意図せず結婚式前に行くことになったハネムーン
原則として余計なこと、特に他人の恋愛、には首を突っ込まないようにしている。しかし、人は心動かされる体験をすると、そのことを共有したくて、ついあれこれ口出ししてしまいたくなるものだ。それを踏まえた上で、今婚約中の人たちに伝えたいことがある。
「ハネムーンは結婚式の前に行くべき」
少し意外に思えるかもしれないが、私と婚約者もこの夏、実際に式を挙げる前にハネムーンに行った。当初はそのつもりはなかった。だが、ひとたび旅の計画を練り始めると、意図せずハネムーンをプランニングしていることに気づき、すぐに方針を変えた。「マインドフル」という言葉は大嫌いだが、ただむやみに旅行のプランを組むのではなく、式前に二人の仲をさらに深める機会として意識して計画を立てていったところ、思いの外最高の旅になった。
「今、この瞬間」を大切にする旅
このことについて書くことになったとき、私たちと同じようにしきたりの逆を行くカップルの体験談を探した。あらゆる投稿をあさり、人の話を聞いた結果わかったのは、結婚式前に行くハネムーンのことを“プレハネムーン”と呼ぶ人はほとんどいないが、2017年頃には“アーリームーン”たるものがトレンドに浮上しているという記事がいくつかあった。キャサリン皇太子妃の妹、ピッパ・ミドルトンが結婚式の前に夫とセントバーツ島に行ったことも、アーリームーンが一時的に取り上げられていた一因のようだが、多くのネットトレンドのようにそのブームは去っていった。とはいえ、アーリームーン(またはプレハネムーン)を選ぶカップルがまったくいないというわけではない。ニッチなコンセプトにとどまっているだけだ。
「式を予定している人の多くは、準備期間のこの時期になると貯金が底をついているように感じ始めるので、私自身、プレハネムーンに行くことを選ぶカップルはあまり見たことがありません」とOver the Moon創設者のアレクサンドラ・メイコンは言う。お金の問題がなければ、誰もが式の前にも後にもハネムーンに行くだろう。けれど、予算もあるし、有給休暇も限られている。人生はどうにもならないことだらけだ。
私はフリーランスのジャーナリストなので、高級取りではないがスケジュールには融通が利く。今回は南フランスの新しいリバークルーズを取材するためにすでにヨーロッパへ行く予定だったので、残っていたマイルを婚約者の航空券にすべて当て、結婚資金には手をつけずにプレハネムーンに行くことができた。最終寄港地のリヨンで取材を終えて、そこからパリ、サントリーニ島、ケファロニア島、そしてアテネへと向かう旅程にした。
従来のハネムーンよりも充実した時間
「心から何かを楽しむ」ことがいかに難しいかということについて、高級旅行プランを専門に扱う旅行会社、ブラック・トマトの創設者であるトム・マーチャントと語り合った。人間は目の前にある幸せよりも、フライトの欠航などといった嫌な出来事の方が心に残りやすい。「感情が高ぶっている結婚式直後に旅行に出ると、慌ただしい旅になることがあります。プレハネムーンにはその忙しなさがないので、二人の充実した時間をもっと確保するという本来の目的を果たすことができます」と彼は言う。
振り返ってみると「今、この瞬間を楽しむ」ことが、自然と私たちのプレハネムーンのテーマとなっていた。というのも出発前、パートナーが親友を心臓発作で突然亡くした。悲しみも背景にした旅になったが、大切な人と一緒に過ごせる時間と、一緒にいられる時間そのものが私たちにはあることに感謝する旅となった。式を挙げる8月10日までに帰ってくる気満々ではあったが、人生何が起こるかわからない。式の準備に夢中になるあまり、そもそも婚約できていること自体に対する喜びを忘れてしまってはいけないと学んだ。
客観的に考えると、タイミングを優先してプレハネムーンを選ぶのもとても合理的だ。過去にはプレハネムーンの相談をしに来たクライアントもいるというCartology TravelのCEO、キャシー・ボートは「理想のハネムーンのベストシーズンは、結婚式の日程と合わないかもしれないので、目的地の一番いい時期に合わせて、フレキシブルに旅行の日程を組めるのは大きなポイントです」と語る。
また、同じくプレハネムーンを担当したことがあるマーチャントも、柔軟にスケジューリングできるプレハネムーンにすると、そのときベストシーズンの場所の中から行き先を選ばなければならないという式後のハネムーン特有のプレッシャーが減り、もっと冒険した旅先を選ぶ気持ちになれると言う。「計画の観点から見ると、(プレハネムーンには)もっとたくさんの想いが込められることが多いので、プランニングしがいがあります」
式の何ヵ月か後に行くのもいいが……
ではわざわざ式の前ではなく、結婚式を挙げた数カ月後にハネムーンに行けばいいのでは?という声も聞こえるが、何カ月か空けてから行く人が少ない理由はふたつ考えられる。
まず、「いずれ行く」と言った私の友人や家族のうちのほとんどは、結局日々の生活に追われてハネムーンには行っていない。そして、「期待」という感情には勝てない。結婚式においてもそうだが、たいていの場合、何事も終わった後よりも始まる前の方がよりワクワク感が強いと個人的には思う。もちろん、ハネムーンに行くためだけに結婚するわけではないが、式の前と後、どちらのタイミングで行くのが一番高揚感を味わえるかというと、私は前者に一票入れる。
プレハネムーンで改めて気づいた、大切な人のありがたみ
私とパートナーはどういうプレハネムーンにしたかというと、まず19世紀に建てられたシャトーの中にあるパリのホテル、ザ・セント・ジェームス・パリに一泊した。あまりにも素晴らしくて、滞在中は一歩もホテルの敷地を出なかった。次に向かったのはサントリーニ島。二人とも行ったことがなく、典型的なハネムーンプランで行くのも悪くないと思い、最もベタな新婚旅行先のひとつである場所を選んだ。実際に訪れてみると、夢のようなロマンティックな場所で、みんなが行く理由がわかる。
メガロチョリ村のヴェデマ リゾートと、イアにあるアンドロニス アルカディア ホテルに泊まった私たちは、黒砂ビーチで日光浴をし、イエア・ワインズでアシルティコを試飲し、あらゆる場所から夕日を眺めた(特にヴァルルコからの夕日が最高だった)。二人でマッサージを受け、ターコイズブルーのエーゲ海に一緒に岩から飛び込み、獲れたてのタコやシーフードのテイスティングメニューを食べ、毎日心ゆくまで楽しんだ。泊まったホテルはどちらも心からおすすめできるところで、控えめに言って人生が変わるようなひとときを過ごした。
「結婚式の前に旅行に行くメリットのひとつは、そもそもなぜ結婚するのかを再確認できることです」と語るのは、ニューヨーク州公認のサイコセラピストで、Holistic Psychotherapy NYCの共同経営者であるサラ・スピッツ(LCSW)。自然が好き、史跡が好き、新しいレストランを開拓するのが好き。二人の関係のあり方、共通の趣味、お互いを特別な存在だと思っている理由を見極めれば、二人に合った旅を計画することができると彼女は言う。
私と彼は二人とも大のアウトドア派で、ドライブ好きだ。そして私はサメは苦手だが、彼が夢中なシュノーケリングも好きになろうと努力しているので、サントリーニ島の次に訪れたケファロニア島では、これらすべてを盛り込むプランにした。宿泊先に選んだのは、The Thinking Traveller経由で見つけた、とんでもなくロマンティックで、まるで映画に出てきそうな崖の上のヴィラ。
そして旅の最後に訪れたのはアテネ。おしゃれなプシリ地区に落ち着き、新しくオープンしたアポロ パーム ホテルで二泊、ブティックホテルのモナにさらにもう二泊した。留学から帰ってきたばかりの学生のようなことを言うが、アテネは自分の人生や、自分が人類のタイムラインのどこに立っているのかについて真剣に考えさせられる街だ。また、大切な人のありがたみを感じられる場所でもあることを知った。「大切な人の目を通して世界を見ることで、体験していることやパートナーについて新たな発見を得たり、感謝の気持ちを覚えることができます」と語るスピッツ。この言葉は本当に響いた。
私の携帯には、2400年前に建てられたヘーパイストス神殿の写真ではなく、それを見上げるパートナーの写真が56枚ほどある。なぜなら、愛する人が言葉では言い表せないほど美しいものを初めて見る姿の方が、ずっと心揺さぶられるからだ。
二人のこれからについて考えるひとときに
プレハネムーンの目的は、贅沢をすることでも遠方へ行くことでもない。二人の思い入れのある旅になればそれでいい。私たちのプランには思い切った部分もあったが、決して豪勢な旅をするのが目的ではなかった。
「B&Bで過ごす静かな週末であれ、お気に入りのホテルでのステイケーションであれ、プレハネムーンは、式当日の忙しなさで見失いがちな、二人がこれから誓い合うことの意味に想いを馳せる静かなひとときであるべきです」とメイコン。
確かにメイコンが言うように、私たちに倣わなくても今後の結婚生活に影響はないだろう。プレハネムーンに行くのもよし。二人がそれでいいなら式から空港に直行してもよし。何なら友人や家族をハネムーンに招待したっていい(昨年そうした友人がひとりいるが、楽しそうだった)。おそらく多くの人たちは、時代遅れのしきたり通りに一連のイベントをやることに意義があるというウエディング業界の風潮が嫌いなのだろう。なので、自分のハネムーンを計画しているときは、ぜひ自分に問いかけて欲しい。自分とパートナーにとって最高の思い出となる、一番のプランは何なのかと。
Text: Nicole Kliest Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
旅のエキスパート、ダージリン コズエが綴るハネムーンの旅先。今回はバレンタインにちなみ、彼女がよく訪れる街、パリをご紹介。とはいっても今回は観光先ではなく、パリという街が持つ不思議な魅力について。ハネムーンにもぴったりな、この街ならではのロマンティックな魅力とは?
