ファッション業界で働く私に、ある転機が訪れたのは2019年のこと。ニューヨークの2020年春夏シーズンで自分と同じような体型のモデルたちを目にした私は、驚きとともに歓びの気持ちでいっぱいになった。クロマット(CHROMAT)、エクハウス ラッタ(ECKHAUS LATTA)、クリスチャン・シリアノ(CHRISTIAN SIRIANO)、エリア(AREA)、プラバル・グルン(PRABAL GURUNG)などのブランドが、ファッションの未来に希望を与えてくれた瞬間だった。
それ以前は、この業界は明らかに私を必要としていないという認識があったため、私は自分の外見について常に申し訳なく思っていた。だからこそ、ランウェイを堂々と歩くプラスサイズのモデルを初めて見た時、私はようやく胸を撫で下ろすことができ、私もここにいて良いのだ、と居場所を見つけたような気持ちになった。私自身もそうだが、ファッションからずっと除け者扱いされ続けてきた他の何百万人もの女性たちにとって大きなターニングポイントとなり、ポジティブな変化をもたらしたはずだ。
2023-24年秋冬、プラスサイズルックはたった0.6%
しかし、2023-24年秋冬ランウェイを振り返ると、この一度は湧き上がったボディ・インクルージビティへの希望は薄れたように映る。それもそのはず、Vogue Business Size Inclusivity Reportによると、このシーズンを通して発表された全ルックのうち、プラスサイズのルックはわずか0.6%に過ぎなかった。思わず二度見してしまう統計だが、これはつまり、4つのファッション都市で開催された219のブランドのうち、プラスサイズのルックが登場したのはわずか17ブランドだったことを意味する。世界のプラスサイズ市場は今年2880億ドルに達すると予測されているにもかかわらず、だ。 今シーズン、ボディポジティブからの後退は明らかであり、未だ見過ごされがちなプラスサイズのコミュニティは落胆の色を隠せない。
パンデミック以降、ランウェイショーで繰り広げられてきたひとつの流れがある。サステナビリティ、ダイバーシティ、インクルージョンの推進は中断され、多くのデザイナーたちは「人々に再び活力を与える」という共通の課題に取り組むことを選択してきた。その結果、2023-24年秋冬が映し出したのは、ポストパンデミックにおける「新しい普通」。しかしこの「新しい普通」は憂慮すべきもので、糖尿病治療薬「オゼンピック」や「ヘロイン・シック(90年代初頭に登場したトレンド。痩せた体、青白い肌、目の下のクマなどにより、ヘロインを打った直後のような見た目を指す)」などの流行を背景に、ボディ・インクルーシビティはさらに脇へと追いやられてしまったのだ。ファッション業界がかつて私に差し伸べてくれた手は、今やとても冷たく感じられる。
“ボディポジティブ”を一過性のトレンドにしないために
過去のものとされつつあった「細い」「痩せている」という理想の体型が、再び美化されつつある今、ある女性の身体は一過性のトレンドとされ、またある女性の身体は完全に無視されてしまうのだろうか。私自身もショーで見たものの99パーセントを着ることができないままレポートするのは苦痛だし、見掛け倒しのインクルーシビティや、ただチェックリストをつぶすに過ぎないような現在のあり方は、問題でしかないと言っても過言ではない。
2023-24年秋冬に登場したプラスサイズのルックは両極端なもので、あるモデルは体型を隠すようなオーバーサイズの服に包まれ、あるモデルはボディラインがはっきりとわかるぴったりとした服を着ていた。ありとあらゆる体型を尊重し、配慮された美しい服は、デザインの範囲に含まれていないとさえ思えたのだ。私は長い間、自分の好きな店に入って、自分の好きな服を自由に買えたら、どんなに素晴らしいだろうと想像してきた。ファッションは気分を高めてくれる最も強力なツールのひとつであるにもかかわらず、私のような身体を排除しようとする業界のスタンスは、孤立感をもたらすほかない。
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しかし、希望の光は完全に消えてはいない。モデルのフェリシティ・ヘイワードは、自身がスタートさせた「#includingthecurve」キャンペーンで今シーズンのインクルージョンの進捗を追跡しており、パリにはこれまで以上にプラスサイズのモデルがいたと発信している。また、UK版『VOGUE』の4月号の表紙では、ジル・コートリーヴ、プレシャス・リー、パロマ・エルセッサーをイット・モデルとして讃え、彼女たちの身体美にスポットライトを当てている。私がこの業界に入った約10年前を思い起こすと、着実に前進している感触はある。しかし、それだけでは十分と言えない。なぜなら、私たちは常に前進し続けなければならないからだ。そしてそれは、過去にとらわれず、未来へと目を向けることで、初めて実現することができるのだと思う。
Text: Billie Bhatia Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK