「自分は太っている」と思い込んでいる女性があまりにも多い
なぜ、日本はここまで痩せている女性が増えたのか。田村好史先生が代表幹事を務めるマイウェルボディ協議会による、興味深いデータをご紹介しよう。
全国の16歳〜23歳の女性1,000名を対象に同団体が行った「日本の女子高生・女子大学生における痩せ行動とその影響に関する調査」では、痩せ型女性(BMIが18.5 kg/m2以下)の約18.8%、普通体重(BMI値が18.5 kg/m2以上25 kg/m2未満)の約 53.4%が自身を「太っている」と思っていることが明らかに。つまり、肥満でないのに関わらず「自分は太っている」と間違った思い込みをしている女性が多いのだ。
普通体重の人は、痩せている人と比較して 「自分に自信を持つため」「きれいになるため」など、自信を高める手段としてダイエットを始めた人の割合が高いという調査結果も。マイウェルボディ協議会はこの結果を「『痩せ=きれいになれる=自信が持てる』という思考がある」と分析している。また、「まわりの友達と比較して太っていると感じたから」「周りの友達が痩せているから」など、身近な人との比較や周囲からの評価がきっかけになっている人が2、3割いることも分かった。
一方でスリムなモデルたちばかりが揃っていた時代とは変わり、今はプラスサイズのモデルがランウェイや広告を飾るなど、「痩せた体型=きれい」という従来の美の定義は崩れ始めている。「自分の体をありのままに愛そう」というボディポジティブのムーブメントも見られるものの、現状として「痩せた体型=きれい」という価値観が根強くあるのはなぜなのだろう?
母親、SNSからの影響が大。「160㎝、45Kg」への憧れという呪縛
まず考えられるのは、身近な人の発言に影響を受けていること。マイウェルボディ協議会の調査では、BMI 25.0 kg/m2未満かつ痩せたい願望がある人において、 直近1年でその47.5%が体型に関して他人から嫌なコメントされた経験があることが分かった。「母親から」という割合が最も多く、次いで「兄弟」「父親」と続き、最も身近な存在である家族から体型に関する批判的なコメントを受けることが多いことが明らかになっている。
ここでもうひとつ、興味深いデータがある。痩せた女性の割合は、80年代に驚くほど増えた。90年代にかけて10%から20%台にまで伸びたのだ。「80年代ころにダイエットブームが起こりました。その背景となったのは、仮説ですが、女性タレントやアイドルが身長と体重を公表して、その中で多くが『160㎝、45Kg』と表記したことにあるのではないかと考えています。実際、女性に理想の体重を聞くと45Kgと答える人が多く、さらにその理由を『何となく』と答える人が多いのです。『何となく、体重45Kgが理想』と、刷り込まれてきた可能性があります」と、田村先生は話す。80年代にダイエットに励んだ女性たちが今、母となり、娘に「痩せた体型=きれい」という価値観を無意識に押し付けている可能性もあるのではないだろうか。
さらに、SNSの影響も大きいそうだ。痩せている人は、「同じ身長で自分より体重が少ない情報に触れた」、 「SNSなどで痩せ/ダイエットに 関する情報に触れた」など、痩せに関する情報に接触する割合が高いことが分かっている。
体型について批評する言葉が生む影響力をよく考えて
とはいえ、「痩せた体型=きれい」という意識や刷り込みを、痩せ願望が強い女性たち自らが変えていくのはなかなか難しいのではないだろうか。周りにできることはあるのだろうか?
「『そのままでいいよ』と言われたとしても、多く人は内心『でもね……』と葛藤するのではないでしょうか。その理由のひとつは、社会が痩せたい気持ちを作り出し、こうあるべきという特定の基準を押し付けているからなのかもしれません」と田村先生。「欧米では『体型のことを口に出すのはタブー』という教育が普及しています。日本では、髪型や体型などについて話すことがコミュニケーションのひとつになっていますが、そのような話題に触れるのは誰かを傷つける可能性があると、配慮した方がいいと考えます」
「また、母親世代が娘の体型に口を出さないことも大切だと思います。もしかしたら娘のことを思って言っているのかもしれませんが、それが前編でお伝えしたような健康被害につながる可能性もあるのですから」と続ける。まずは健康な体とは何か、という正しい知識を得ることが必要だ。
体が健康であるだけではなく、精神的にも社会的にもすべてが満たされている状態を、田村先生は「ウェルボディ」と定義。この理念を推進するためには、個人だけでなく社会全体で取り組むことが不可欠だと主張する。「少し太った?」や「痩せていて、いいね」といったやりとりが相手を傷つけ、結果的に「痩せたほうがいい」というメッセージを自分に向けても反芻している可能性も。誰もが自分のボディを受け入れ愛しめる社会を目指して、自分の言動や価値観を見直してみることは、大きな前進になりそうだ。
>>前編では食べない、動かない『エネルギー低回転タイプ』の不健康な痩せが問題。痩せに潜むリスクについて田村先生が解説。
話を聞いたのは……
田村好史先生
順天堂大学国際教養学部国際教養学科教授、内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」 研究開発責任者。糖尿病の研究を通して痩せ過ぎの人の発症率の高さを知ったことで女性の痩せに興味を持つようになり、マイウェルボディ協議会の代表幹事として「痩せたい気持ちを過剰に作り出してしまう社会」を変える活動を推進する。主な研究分野は、糖尿病、メタボリックシンドローム、スポーツ医学、運動生理学など。
Text: Kyoko Takahashi Editor: Rieko Kosai