日本は、先進国で痩せた女性の割合が最も高い
「日本は先進国で痩せた女性の割合が最も高い」というのはご存知だろうか? ここでいう「痩せ」とは、BMIが18.5 kg/m2以下であることを指す。痩せている成人女性の割合を国際比較した研究によると、日本は米国、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダなどの先進国の中では最上位にあり、シンガポール、タイ、中国、韓国といったアジア諸国と比較しても高いことが分かっている。
厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査では、20代の女性でBMIが18.5 kg/m2未満の人は約20%程度。つまり、日本の若い女性の5人に1人以上が痩せていることが分かっている。女性の痩せによる健康障害などを研究している田村好史先生によると、10代・20代ほどではないが、30代以上でも痩せている女性は増えているそう。また今後、痩せた女性は全世代で増える可能性があると続ける。
「今の70代の女性が20代の頃、痩せている人は15%程度。今の40代の女性が20代の頃、痩せている人は20%を超えています。日本では、時代が進むに連れて痩せている女性が確実に増えているのです。加えて、10代・20代の頃に痩せていると年齢を重ねても痩せているケースが多いことが分かっています。今後、日本女性に占める痩せの割合はどんどん増える可能性があると言えるでしょう」。なお、理由は明確ではないが、日本では女性とは逆に男性の肥満率は増加しており、そのアンバランスさも独特だ。
痩せた女性は糖尿病にかかりやすいことが発覚
最近、痩せは糖尿病にかかるリスクがかなり高いという意外な事実が明らかになった。糖尿病の原因は、大きく分けて遺伝的な要因と環境的な要因の2つに分類される。遺伝的にインスリンが出にくい体質だと、血糖値が上昇し糖尿病を発症しやすくなる。一方、運動不足や食生活の乱れなどの環境的な要因により脂肪が増えると、インスリンの効果が低下する「インスリン抵抗性」という状態になり、同様に血糖値が上昇。糖尿病のリスクが高まる。
「従来、インスリン抵抗性は肥満の人に特に見られると考えられてきました。しかし、最近のわたしたちの研究により、痩せ型の女性にもインスリン抵抗性が認められることが明らかになってきたのです。実際、血糖値が上昇した耐糖能異常の割合は、日本の痩せた若年女性では13.3%。日本の標準体型の女性の1.8%と比べてはるかに高いということが明らかになりました」
そしてなんと、日本の痩せた若年女性における耐糖能異常の割合(13.3%)は、米国の肥満者の10.6%より高いというデータも! 肥満より痩せている人の方が糖尿病になりやすい可能性もあるという、驚きの結果だ。
月経異常や骨粗しょう症。糖尿病以外の痩せのリスクとは?
そのほか、女性が痩せることによるリスクは以下のようなものが挙げられる。
- 月経異常:
初経後に月経が止まってしまう「続発性無月経」の原因の多くは、急激なダイエットやストレス、過度な運動など。特に、主食制限は月経不順との間に有意な関連性があることが研究で分かっている。 - 不妊:
女性が痩せていることで脂肪が少ないとエストロゲンが増大せず、不妊の原因となる。 - 低出生体重児:
日本では低出生体重児(2,500g未満)が増加しており、 これには母親の痩せが関係していると考えられている。出生時体重が低い子どもは、成長後に糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいことも指摘されている。 - 骨粗しょう症:
痩せていて体重が少ないと骨への負荷がかからなくなるため、骨が弱くなってしまう。
「このような病気のほかに、朝起きられない、肌が荒れている、髪のツヤがない、眠れない、だるいといった不調も、痩せによって引き起こされている可能性があります。病院で不定愁訴と診断され漢方などが処方されたというケースでも、実際の根本原因は痩せている、もう少し正確に言うと栄養失調の状態にあるかもしれないのです」
健康な痩せと不健康な痩せの違いとは?
痩せていることが、必ずしも不健康であるとは限らない。生まれつき痩せている人や太りにくい体質の女性もいるだろう。
「健康的な問題を生じやすいのは、食べる量が少ない、運動量が少ない、筋肉量が少ないといった痩せた女性であると考えています。こうした女性は、食事から摂取するエネルギーも運動で消費するエネルギーも少ない『エネルギー低回転タイプ』と言えるでしょう。きちんと食べて運動している結果、痩せているというのは大きな問題を生じにくいと考えられます。実際、しっかりと栄養を摂っている長距離ランナーの女性を調査したら、BMIが18.5 kg/m2以下でも、骨密度は普通の人以上に強いことがわかりました」
エネルギーが適切に循環しているか、つまり健康的な痩せかどうかを判断する方法はあるのだろうか? 「ひとつには、しっかりと体を動かし、お腹が空いたら我慢せずバランス良く食べられているかということです。適切に体を動かし食べていれば、痩せていてもエネルギーは回転し、健康的と言えるかもしません。ただし、メタボリックシンドロームなどとは異なり、痩せに関してはエビデンスが不足しています。健康的な痩せかどうかを判断する明確な基準は、まだあまり確立されていないというのが正直なところです」
現在、メタボリックシンドロームは、女性ならば「腹囲が90cm以上でかつ血圧・血糖・血中脂質のうち2つ以上が基準値から外れる」という風に診断基準がある(腹囲を77cm以上に見直すという新基準案も2024年3月に出ている)。しかし、不健康な痩せに関しては、今のところ明確な基準を作れていない。それもあって、「太る」ことほどには、「痩せる」ことのリスクが十分に浸透していないかもしれない。
「太っている人だけでなく痩せている人もさまざまな病気になりやすいというリスクがあるのは間違いないです」と、田村先生は再び警鐘を鳴らす。では、なぜ、日本はここまで痩せている女性が増えたのか。後編では、その背景に迫る。
話を聞いたのは……
田村好史先生
順天堂大学国際教養学部国際教養学科教授、内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」 研究開発責任者。糖尿病の研究を通して痩せ過ぎの人の発症率の高さを知ったことで女性の痩せに興味を持つようになり、マイウェルボディ協議会の代表幹事として「痩せたい気持ちを過剰に作り出してしまう社会」を変える活動を推進する。主な研究分野は、糖尿病、メタボリックシンドローム、スポーツ医学、運動生理学など。
Text: Kyoko Takahashi Editor: Rieko Kosai
