを利用している。

無論、テイラー・スウィフトやブルース・スプリングスティーン等の興行収入記録を塗り替えたアーティストたちのチケットも同社のこのシステムを通じて取引が行われている。中には“ダイナミック・プライシング”という販売会社独自のシステムを通じて取引されていることから、とかく高値で入手困難な上に、曖昧な「サービス料」なるものがつき、最終的には数千ドルで取引されるという事態が度々発生していた。今回のザ・キュアーのアメリカツアーチケットには、名目上ダフ屋(転売目的でチケットを購入し、会場周辺でチケットを転売したりする者や業者)を排除するための“ファン保護”を謳った高額なサービス料が上乗せされていたことが、ファンからの怒りツイートで発覚。それに驚愕したスミスが、直接同社に問い合わせて協議へと持ち込んだのだ。

ファンのためにアーティストができること

2022年12月、イギリス・バーミンガムにて。Photo: Katja Ogrin/Redferns

その結果、前述の通りスミスとチケットマスター社は、5ドル〜10ドルの払い戻しを行うこと取り決めた上で、「販売開始は4月7日(金)午前10時(現地時間)、お一人様4枚まで。認証済みファン(Verified Fan)には4月6日(木)に通知します。参考価格:ポートランド公演のフロント14列は150ドル〜230ドル」とメッセージを発信し、スミス自身が最新公演のチケット販売を管理し続けたという。

また、スミスに続くかのようにテイラー・スウィフトもこの状況は「耐え難い」として、チケットマスター社を通じたツアーチケットの一般販売を中止。さらにアメリカの下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテスは、2010年に合併したチケットマスター社と親会社のライブ・ネイション・エンターテイメント社を「独占的」として解体するよう呼びかける事態へと発展した。

今回の高額手数料騒動に対し、初めて手段を講じたアーティストであるスミスはUS版『Variety』誌にその胸中をこう語っている。

「お金がないから、という理由で私たちのショーを見ることができない人が出てくるのはとても残念なこと。そのような事態を避けるためにも、私たちアーティストが適切だと思うチケット価格を決めれば良いだけのことだと思いますし、どんなメジャーなアーティストにでもできることだと思います。残念なことに、チケット販売の段階で手数料を上乗せすることを止めさせる方法は今の所ありませんが、何も生み出さないのに、手数料で儲けようなんて許されない。だからこれからも、私たちのライブを観たい人全員と会場で会えるよう、皆さんの声に応えていくつもりです」

Text: Masami Yokoyama