ダイナミックな光景が楽しめる、ガラス張りの柱廊
箱根湯本から箱根登山鉄道で約40分の強羅駅から、徒歩3分ほどの場所にある「強羅花壇」。国内屈指の名宿として名を馳せるこの宿の真価は、実際に泊まってみれば明白だ。富士の裾野から湧き出る豊富な源泉が楽しめる名湯の宿であり、滋味深い季節の食材を活かした懐石料理を供する美食の宿であり、細部まで行き届いたサービスを提供するもてなしの宿であり、また由緒ある閑院宮親王の別邸を受け継ぐ建築美の宿でもある。言い換えれば、それらがすべて揃った至高の宿であり、どこを切り取っても本物なのだ。
強羅花壇といえば、宿の象徴ともいえるガラス張りの柱廊だろう。ロビーから一番先の月見台まで120mの廊下が一直線に延びる。高い天井と瓦を磨き上げたという黒光りする床、両サイドのガラスの格子窓を通して見えるダイナミックな光景は感動ものだ。
閑院宮載仁(ことひと)親王が避暑のために建てた由緒ある別邸に、旅館として新しい命を吹き込んだのが昭和22年のこと。平成元年には全面改装を行った。和と洋の建築様式が共存し、四角形や八角形、直線などのさまざまなシェイプを組み合わせた構造美が、独特の雰囲気を作り出している。館内は解放感にあふれ、枯山水をイメージして丁寧に手を加えた庭園とその背景に広がる強羅の豊かな自然をいたるところから見ることができる。
美しい枯山水庭園を臨む客室
客室は全41室。ここでは露天風呂付きの「離れ」か「別邸」をぜひセレクトしたい。そろそろ出てくる夏の疲れの癒すために、とことんラグジュアリーな客室で、1泊2食のひとりお籠りの滞在を。少々奮発とはなるものの、明日への活力になるに違いない。高級化粧品に投資するよりも効果的に美しい笑顔を取り戻すことができ、心も体も元気になれるかも。
美食の宿としても知られる強羅花壇だが、昨年、東京・銀座のミシュラン店「鮨 よしたけ」が監修する「鮨 かだん」が新たに加わった。カウンター8席のみの店は、銀座界隈の高級店がそのまま引っ越してきたようなもの。よしたけのスペシャリテである蒸し鮑のキモソースはもちろん、マグロ、ウニ、小肌など、最高の素材を活かした江戸前鮨がいただける。都心の高級鮨に一人で出かけるのは、かなりハードルが高いかもしれないが、滞在中の宿のディナーなら、そこまで気負わずに楽しむことができる。このところグローバルブランドの新しいホテルが、鮨屋を置くことも珍しくないが、それらと比較しても過去一の満足度だった。宿泊者以外のゲストも利用可能なので、宿泊予約の際のキープは必須だろう。
柔らかい肌触りの自家源泉で疲れを癒して
鮨を堪能したあとは、お待ちかねの大浴場へ。3本の源泉のうち、2本は庭園内より湧出する自家源泉。泉質は無色透明の弱アルカリ性単純温泉で、柔らかい肌触りの湯には冷え症の解消や疲労回復の効能がある。開放感あふれる大浴場は、深い緑に囲まれ、朝、夜と見事に表情を変える。露天風呂に浸かっていると、登山鉄道の音が時折聞こえ、ノスタルジックな風情を醸し出す。湯上り処には、冷たい飲み物が用意されていて、マッサージチェアでまったりとする。チェックアウトまで利用できるのはありがたい。
これだけ次々とホテルや旅館がオープンしていくなか、新しい宿の便利さ、快適さは言わずもがな。
ただ、新設されたホテルには決して望めない、歴史ある宿が培ってきた伝統と、箱根・強羅の自然を最大限に活かし、それらを常に磨き上げ、古くなれば修繕してさらに熟成を重ね、“経年変化”していく様こそが、強羅花壇の魅力だ。しかも歴史と伝統を重んじながらも、それに甘んじることはなく、時代の変化に合わせて進化していく。常に8割以上の稼働率を誇る人気の秘密はそこにあるのだと実感させてくれる宿だ。
強羅花壇
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300
Tel./0120-131-331
料金/1室1泊126,000円~(2名利用)※2024年9月現在
https://www.gorakadan.com/
Photos: Courtesy of Gora Kadan Text: Yuka Kumano Editor: Mayumi Numao