なぜ、夜食べると太りやすい?
「体内時計を正常に動かし、健康な体を維持するためには、朝きちんと太陽の光を浴びることや運動、食事に注意することが大切です。そのうちの食事に関しては、体内時計の調整に関する要素がまだ十分に解明されておらず、さらなる調査が必要だと感じました。そこで、何を『いつ食べるか?』に注目した時間栄養学を研究するようになりました。一日に何gのタンパク質を摂取すべきか、何gの野菜を摂取すべきかというアドバイスはありますが、それを朝昼晩どのように分ければ良いかに関する情報や国の指針はまだ存在しません」と、田原優先生。体内時計に関する研究を続けるうちに、新しい研究分野として「時間栄養学」に興味を持つようになったそうだ。
中年太りや冬太りが気になる人にとって、時間栄養学を活用して体重をコントロールする方法は何か気になるところだろう。例えば、「朝たくさん食べて夜少なめに食べるといい」と言われるが、それは本当?「本当ですね。やはり比較してみると、朝にたくさん食べている人の方がスリムなケースが多いです。なぜなら、私たちの体は、食べる時間帯によって栄養素の取り込み方や代謝の仕方が変わります。つまり、同じものを食べても、食べる時間によって太ったり痩せたりするのです」
食事内容は変えたくない。でも体を絞りたいなら
体内時計の時刻によって、活躍する臓器もその機能も変わる。体内時計は夜になると脂肪を貯める機能を助けるので、同じものを食べても朝食より夜の方が太るのだそう。「AI食事管理アプリ『あすけん』に蓄積した1万人の記録を解析した結果、体重変化と関連が高かった項目は、夕食時の炭水化物量でした。夕食時にご飯など主食を半分にすると、効果的だといえるでしょう」。さらに、1日のうちで、14〜16時間の食べない時間を作ると、食事の内容に関係なく痩せるということも明らかになってきたそう。習慣化すると食欲も自然に減ってくるそうだ。食事の内容は変えないで体を絞りたい、体重をおとしたい考える人は、8時間食べて16時間断食する「オートファジーダイエット」にチャレンジしても!
女性に不足しがちな鉄分は朝に摂る
生理痛やPMSなど、女性ホルモンの不調を抱えている人が、時間栄養学を味方に体調を整えるとしたらどうすればいいだろう?「女性ホルモンの減少に関係し、また日本女性に不足しているといわれているのが鉄分です。鉄分を摂ると肝臓からヘプシジンというホルモンが出て、その濃度が上がるとこれ以上吸収しないように作用するのですが、そのホルモンは朝よりも夕方の方が高いというデータがあります。つまり、鉄分は朝の方が効率よく吸収できる可能性があります」鉄分はたんぱく質と一緒に摂ると吸収がいいともいわれている。鉄分不足を感じたら、朝ごはんに具沢山のスープを食べてみるなど、工夫してみては?
カルシウムは夜、ビタミンDは朝がおすすめ
鉄分に加えて、カルシウムとビタミンD不足を気にする女性も多いだろう。いつ摂るのがベスト?「カルシウムはまだ動物実験しかデータはありませんが、夜の方が吸収が良さそうです。また、カルシウムは昆布やワカメ、菊芋、大麦など水溶性の食物繊維を多く含む食材と一緒に摂ったほうが大腸での吸収が促進されることも分かっています。一方、ビタミンDのような脂溶性のものは、朝に摂った方がいい可能性があります。というのは、同じ脂溶性のリコピンは朝の方が吸収されるという研究結果があるからです」。時間栄養学の最前線にいる田原先生。食の健康志向が高まるなか、この分野は、今後、どのように進化していくと考えているのだろうか?
「個人の体質や環境、病態などを調査し、それに合った薬を開発・投与するなど、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供するテーラーメード医療が進んでいます。栄養学でも、それに習ってプレシジョン栄養学という言葉が使われるようになってきています。つまり、AIやビックデータを活用して、個人個人に合った時間栄養学的な食べ方を提案することが考えられます」。
自分に合った美味しい食事を、「いつ食べる」も考えながらヘルシーに楽しむ。プレシジョン栄養学が、私たちのQOLをさらに高めてくれそうだ。
話を聞いたのは……
田原優先生
広島大学大学院医系科学研究科准教授。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学専攻卒業。博士(理学)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部助教などを経て、現職。体内時計に関する研究を続け、新しい研究分野として「時間栄養学」の確立に携わってきた。現在も時間栄養学による疾患の改善など、最先端の基礎研究を行っている。著書に『体を整えるすごい時間割』(大和書房)など。
Text:Kyoko Takahashi Editor:Kyoko Muramatsu

