自由な外出が憚られたコロナ禍で、私たちの多くは着心地の良いルームウェアやシューズに目を向けがちだった。そんなファッションの流れに一石を投じたのが、ケイシー・カドワラダー率いるミュグレー(MUGLER)だ。メーガン・ジー・スタリオンやクロエ・セヴィニー、マドンナの娘のローデス・レオンら、豪華キャストをフィーチャーした2022年春夏コレクション映像は瞬く間にSNSで反響を呼び、リスクを恐れないセクシーかつフェティッシュなデザインの数々は「ボディコンシャス」や「ボディポジティブ」の定義を押し広げた。
クチュールウィーク最終日に
今シーズン、カドワラダーは2023-24年秋冬コレクションをあえてクチュールウィークに披露し、See Now Buy Now(今見て、今買う)形式で発表することを決めた。このことについて彼は、「このタイミングでショーを行うのは、悪事を働いているようなもの。ミュグレーでは、やりたいことは何でもやるのがモットー」とバックステージで話す。さらに彼はこうも付け加える。「私たちのやり方はかなり異端。コミュニケーション、そして見る人を楽しませようという点では、とてもうまくいっていると思う」。モデルたちの才能と身体美を讃えたランウェイショーは、階段の上に設置された巨大スクリーンにも映し出され、当然ながらインターネット上でもライブ配信された。
スーパーモデルによる力強いパフォーマンス
台車に乗ったカメラマンたちは、颯爽と歩くモデルたちをクローズアップして撮影する。アルカ、ジーウェ、オマヒラ・モタ・ガルシア 、イリーナ・シェイク、パロマ・エルセッサー、マリアカルラ・ボスコーノ、シャローム・ハーロウ、アンバー・ヴァレッタ、エヴァ・ヘルジゴヴァと、実に多彩なキャスティングだ。
彼女たちが髪を振り乱したり、ハンドバッグを振り回しながらレースのボディスーツを着たダンサーたちとともにパフォーマンスするシーンでは、観客席から歓喜の声が上がる場面も。そして彼女たちは一人ずつ別の台車に乗り込み、カメラの前でドラマティックで挑発的なポーズを見せつけた。
いつまでも変わらないミュグレーの本質
ファッションについてはと言うと、レザーとレースのコレクションというカテゴライズでは到底カバーしきれない。ただひとつはっきりと言えることは、ボディスーツから吊り下げたレザーチャップスやアシンメトリーのモーターサイクルスーツ、そしてストレッチの効いたレースルックなど、きわどいルックのすべてが奇跡的に、そしてありがたいことに、あるべき場所にきちんととどまっていたということ。
そしてそれは、かなりテクニカルな技術がもたらした成果でもある。カドワラダーが手がける今のミュグレーと、ティエリー・ミュグレーの華麗なオートクチュールを比較するのは至難の業だ。身体とアイデンティティを包括するという点では、カドワラダーは間違いなく亡き巨匠を凌駕していると言えるだろう。しかしティエリーもまた、カドワラーのようにファッションショーを映画のようなスペクタクルとして演出した人物だ。そしてそんな彼に対して目を丸くし、「これがファッションなのか?」と疑問を問いかける批評家もいた。いくら時代は変わっても、このメゾンの異端性はずっと変わらないのかもしれない。
Text: Sarah Mower Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.COM