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台湾版『VOGUE』のレスリー・サンと妻・ジョセリン。同性パートナーのふたりが母親になるまで

2022年11月22日、『VOGUE』のAPACエディトリアル・ディレクターと台湾版『VOGUE』のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテントを務める孫怡(レスリー・サン)が、自身のインスタグラムに自身と妻・ジョセリンのマリッジリングの写真を投稿。そして、彼女たちの息子は今、生後5カ月になった。アメリカでの体外受精、出産後の生活、台湾での同性婚の現状など──ふたりの女性が母親になるまでの道のりや家族に対する考えを、たっぷりと語ってくれた。
台湾版『VOGUE』のレスリー・サンと妻・ジョセリン。同性パートナーのふたりが母親になるまで

今回、レスリーとジョセリンにインタビューをする際、まず始めに感じたのは、ふたりの間には確固たる深い絆があるということだ。互いに向ける目線や無意識に触れ合うしぐさからは、愛情が溢れ出ていた。

ふたりは去年11月22日、結婚することを決めた後、人生における次のステップに進んだ。幼い頃から自らの子どもを持つことを夢見ていたジョセリンのためにも、子どもを作ることにしたのだ。

「わたしはずっと子どもが好きでしたが、なかなか家族を作ってもいいと思える相手に出会えず、養子縁組をして子を持つという選択肢も視野に入れていました。そして、あらゆる価値観がぴったりのレスリーに出会ったのですが、実は彼女が子どもが苦手だってことがわかって……」とジョセリンは語る。

一方、以前のレスリーは子どもにまったく興味がなかったものの、ジョセリンに出会ってからは考え方が変わったのだそう。「自分の人生に子どもは不可欠、という考えは一切ありませんでした。でも、『この人となら』と思える相手に出会い、その人がいい保護者であり、いい母親であり、子どもの世話がきちんとできるという確信があったから、喜んでいっしょに育てたいと思えました。実際、ジョセリンはほんとうに子どもが好きで、すばらしい母親です。子育てにおいても文句なしで、最高のパートナーです」

子どもを授かるまでの長い道のり

年齢を考えると、子どもがほしいならふたりは即行動に移す必要があった。しかし、台湾の法律では同性カップルの出産は認可されないため、アメリカへ渡って体外受精にトライするという選択に踏み切った。

だが渡米後、ふたりは簡単に考えすぎていたかもしれないことに気づかされることになる。3カ月ほど滞在すれば、自然と結果が出るものだと思っていたのだが、実際はちがった。

卵子を取った後に受精、それがうまくいったら5日間の培養期間待ち。受精した卵子が成長して胚となり、それが正常に分化したかを確認してから、さらに遺伝子検査を行う。そこで胚に染色体異常が認められた場合、病院は胚移植を勧めない。

年齢やその他の要因から、成功するまで合計7回の採卵を要した。「失敗の知らせをもらうたび、ほんとうに落ち込みました。一カ月分の針を打ち終えて卵を取ってからも、さらに2週間の結果待ち。そして、結果がまたダメだったと知ってはがっかりの繰り返しでした」と、ジョセリンは当時を振り返る。

ふたりの卵子を取り、どちらが受精したかは調べないという選択に

レスリーは、横にいる骨抜きにされるほど可愛い笑顔の赤ちゃんを見つめながら、「今、振り返ると、出産までの日々は永遠に忘れられない思い出です。このプロセスをジョセリンと一緒に歩めて、ほんとうによかったです」

当時、ロサンゼルスで朝晩を共にしていたふたりは、互いに注射を打ち合い、最終的には月経周期も合うように調整を進めた。同じ日に卵子を取り、同じ日に自分たちで選定した精子と結合させた。最後に受精させる時には、注射針を刺すタイミングまでもピタリと合わせたという。

「一度、予約が困難なことで知られている有名レストランを取ったことがあったんです。でも、後からその日がちょうど注射日の夜だったことに気づいて。仕方なく、注射針とアルコール綿、保冷剤を入れた保冷袋を持ってレストランへ行きました。時間になったらトイレにかけこみ、互いに注射を打ち合いました」

いっしょに注射をし、いっしょに卵子を取ることで、辛さを感じることはほとんどなく、かえってロマンティックだったという。彼女たちはその後、受精した卵子がふたりのうち、どちらのものだったかを調べないという選択をした。「生まれた子がどちらの卵子から成長したかどうかは関係ありません。わたしたちが最後まで一緒に参加していた、その気持ちは同じだったから」

忙しかった生活が一変。大人として、課題と向き合う日々

レスリーはそばにいる子どもを見つめては目を細め、微笑んでいる。そんな彼女を見ながら、ジョセリンは言う。子どもを授かってからの自分は、まるで透明人間になったようだ、と。レスリーのほうは、人づき合いで忙しかった生活が一変したという。「息子があまりに可愛いので、出かけたくなくなりました。それに、昔は寝起きが悪かったのですが、今は目が覚め、この子を見た瞬間に不機嫌な気分が吹き飛びます」

子どもを持ったことで、一夜にして成長した感じがするとレスリーは続ける。「結婚しようがしまいが、わたしたちの生活に変化はありません。わたしは相変わらず幼稚だし、手抜きしたいときは手抜きしますし。でも、子どもができてからは大人として課題と向き合わないといけないので、ふたりでとことん話し合います。ひとつの命に責任を負わなければならないのですから、手抜きをする余地なんて皆無なんです」

子どもの頃から、母親になるのが夢だと言っていたジョセリン。彼女にとって息子のカイとレスリーと共に築く家庭は、まさに長年の夢であり、だからこそ強く感じるものがあるという。「母親はほんとうに偉大です。これからもずっと学び続けなければなりません」。ふたりにとっては、母親のみならず、子どもたちの保護者は、みな偉大だ。未来を担う次の世代のため、最適な決定をしなければならないのだから。

「息子がベストな自分でいられるよう、背後で応援する親でありたい」

レスリーは今まで、自分が母親になるなどとは考えもしなかったという。この経験はまるで冒険旅行のようで、あらゆることが新鮮で楽しい。だが、もちろんそれだけではなく、難しい一面にも直面する。例えば、教育問題。解決策を導き出すには、気持ちのやり取りを続け、共通の答えを見つけていくしかない。そうやって子育てをしている。

「まだずっと先のことですが、わたしは『息子がベストな自分でいられるよう、背後で応援する親でありたい』と思っています。多くの親は時に、子どもの身の上に個人の価値観を押しつけがちですが、自分はそうならないよう努めたいです。彼はどんな子どもなのか観察し、型にはまったものではなく、彼に合った教育方法を選択したいです」とレスリーは話す。

ジョセリンは微笑みながら、自分が望むのはカイが健康でハッピーで可愛い子どもであることだと続ける。「みんなわたしたちの子がダブルだと知ると、それならぜったいハンサムだね、と言います。でも、わたしが望むのは彼がみんなに好かれる、性格のいい子になってほしいということです。母親でいる日々は、選択の連続です。今の決断はまちがっていなかったのだろうかと、ふと考えてしまうことがあります。自分を責めるようにして。だって、彼の人生に影響を及ぼすことなのですから。でも、気づきました。いちばん大切なのは、自分が完璧な母親になることではない。この世に完璧なものなどありません。それでも、自分は子どもといっしょに幸せな母親になることができるのだと」

変化する家族のかたちと社会

人々の価値観がアップデートされた今の台湾では、家族のかたちはさまざまだ。ジェンダー平等という価値観も根づいていると、ふたりは思っている。誰も自分たちを変な目で見たりはしないし、外出先で相手を「奥さん」と呼んでも変に思う人もいない。だが、同時に不安もゼロではない。

「わたしはカイが学校に通うようになってからが心配です。ほかの子のお父さんとお母さんを見て、自分にはお母さんがふたりいることに適応できないのではないかと。でも、友人がこんなふうに言ってくれました。今の学校は多様性に重きを置く教育をしていて、中学生でさえ自分の母親を教育してくるそうです。同級生にお父さんがふたりいても、ちがいはない。愛は愛なのだと」とジョセリンは語る。

現代社会において、性的マイノリティや同性結婚、男女平等についての論議はよりオープンになったことはふたりとも認めている。しかし、アメリカで子作りを経験したことから、台湾は同性カップルが形成する家族のサポートに関しては、まだまだ不十分な点が多いとも感じているという。

レスリーがSNSに子どもの写真をアップすると、たくさんの同性愛者からプライベートメッセージが届いた。今の台湾の法律は、LGBTQ+の家族が真の意味で家族形成ができるところにまでは至っていない。2019年に同性結婚が合法化されたとはいえ、同性愛者の婚姻には、異性結婚のような保障がないのが現実だからだ。

レスリー曰く、「同性カップルは結婚できても、家族を形成するのに必要な関連付帯法規がまだありません。台湾では人工授精を受けるにはふたりが婚姻関係にあり、一定の経済条件を満たしている必要があります。しばらく海外に滞在し、それでようやく自分の子どもをもつチャンスが得られるというのは、残念な気がします」

愛こそがすべての答え

レスリーにとっての子どもというのは、婚姻の延長にあるものだという。「大切なのは、自分たちは気持ちの準備ができているかということだと思います。それができて初めて、前に進めます。同性、異性カップルどちらにも言えることですが、ベースさえしっかりしていれば、子どもを授かってから次々と訪れる課題に挑むことができます。問題に立ち向かい、考え、とことん語り合わなければなりません。やはり最後は、自分たち自身の関係と婚姻に立ち戻ることになります」

ふたりの関係は疑う余地がないほど良好なので、友人はみな口を揃えてカイは幸せな赤ちゃんだと言う。幸福なその状態は、ジョセリンが長いこと憧れてきたものだ。そして、こう続ける。

「レスリーによく言うんです。『わたしの小さい頃からの夢を叶えてくれてありがとう』と。カイを見ているだけで、込みあげてくるものがあります。実際、彼が眠った後によく、ふたりで彼の写真を見ることがあります。互いに可愛いねと言って、それからバカみたいに笑い合うんです。両想いになって結婚し、子を授かって出産し、そして家族ができた。そのすべてが不可思議で、今も信じられないくらいです」

Photographer: Zhong Lin, Text: Nicole Lee, Hair: Miley Shen, Makeup: Sting Hsieh

Text: Nicole Lee Translation: Tomoko Kondo
From VOGUE TAIWAN